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202話

 

 ★  ユウ視点   ★



「──という訳で、今日から俺たちを手伝ってくれる事になった、シーラさんだ! 皆、仲良くする様に!」

「「「……はい?」」」



 アラン兄が「アテがある」と言って、【ミッドタウン】にあるこの”裏”のアジトから出て行った次の日、「話がある」と言って、僕たちをアジトの一室に集めたアラン兄は、自分の横に立つ、灰色の上質な服──スーツというらしい──を着た女の人を、グイっと前へと押し出す。


 茶色の、ウェーブの掛かった長めの髪を耳に掛けたその女性は、アラン兄と同い年位だろうか。とてもキレイな女性だった。僕の住むアイダ村にこんなにキレイな女性が居たら、村がちょっとした騒ぎになるんじゃないかな。



「はい皆、拍手!」 パチパチと、一人で手を叩くアラン兄。それ以外の人間は、シーラさんとやらも含めて全く話に付いていけてなかった。


 すると、フルフルと細かく震えていたシーラさんと紹介された女性が、アラン兄の黒い上着、ジャケットの胸倉を掴む。



「ちょっと? 誰も手伝うなんて言ってないでしょ?」

「おいおい、そりゃ無いぜ。俺に借りがあるって言ってたじゃねぇか?」

「そうだけど、それとこれとは別でしょ!」

「んだよ。それに考えさせてくれって言ってたじゃねぇか」

「……あなたにはそれがОKに聞こえた訳ね……。はぁ、もう良いわ」



 長い睫毛が生えた少し切れ長の目、その上の眉間に手を添えたシーラさんは、とても疲れたように納得した。だけど、僕達は納得する所か、話すら見えない。ここはちゃんとアラン兄に聞かないと!



「ちょ、ちょっと良いかな、アラン兄?」

「あ? なんだ?」

「その女性は、どちら様ですか?」

「あん? だからシーラさんだって言ったろ?」

「いや、名前は聞いたけど、それで一体何を理解しろと? どんな人なのか、ちゃんと説明してくれないと」

「どんな人、か……」



 僕は当たり前の事を聞く。いきなり紹介されて「はい、仲良く!」と言われても、何も知らない人間とは仲良くは出来ない。幼い子供じゃないんだから。それは、困った様に体を揺らすシーラさんも同じだろう。


 すると、アラン兄がシーラさんの顔をマジマジと見る。そして、少し離れては身体の正面を見、後ろに回っては「う~ん……」と顎の下に手をやる。な、何をしているんだろ?



「ア、アラン兄?」

「──うん、見た目通りのイイ女だ! 以上!」

「ちょっとアラン兄!?」



 アラン兄がちゃんと答えてくれるのを、期待した僕がバカだった。シーラさんだって、ちゃんと説明してほしいに違いないのに! ──って、シーラさん! なんで顔を少し赤くさせているんですか!? 



「そういう事じゃなくて!」

「分かってるって。冗談だよ、冗談♪」



「ジョークくらい言えねぇとモテねぇぜ、坊主?」 怒る僕の肩に手を置いて、偉そうに言うアラン兄。すると今度は、フルフルと震わせながら顔を赤くさせているシーラさんが見えた。あれは間違いなく怒っている顔だ。たまにアカリもサラも同じ顔をするから、僕にはわかる。アラン兄よ、あの顔を見てもまだそんな事が言えるのか?



「ん~、どこから話すか」 僕をバカにして満足したのか、アラン兄は後頭部に手を当て少し俯くと、とても言い辛そうに、



「あ~、坊主には前に言ったが実は俺は以前、”裏”に所属していたんだよ」



「黙っていてゴメンな!」と、アカリとノエルさんに手を合わせるアラン兄。だが、謝られた二人の顔からは、「何をいまさら」感が滲み出ていた。アカリさん? 女の子なんだから、そんな顔をしない方が良いと思うよ?



「そんで、”裏”の実働部隊で組んでいたのが、こちらのシーラさんというわけだ」

「……え?」



 アラン兄の説明を受け、ギギギッと顔をシーラさんに向ける。すると、シーラさんは手を額に当てて、「なんでそれを言っちゃうのかしら」と呆れ果てていた。あ~、これはかなり苦労させられたんだな……。



「う、”裏”の人間……」

「あ、それとな。こちらのシーラさんは、今俺たちが居る【ミッドタウン】の階長さんでもあるから、皆、失礼の無い様に!」

「……はい?」



 二回目のポカンである。もう、シーラさんの方を見なくても、一体どんな顔をしているのか、簡単に想像が付いた。



「……あなたの態度が一番失礼なのだけど。 なんで、そうベラベラと人の経歴を話すのかしら……」

「んだよ、秘密にでもしていたのか?」

「そんな事は無いけど、だからって、ペラペラと話す事でも無いでしょう」



「まったく、そういう所はほんと昔から変わって無いわね」 ウンザリという感じで、シーラさんが「はぁ~」と盛大に溜息を吐いた。分かります、その気持ち。



「……信頼出来るのか?」  それまで、黙ってアラン兄の説明を聞いていたノエルさんが目を鋭くする。まるで睨んでいるようだ。でもそれも当たり前だと思う。大切な妹を攫われてしまったのだから。ノエルさん的には、こう言っちゃなんだけど、どこの誰だか分からない人の相手をするより、早くノインちゃんを助けに行きたいのだ。

 今だに見つからないサラ。もしサラがあいつ等に攫われてしまったとしたら、僕だって居ても立っても居られない。実際ノエルさんは、この”裏”のアジトにほとんど居ない。ノインちゃんの居場所の手掛かりを探しに行っているのだ。でも、ノエルさん自身もあいつ等に狙われている身だから、アジトに有った服の切れ端の様な物を顔に巻いて外に出ている。そうしないと、もしあいつ等に見つかってしまったら、今度は捕まっちゃうからだ。捕まってしまったら、自分の手でノインちゃんを助けに行く事が出来なくなってしまう。それはノエルさんも避けたい。でも、ノインちゃんを探しに行きたい。その板挟みで、とても焦っているのが伝わってくるし、それが日々大きくなっているのも感じられた。

 そしてそれはアラン兄も感じていたのだろう。ノエルさんの顔をまっすぐに見つめて、



「そこは信用してもらうしかねぇな。それに、俺たちだけでノインを助けるには、時間も準備も色々と足りねぇ。今のままじゃ、ノインを助けられる可能性が低いって事は、ノエルだって分かっているだろ?」

「……確かに、な」



 僕の時とは違い、真面目に答えたアラン兄。そこにはアラン兄なりの気遣いが見て取れた。だからだろう、ノエルさんはまっすぐにアラン兄を見つめ返した後、目を伏せて頷いた。


 すると今度は、青い着物の腰部分に手を添えたアカリが、アラン兄に尋ねる。



「でも、本当に大丈夫なの? 階長って、憲兵とかを管理しているお役目の人でしょう? とい事は、彼女は云わば敵方ってことでしょ? そんな人、本当に信頼の置ける人物なのかしら?」

「んだと、コラ!」

「──!?」



 アカリの物言いが気に食わなかったのか、アラン兄がアカリに対して噛み付くと、「何よ!」とアカリも負けじと食ってかかる。


「止めて、二人とも!」 また始まった二人のやり合い。こんなの、シーラさんには見せられない! と二人の間に割って入ろうとする僕の目が、カツカツと、踵の部分がやけに高い独特な靴を鳴らしながら、アカリに近付くシーラさんを捉える。シーラさんは、突然の接近に狼狽えたアカリを尻目にその目の前に立つと、自分より背の低いアカリに合わせる様に、身体を屈めた。



「ちょ、ちょっと!?」

「そう、あなたがアランの言っていた、嬢ちゃんさんね?」

「あの弱犬から何を聞いたか分かりませんが、私の名前は嬢ちゃんじゃなくて、アカリです!」

「……弱犬?」



 シーラさんが、アカリの視線の先に居るアラン兄へと向く。



「あなた、弱犬なんて呼ばれているの?」

「あぁ、不本意だがよ!」



「ってか、誰が弱犬だ!」 後頭部をガシガシと掻くアラン兄。そのアラン兄から視線をアカリへと戻したシーラさんは、突然アカリの両手をガシッと掴むと、「なな、なにっ!?」とさらに慌てるアカリを気にもせずに、そのキレイな顔を近付けた。



「アカリちゃん! 私、あなたとはとっても気が合うと思うの! これから宜しくね!」

「は、はぁ……?」



 まるで、親友や仲間にでも出会ったかの様な笑顔を浮かべるシーラさん。その様子に、アカリはすっかり毒気が抜かれてしまった様に、キョトンとしていた。凄い! あの人見知りのアカリに、あんな顔をさせるなんて、シーラさんはもしかすると、とんでもない人なのかもしれない。


 繋いだ手をブンブンと上下に振るシーラさん。アカリはなすがままになっている。その姿を見たアラン兄が、両腕を組んでウンウン頷いていた。



「よし! 仲良くなった所で、『ノイン奪還作戦』について、話し合おうじゃねぇか!」

「『ノイン奪還作戦』?」



 僕の質問に答える事無く、アラン兄は話しを先に進めた。って、何だって!? ノインちゃん奪還作戦!?



「何よ、そのネーミング? センス無いわね」

「ウルセェな! ネーミングにセンスなんか必要ねぇだろ! だったら変わりに嬢ちゃんが考えるか?」

「い、いえ、結構よ!」

「私は良い名前だと思う」

「ほら見ろ、嬢ちゃん! ノエルはこう言ってるぜ? やっぱ分かる奴には分かるんだよ! なぁ?」

「え、僕? 僕は別に作戦の名前なんて何でも良いかな?」

「おいおい、坊主! 俺とノエルが良いって言ってんだ。ならば男として、ここは分かってんだろ?」



「流れってもんがさ」 アラン兄が僕に分かってねぇなぁと、首を横に振っている。え、そんなに重要なものだったの!?


 すると背後に、とても冷たい空気が感じられた。それと同時に魔力も。そして、その魔力を放つ当人が、とても冷たい声で、



「私をわざわざここに呼んだのは、そんな下らない事の為なのかしら? 話が終わりなら、私、もう帰っても良いわよね? これでも、とても忙しいのよ? 誰かさんと違ってね? それとも私が、とても暇そうに見えたかしら?」

「い、いえ。違いますです」



 怒ったシーラさんがアラン兄の背後へと近付くと、その耳たぶを引っ張り上げる。その光景に、シーラさんの放つ空気に、怒りって冷たいんだねって事を学んだ。シーラさんだけは、怒らせない様にしよう! うん!



「あー痛ぇ……」 シーラさんに引っ張り上げられた耳たぶを押さえながら、アラン兄は黒のジャケットを捲る。するとその下には、一枚の大きな巻紙がズボンに刺さる形で隠れていた。


 その巻紙を取り出したアラン兄は巻紙を伸ばすと、部屋の隅に置かれていた、小さなテーブルの上に置く。



「何、コレ?」



 小さなテーブルに近付き、アラン兄が置いた紙を上から見下ろす僕たち。すると、アラン兄は自分で置いたその紙をバン!と叩いてから、



「これはな、俺が徹夜して考えた、ノイン奪還作戦の作戦内容だ!」

「作戦内容!?」



 それを聞いて、再び紙に目を落とす。改めて見るとなるほど、途中で寝てしまったのか、書かれた文字が途中から波の線に変わり、途切れている所がある。それを無理やり消しては、その上からあまり上手くない字で、色々と書かれていた。



「……ほんと、これで上手く行くのかしら?」 作戦の書かれた紙を見ながらシーラさんが呟くと、アラン兄が、「あぁ、これで上手く行くと思うぜ?」と、胸を叩いて宣言した。


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