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192話

総合評価が100ptを越えました♪

これもひとえに、この作品を読んでくださる皆さまのお陰です。

これからも、皆さまに楽しんでもらえる様頑張っていきますので、

宜しくお願い致します。


励みとなりますので、感想、評価、ブックマークも併せて宜しくお願い致します。

 

「かーどって、何?」



 聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまった。全く心当たりの無い言葉だったから、隣のアカリに聞いてみる。



「知ってる?」

「ユウが知らないんじゃ、私も知らないわよ!」



「えれべーたーとやらも知らないのに!」と何故か怒っていた。さっきの話の中でエレベーターが出た時、アカリだけ知らなかったのを根に持っているのだ。あとで謝ってちゃんと説明しておこう。


 それはともかく、アカリも知らないとなると、この世界で使う言葉なんだろうと考えた僕は、アラン兄に正直に答えた。



「そのかーどっていうのが何かは分からないけれど、多分持っていない、かな」

「おいおい、マジかよ!こういうんだぞ?」



 と言って、アラン兄がジャケットの中に手を入れガサゴソと何かを探す。そして、「お、有った」と取り出したのは、銀色に光る一枚の板の切れ端だった。良く見るとそれは金属で出来ていてとても薄く、所々に金色の模様が刻み込まれていた。



「これが身分カードだ。身分証明書も兼ねてるんだが、お前等、ほんとに持っていないのか?」

「う、うん。持ってない」

「そっちの嬢ちゃんもか!?」

「今の話、聞いてたでしょ? 私もユウも、その“かーど”とやらは持っていないわ」

「ホントかよ……」



「かぁ~、マジかよ!」と手を額に当てるアラン兄。マズい、まさかその“かーど”が無い事で、僕たちが別の世界から来たって事がバレてしまうんじゃないだろうか。……いや、アラン兄はそこまで思わないか。


 すると、アカリとは逆隣に居たノインちゃんが、そぉっと手を上げた。



「済みません、私も持っていません」

「え? お前もかよ?!」

「はい」



 悪い事をして叱られた子供の様に、顔を伏せるノインちゃん。その後ろを見ると、ノエルさんも顔を伏せていた。どうやら二人も“かーど”とやらを持っていないようだ。



「揃いも揃って持って無ぇってどういう事だよ、ったく。……まぁ、ノインとノエルのカードは、ギャズの野郎に奪われたんだろうよ。……ん? じゃあお前等、どうやってここに来たんだよ?」

「ど、どうやってって言われても……」



「ねぇ?」と、隣のアカリに視線を送ると、「ねぇ?」とそのまま返ってきた。「気付いたら、この世界に来てました」なんて説明しようが無い。


 それにしても困った。もしかすると、その“かーど”が無いと、エレベーターに乗れないのかもしれない。もしこの階層──ロワ―タウンにサラが居なかった場合、違う階層に探しに行かなくてはいけないけれど、あのエレバーターに乗れない事には違う階層には行けなさそうだし、運良くこの階層でサラが見つかったとしても、元の世界に戻る為に他の階層に行かなくちゃいけなくなった場合、移動する事が出来ないかも知れないのだ。そうなったら、僕たちは元の世界に戻れない。僕達にはやる事が──魔王が復活したかもしれない今、父さんと同じ召喚士として、お城にある父さんの残した魔王の復活に関しての資料を調べなきゃならないのだ。



「アラン兄、それでその“かーど”っていうのが無いと、エレベーターに乗れないの?」

「かーどじゃなくてカードな。そうだな、カードが無ぇと、あの入場口は越えられねぇな」

「そ、そんなぁ……」



 ガックリと肩を落とす。こうなっては、どうにかしてこのロワ―タウンでサラと元の世界に戻る術を見付けなくてはならない。

 すると、さっきまで怒っていたアカリが、落ちていた僕の肩にそっと手を乗せて来た。



「ユウ、大丈夫よ。一緒に頑張りましょ! もし、ここで見つからなかったら、そこの狂犬さんにでも手伝ってもらえば平気よ。ね?」

「狂犬って言われて、はい、そうですかって手伝うと思うか?」

「何よ、ケチね!」

「ケチとかそう言う事を言ってんじゃ無ぇんだよ!」



 またしてもギャアギャアと騒ぐ二人。いつもならすぐに止める僕だけど、この時ばかりはカードの事で頭が一杯で、止める事をしなかった。



「おいそこ! 何を騒いでる!」



 すると、近くに居た憲兵さんが騒いでいる僕達の所にやって来た。



「一体何を騒いでいるんだ!? もしかしてあれか? 別れ話か? そういう事なら他所でやりなさい。他の人に迷惑が──」

「んなわけねーだろ!!」「そんな訳無いでしょ!!」



 憲兵さんに注意された二人が同時に否定したものだから、注意した憲兵さんはその迫力に押されて、「お、おう。そうか……」とたじろいでいた。とそこに、「どうしました!?」と、憲兵さんがもう一人やって来た。その事で周りに居た人達も「なんだ?なんだ?」と、僕たちに目を向けてくる。うぅ、嫌だなぁ。


 応援に駆け付けた、最初に注意してきた憲兵さんよりも若い憲兵さんが、騒いでいたアカリとアラン兄の二人を見る。そして、自分よりも高い位置にあるアラン兄の顔を見て、眉間に皺を寄せた。



「ん? お前、どこかで……?」

「あ? 何だ?」



 応援に来た若い憲兵さんがアラン兄の顔を見た途端、疑いの目を向けた。すると、その言葉を聞いて何かに気付いたのか、最初に注意してきた憲兵さんが、着ていた憲兵服のポケットに手を突っ込んで何かを探す。そうして取り出したのは、一枚の紙だった。


「まさか」と言いながらそれを広げると、その紙とアラン兄の顔を見比べる憲兵さん。若い憲兵さんも「どうしました?」と、二人肩を並べてその紙をまじまじと見る。そうして何かを確認し合った憲兵さん達はお互い頷き合うと、一人は口に小さな笛を加え、もう一人は腰に差してあった警棒を抜き放つ。



「貴様、指名手配のアランだな?! 大人しく署まで来てもらおう!」

「はぁ? 俺が何したって言うんだよ?」



 憲兵さんに警棒を向けられたアラン兄は、特に慌てる様子も無く、両手を上げて肩を竦める。が、その動きでさえも憲兵さんには許せなかったみたいで、「動くな!」と叫びながら、警棒をさらにアラン兄に突き付ける。



「おいおい、俺は善良な市民だぜ?その俺が一体何をしたっていうんだよ?」

「何が善良な市民か!? 善良な市民は指名手配なんかされないんだよ!」



「これを見ろ!」 警棒を突き付けたまま一枚の紙を僕達に見せてくる若い憲兵さん。



「どれどれ?」「あぁ、こら!?」



 どこか他人事なアラン兄がその紙をひょいっと取り上げると、若い憲兵さんがピョンピョン跳ねて、紙を取り返そうとするが、「ちょっとくれぇ良いじゃねぇか」と、あろう事か若い憲兵さんの頭を押さえ付ける。



「──えぇっと、なになに? 【この顔にピンと来たら、憲兵にお知らせください。この男は誘拐事件に関与している重要容疑者です】だと?」

「誘拐事件……?」

「ほらやっぱり! なにか悪い事したんでしょ? 今すぐ謝っちゃいなさい?」



 憲兵さんから奪い取った紙を読み上げるアラン兄。その中にあった“誘拐事件”という言葉がとても気に掛かった。


(まさか、サラも誘拐されたわけじゃないよな……)


 アラン兄が誘拐事件に関わっているかどうかは置いとくとして、未だに見つからないサラ。もしかすると、何か犯罪に巻き込まれた可能性もあるかも知れないと、心のどこかで思っていた僕には、とても不安になる言葉だった。

 そんな僕の不安をよそに、「謝れば許してくれるわよ、ね?」と、指名手配の紙を読み上げた後、何故かプルプルと震えているアラン兄に向けてアカリは言うが、指名手配までされているこの状況では、とてもじゃないがアラン兄が謝って済みそうな感じはしない。



「……っ……!」

「ん、何よ?」

「おい! いい加減に指名手配書を返せ!」



 指名手配書を眺めながらブツブツ言い始めたアラン兄を気色悪そうに見るアカリ。そのアラン兄が持っていた指名手配書を奪い取る、若い憲兵さん。すると、アラン兄は俯いていた顔をガバっと上げると、



「俺が誘拐なんてする訳が無ぇだろうがっ!」

「きゃっ!?」

「うおっ!?」



 指名手配書を奪い取った若い憲兵さんに向かって吼える。と、その声に驚いたアカリをよそに、アラン兄は憲兵さんの胸倉を掴み上げた。



「うぐぐっ!?」

「おい! 俺に誘拐事件の犯人を押し付けやがったのは誰だ!? お前か!?」

「ぐっ、ち、ちが──」

「ちょっと、止めなさいよ!」

「おいお前、何してる!」



 胸倉を掴まれ、苦しそうに呻く憲兵さんをさらに締め上げて行くアラン兄。それを見たアカリが、堪らず制止の声を上げるが、お構いなしにさらに憲兵さんを締め上げていく。そこに、最初に声を掛けてきた憲兵さんが警笛を吹きながら、応援の憲兵さんを引き連れてやってきた。



「ア、アラン兄! 憲兵さんが一杯来たよ!?」



 明らかに悪くなっていく状況に、僕はアラン兄の腕を引っ張って訴える。すると、「──ちっ!」と舌打ちをしたアラン兄は、胸倉を掴んでいた若い憲兵さんを、向かってきた憲兵さん達に向けてドンと突き飛ばす!



「「うわ!?」」

「おい、今の内にズラかるぞ!」



 こっちに向かってきた憲兵さん達は、いきなり突き飛ばされてきた若い憲兵さんを、必死に受け止める。そのせいで体勢を崩した憲兵さんを見たアラン兄は、振り向きそのまま走り出す。



「え!?」

「おら、坊主! 早くしねぇと置いてくぞ!」



 いきなりの事で全く反応出来ず、頭と体が追い付かない僕。その僕の横を通り過ぎて、エレベーターシャフトとは逆側、つまり、僕たちが来た方へと走って行くアラン兄は、騒ぎを聞き付けた野次馬に紛れながら、どんどんと遠ざかっていく。



「うわわ!? 待ってよ!」

「ほらユウ、私達も取り合えず逃げるわよ」

「う、うん!」



 アカリにポンと背中を叩かれて走り出す僕。横を見れば、ノエルさんがノインちゃんを抱きかかえて、アラン兄の後に続いて行った。僕達も遅れて、後を追う。



「ま、待て~!」「止まれぇ!」と、後ろから聞こえる憲兵さんの声。それを無視して必死にアラン兄の後を追って走ると、その声も徐々に聞こえなくなっていった。


 それでも、狭い路地を右に左にと走って行き、そろそろ僕の息も上がってきた頃、前を走るアラン兄が路地を曲がった所でやっとその足を止めたので、僕たちも走るのを止めた。



「ふぅ。アイツ等もここまでは追ってこねぇだろ」



 おでこに浮き出た汗を拭ったアラン兄が、路地から顔を出して来た道を覗き込む。どうやら憲兵さん達は追っては来ていないみたいだ。何とか逃げる事が出来た見たいだな。でも、あのエレベーターシャフトから、だいぶ距離が離れてしまった。



「さすが狂犬さん、お尋ね者なのね?」

「んなわけ無ぇだろ!こりゃきっとギャズの仕業に違いねぇ」



 汗どころか、息一つ乱れていないアカリが肩を竦めて皮肉を言うと、アラン兄が否定した。



「ギャズって、あの今朝教会に来た人?」

「あぁ。きっとアイツが俺の事を手配したに違いねぇ!」

「だが、あの憲兵たちは貴君の事を連行しようとしていたが? 幾らあのギャズと言えども、憲兵たちをどうこう出来るとは思えんが?」



 僕の質問に答えたアラン兄に、ノエルさんが疑問を口にする。すると、アラン兄は奥歯をギリリと噛み締めて、



「……あの野郎は、このロワ―タウンの階層長に多額の賄賂を贈ってやがるからな。階層長に頼み込んで、俺への手配を企てる事ぐらい朝飯前なんだよ」



 そう言うなり、「ぺっ!」とビルの壁に唾を吐くアラン兄。「もう、汚いわね!」とアカリがすかさず注意する。



「ったく、ウルセェな。それにしても。こりゃ暫くエレベーターシャフトに近付けねぇな……」

「そんな!? エレベーターを使わないと上まで行けないんじゃないの!?」



 諦めた様に呟いたアラン兄を見て慌てる僕。顔を横に向けると、ノインちゃんもアラン兄の呟きが聞こえていたのだろう、ノエルさんの服をギュッと掴んでは心配そうにこちらを見ていた。



「しょうがねぇだろ。今、エレベーターシャフトに行くのは、バカのやるこった」

「でも──んぐ!?」



 アラン兄を説得しようとした僕の口に、手を被せるアラン兄。口を塞がれ、フゴフゴ喋る僕を面白そうに眺めたアラン兄は、片目を瞑って、



「安心しな、【大回廊】がある」



 そう口にした。


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