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サラの一面

※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)

 


 サラを伴って来た道を戻り、家へと続く道を曲がって少し進むと、前方の草むらがカサカサと揺れた。



「ん?何だ?」



 サラに手で注意を促しながら、揺れる草むらの様子を窺っていると、



 GAAWW!!



「うわっ!」

「きゃっ!? 何!?」



 灰色をしたナニカが、僕達に向けて飛び出してきた! その突進を、サラを庇いながら避けた僕は、横を通り過ぎて行ったその灰色のナニカを注視する。それは灰色の体毛をした犬、──いや、違う!?



「―まさか、狼っ!?」

「狼!? あのワンちゃんが? まさか、【魔物化】しているの!?」

「……いや、目が赤くないから魔物化していない。だけど、気を付けろよ!」

「うんっ!」



 【魔物化】とは、森などに生息している熊や狼、ウサギ等の動物が何らかの原因──魔力の暴走とされているけれど──によって、魔物と化してしまう事だ。魔物化した動物は狂暴になって人を襲うらしく、その目は真っ赤になるらしい。だけど、対峙している狼は、唸りを上げてはいるが目は赤くなっていないので、魔物化してはいないだろう。



「失敗した。杖を持ってくれば良かったよ……」



 僕もサラも杖を持っていない。杖が有れば良かったのだけど、学校に行くつもりだったから、杖を持ってきてはいなかった。

 一応杖無しでも魔法は使えるが、魔力効率が落ちてしまう。だから人によっては、いつもよりも魔法の威力が下がってしまったり、魔力を練るのに時間が掛かってしまう事が多々有る。狼が一匹ならそれほど脅威じゃないけれど、それでも危険が無いわけじゃない。



 GWUORRU……!



 歯を剥き出しにして、グルルッと唸る狼。今にも飛び掛かってきそうだ。



(どうする? サラだけでも先に行かせるか? それとも、二人で倒すか?)

「お兄、見て! あの狼、ケガしているよ?!」

「えっ!?」



 狼への対応を考えていると、隣に立つサラが、僕のシャツの袖を引っ張り指差す。見ると、狼の右後ろ脚から血が流れていた。ケガをしている様である。ケガを負った獣はとても危険だと学校で教わった。マズいな……。頬に冷や汗が流れる。



「……お兄。もしかすると、あの狼は私たちに驚いただけかもしれないよ!? それにあのケガ。誰かにケガさせられて、気が立っているだけなのかも。このまま逃がしてあげよ? ねっ?」



 サラが狼から目を離さずに、そう提案してくる。僕も、狼を警戒しながら、アカリに訊く。



「見逃してくれると思うか……?」

「分からない。でも、ケガをしている動物を殺したくは無いよ……」

「……」



 サラは動物に優しい所がある、と思う。さすがに熊や狼に対しては気安く近寄っては行かないけど、ウサギやリスなどを見つけると、触りに行こうとしたり、仲良くなりたいのか、家にあるパンなどで餌付けしようとする。その度に母さんに見つかり怒られるのだが。家のすぐ傍に森があって、動物達がすぐ近くに生息しているから、動物に対して親近感が強いのかもしれないな。



「ね、お兄? このまま見逃してあげよ? ね?」

「……」



 サラが僕の袖を引く手に力を込めた。もう行こうよっていう感じだ。

 僕だってむやみに動物を殺めたくはない。動物は可愛いし。だけど……。



「……サラ、ケガをした動物は危険だって知っているか?」

「……うん、学校で習った……」



 サラは頭が良い子だ。それだけで僕が言わんとしている事を理解してくれた。

 このまま、可哀そうだとこの狼を見逃した所で、別の所で別の誰かを襲うかも知れない。ケガで済むならまだしも、最悪死んでしまう事だってある。もしそれが、今どこにいるのか判らない母さんの身に降り掛かってからでは、後悔しても遅いのだ。



「……」

「……サラ」



 シャツの袖を引くのを止めたサラは、俯いてしまった。と、徐に右手を上げると、狼に向ける。



「──〈世界に命じる。火を生み出し飛ばせ!ファイアーボール〉」



 詠唱を終えたサラの右手に、火の玉が生まれる。僕が今朝生み出した火の玉よりも、遙かに大きい! 二倍くらいあるだろうか。杖無しで、これか!?



「―ゴメンね……」



 隣にいる僕がやっと聞き取れる位の大きさで、そう呟くと、サラは火の玉を狼へと飛ばす。



 GYAWA!?



 目の前に飛んできた火の玉に驚いた狼は、ケガをした足が気にならない位のジャンプで、近くの草むらに逃げ込む。が、火の玉はその後を追う様に曲がると、狼が姿を消した草むらへと突っ込んでいき、程なくしてボンッと爆ぜた。


 その様子を見ていたサラが、上げていた手を下げると、僕に顔を向ける。寂しい笑顔だった。



「……これで良いんだよね、お兄……」

「……あぁ」

(……ほんと、情けないな。僕は……)



 サラの頭にそっと手を乗せた。それは、詫びとしてなのか、慰めなのか……。



「……行こうか、お兄」

「……そう、だな」



 サラが僕の手を取る。先を急ごうと。それに応える様に歩きだす。これではどちらが年長なのか。


(魔法を使えただけで浮かれて……。ほんと成長しないな、僕は……)


 自分の力不足を、思いの外自覚した。させられた。だから僕はとても大事な事に気付けなかったのだ。


 ──あの狼は一体、誰に傷付けられたのかという事を──


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