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204話

 

 ミッドタウンのエレベーターシャフト前の広場には、子供からお年寄りまで色々な人が居て、その人たちが一列に並び、入場口で憲兵さんに色々と調べられていた。でも、その列はかなり短い。



「あまり人が多くないみたいですね」

「そう? いつもこんなものよ? あぁ、なるほど。君たちはもしかしてミッドタウンに来るのは初めてなのね? もしかして、ロワ―タウンから出た事も無かったのかしら?」

「え? えぇ、まぁそうですね」



 ロワ―タウンどころか、この世界の人間じゃないなんて言えない僕は、話を合わせる。



「それじゃあ無理も無いわ。ロワ―タウンのエレベーターが一番混むのだから」

「そうなんですか?」

「えぇ。あそこは人と、人為らざる者の分岐点だもの」



 どこか悲し気なシーラさんは、風で揺れた茶色の長い髪を押さえ付ける。



「さて、それじゃあ行きましょうか。二人とも、私から離れないでね」

「「はい」」



 一瞬だけ俯いたシーラさん。でもすぐに顔を上げると、入場口へと歩き出す。その後ろをメイド姿のアカリがピタリと付き、その少し後ろをシーラさんの荷物を持った僕が付いていく。

 シーラさんの歩く先は、人が並んでいる列の最後尾──では無く、その横にある、通用口みたいな場所だった。


「ん? なんだ、お前ら?」 その通用口に立っていた背の高い衛兵さんが、近付いてきた僕たちに声を掛けてきた。すると、



「皆さん。お疲れ様です」

「──!? こ、これはシーラ階長!?」



 シーラさんの声掛けに、その衛兵さんは背筋をピンと伸ばして、敬礼する。その横に居たかなり若い、短い金髪の衛兵さんも、ピシッと敬礼していた。



「どうしてこちらに!?」

「上からの指示よ。護衛の、ね」



 そう言うなり、来ていた灰色のスーツの内側に手を入れ、一枚の紙を取り出すと、それを背の高い衛兵さんへと渡す。それを受け取った衛兵さんが紙を開き、中を確かめた。



「今年も、ですか。大変ですね」

「いえ。ですが来年は、すべて上だけで完結して欲しいものです。私も暇ではありませんからね」

「珍しいですね、シーラ階長が愚痴なんて」

「おい、こら!」



 紙に書いてあるだろう文字を読み進めながら、シーラさんを労う背の高い衛兵さん。その衛兵さんにシーラさんが言葉を返すと、今度は若い衛兵さんがシーラさんに話し掛ける。その内容に、紙を読んでいた背の高い衛兵さんが注意するが、



「良いのです。実際、愚痴を言っている様なものですから……」

「済みません、あとでコイツにはきつく言っておきます。それで、そちらの二人は?」



 紙を読み終えたのか、きれいに紙を折りたたみながら、背の高い衛兵さんが僕とアカリに目を向ける。


(き、来た!)


 荷物を持つ手にギュッと力が入る。僕たちを見る衛兵さんの目は鋭く、怖い。だけど、今の僕はそんな事よりも、アラン兄の立てた作戦の内容を思い出すのに必死だった。



 ~  ~  ~  ~



「──という訳で、坊主と嬢ちゃんはその紙袋の中に入っている物を着て、シーラと一緒に行ってもらう」



 作戦会議の最後に、アラン兄は僕とアカリを見てそう言ってきた。確かに机の上に置かれたアラン兄の考えた『ノインちゃん奪還作戦』にはそう書いてあるけど、そんな事をいきなり言われても困ってしまう。


 チラリとシーラさんを見る。”裏”でアラン兄と組んでいたというだけあって、とても頼れる、大人の女性という事は伝わってくるけれど、それだけで、抵抗無く一緒に行動出来るかと言われれば、ちょっと違うよな。なら、良く知るアラン兄と行動したい。



「そ、そんな事をいきなり言われても困るよ! アカリだってそうだろ!?」

「いえ、私は別に? ユウと一緒だし、弱犬と別れられるし、問題無いわ」



 援護してもらおうとアカリに話を振ったが、アカリは僕と違ってすでに納得していた。そんなにアラン兄と一緒に居たくないのか!?



「って、そうだ! アラン兄は?! アラン兄はどうするのさ!?」

「ん? 俺たちか?」



 アカリに期待出来ない以上、自分でどうにかするしかないと、僕はアラン兄に質問する。作戦の書かれた紙には、アラン兄とノエルさんの行動が掛かれていなかったからだ。何とかそこを突いて、じゃあ、皆で行くか?という流れに持っていきたい!

 すると、アラン兄はクルクルと作戦の書かれた紙を丸めると、黒いズボンの後ろポケットに無造作に突っ込みながら、



「顔の割れている俺とノエルは、別の方法で【トップタウン】に行くんだよ」

「待ってよ! だったら僕たちも一緒に──!」

「──そりゃ無理だ! さっきも言ったが、【大回廊】は奴らに押さえられちまってるからよ」

「そんな! それこそ二人も無理なんじゃ?!」

「いや、俺とノエルの二人ならなんとかなると思う。抜け道も多いしな。でもよ、さすがに大所帯となるとそうはいかねぇんだ。分かってくれ」



「ってか、そんなに俺が好きなのか?」 アラン兄が口を歪め、底意地の悪そうな目で僕を見る。そういう事じゃないっていうのに!



「ユウ君、で良いかしら?」

「は、はい?」



 すると、話を聞いていたシーラさんが僕の前にやってきて、自分より背の低い僕に合わせる様に前かがみになった。



「そんなに私と行動するのが嫌なのかしら?」

「い、いえ!? 別に嫌という訳では無いんです。ただ、慣れない人と一緒だと、とても緊張してしまうので」

「そうなのね」



 別に悪い事をしている訳じゃないのに、思わず俯いてしまった。慣れない人、それも女性だとやっぱり緊張しちゃうよな。しかもこんなキレイな女性だとなおさらだ。

(シーラさんを呆れさせちゃったかな) 心配する僕の頭に、いきなりポンと手が乗せられた。シーラさんだ。シーラさんはさっきよりも顔を僕に近付けると、零れた髪を耳に掛ける。フワリと良い匂いがした。



「シ、シーラさんっ!?」

「ユウ君、アランの考えた作戦は、確かに所々問題が有るわ。そのせいで不安になるのも判る」

「おい、坊主はそんな事を言ってねぇぞ?」

「でも安心して。アランより私の方が頼りになるはずだから。だから信じてちょうだい。お願い」

「シーラさんもこう言っているのだし、信じてあげましょうよ、ユウ」

「アカリ……」



 シーラさんとアカリからお願いされてしまった。ならば、一人でウジウジ考えてもしょうがない! 僕も男の子だ! 女性二人からお願いされては断れない。



「……はい、分かりました。ワガママ言って済みません、シーラさん」

「良いのよ。誰にでも不安はあるものだから」



 そう言って、シーラさんが僕をそっと抱きしめる。それを見たアカリとアラン兄が、「あぁ~! 何してんのよ!!」「な、何してやがるっ!!」と、一斉に抗議してきた。



 二人の抗議を軽く流したシーラさん。最後にポンと背中を軽く叩いて僕から離れると、「うん、もう大丈夫ね」と体を起こす。するとすぐさま、アカリが僕の前に立っては、「う~!」とシーラさんを威嚇した。


「んだよ、シーラ。お前は何時から年下趣味(ショタ)になったんだ?」

「あなたは黙ってなさい」



 僕から離れたシーラさんは、まとわりついてきたアラン兄の顔に手を当て無理やり離すと、部屋の出口へと向かう。そして、部屋から出る前に振り返ると、「じゃあ、当日宜しくね」と、片目を瞑った。



 ~  ~  ~  ~



(た、確か作戦には、入場口では怪しまれない様に注意してシーラさんの後に続き、エレベーターシャフトからエレベーターに乗って、トップタウンに向かうって書いてあったよな)


 作戦の内容を心の中で確認する僕。そんな僕と、メイド服姿のアカリをジロジロと見る背の高い衛兵は、シーラさんに質問する。



「この二人は付き人よ。メイドの子の方は私用の使用人で、あっちの子供は荷物持ちね。今回、上で滞在する日数がいつもと比べて長く、それに伴って荷物が多くなってしまって、急遽荷物持ちが必要になったのよ。それの関係で使用人を一人連れて行く事にしたわ」

「そうなんですか」

(おぉ! さすがシーラさん! 作戦内容と同じ言葉だ)



 僕が感心していると、シーラさんはさらに言葉を続けていく。



「だからこの二人も、上に連れて行くのだけれど、問題無いわよね?」

「大丈夫なんですか? そんな汚い(なり)で上に行ったら、何言われるか分かりませんよ?」

「おい、言葉に気を付けろ!」

「大丈夫でしょう。その為にコレを持ってきたのですから。向こうから要請してきている事ですし」



 シーラさんはそう言うと、戻された紙をヒラヒラと振る。どうやらあの紙は、シーラさんへ護衛を要請する書類だったみたいだ。



「では、行くわね。二人とも、遅れない様に私に付いて来る様に」

「はい」

「は、はいっ!」



 書類を再びスーツの内ポケットに仕舞ったシーラさんは、通用口から中へと入って行く。そのシーラさんに遅れない様に付いていこうとした時、



「あ、シーラ階長!」

「……何かしら?」

「済みません。一応こちらの二人も、身元と身体のチェックを行いたいのですが、宜しいですか?」

「……私の家の使用人なのだから、問題無いでしょう?」

「そうなんですが、一応仕事ですので。済みません!」



 片手を頭の後ろに回して、申し訳ないと頭を下げる背の高い衛兵さん。その横から、「先輩、階長の使用人なら、問題無いでしょう?」と、若い衛兵さんが口にする。が、



「バカ野郎! そういう事じゃねぇんだ! 任された仕事をきっちりこなす! それで俺たちは金をもらってんじゃねぇか! なのに、お前ときたら──」

「──分かりました。ですが、なるべく早くしてください」

「──! は、はい、分かりました!」



 通用口をすでに通っているシーラさんに促された衛兵さんたちは、ビシッと背筋を伸ばす。すると、若い衛兵さんが、人が列を作っている入場口へと走って行った。一体、どうしたんだろう?



「じゃ、じゃあまずは、使用人のお嬢ちゃんからだ。名前は?」

「……ア、アカネと言います」

「ふむ、アカネちゃんね」

(アカリの奴、咄嗟に偽名を……)



 別に嘘の名前を言う必要なんて無いのかも知れないけれど、万が一アラン兄みたいに指名手配されていたら、本名を名乗るのはマズい。それをアカリも判断したのだ。

 するとそこに、入場口まで走って行った若い衛兵さんが、その手に何やら銀色に光る、持ち手の付いた輪っかを持ってきた。あれは何だろ?


「先輩、持ってきました!」

「ご苦労! じゃあ、アカネちゃん。 ちょっとジッとしててね」



 そう言うと、背の高い衛兵さんはその輪っかをアカリに近付ける。それも身体のあちこちに、だ。一体何をしているの!?



「──よし、何も持っていないな。じゃあ最後に、身分カードを見せてもらえるかな?」

「──!?」



 背の高い衛兵さんが、アカリに向けて手の平を上にして差し出し、身分カードの提示を要求する。でも、もちろんそんな物を持っていないアカリは、身体を一瞬だけ震わすだけで動かない。偽名の時とは違って誤魔化せないし、どうしよう!



「ほら、身分カードを見せてごらん? 別に何かを調べる訳じゃないから。ただおじさんが見るだけだから、ね?」

「身分、カード……」



 アカリが困り果てているのが、手に取る様に分かる。ど、どうにかしないと──!?



「──たしか、アカネの身分カードは、あの荷物の中に入れたのでは無いかしら?」



 シーラさんだった。シーラさんが通用口から戻ってくると、僕の持っているバックを指差す。シ、シーラさん、流石です!


 でも、それで納得しなかった背の高い衛兵さんが、顎に手をやり、



「う~ん、困りましたなぁ。身分カードはちゃんと持たせておいてくださらないと」

「御免なさいね。こんな事になるなんて思っても無かったから」

「では、あちらの坊主の分も?」

「おそらくは」

「そうですか……」



 顎を擦りながら、何やら考える背の高い衛兵さん。すると、渋々というか、申し訳無さそうな感じで、シーラさんに尋ねる。



「ここで鞄を開けてもらう訳には?」

「……構わないけれど、あの中には下着も入っているから、あまり男性に見せたくはないわね」

「──!? こ、これは失礼しましたっ!!」



 慌てふためく衛兵さんは、両手を前に突き出すと、



「も、もう結構です! 最後にあの坊主を金探に掛けて終わりにしましょうっ! お、おい! お前がやってくれ!」

「えぇ~、俺がっスか?」

「良いからやれ!」



「へいへい」 アワアワする背の高い衛兵さんから銀色の輪っかを受け取った若い衛兵さんが、ブツブツ言いながら僕へと近付いてきた。


(金探……?)

「やるんなら、最初の嬢ちゃんの方が良かったぜ……。おい、坊主。さっさとやるから、鞄を置いて、腕を上げて大人しくしてろ!」

「は、はい!」



「んじゃ、動くなよ~……」 若い衛兵さんは僕にそう言うと、アカリの時みたいにその手に持った銀色の輪っかを、荷物を下ろした僕に近付けてきた。な、何されるの、僕!?


 何をされているのか分からない恐ろしさで体を動かせない僕は、取り合えず言われるがまま、両手を上げ続ける。まるで降参しているみたいだ。

 その僕の身体の正面を、持っている銀色の輪っかを隈なくあてがう。でも、何も起こらない。な、何をされているの?!



「よし、異常無いな。次は後ろを向いてくれ」

「はいっ!」



 クルリとその場で回ると、背中を衛兵さんに向ける。その背中に、衛兵さんがその輪っかを近付けるのが、雰囲気で判る。すると──、


 ヴィ~!! ヴィ~!!


 その輪っかから、何かの叫び声の様な音が鳴り始めた!!


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