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180話

やっぱり、アランの性格は書きやすいなぁ

 

(マズい!)


 こちらの最大にして唯一の戦力だったノエルが負傷離脱した事で、戦える奴が居なくなってしまった。俺が戦ってもいいのだが、そうすればミナと、新たに増えた負傷者(ノエル)に手当が及ばない。


 完全に詰みの状況。それは奴らも解っているのか、



「さて、これでお前しか居なくなった訳だけど、どうするんだ、狂犬? その嬢ちゃんを見捨てて、俺達と殺るか?」

「テメェ等ぁ……!!」



 挑発する。それが出来ない事を解っているクセに、だ。それが無性に腹立つ!

 が、ここで挑発に乗ってしまえば、ノインとノエルの頑張りを無駄にしてしまう事になる。ここは耐えて、ミナを治さなければ──!



「おい、聞いてんのかよ、狂犬!」


 ガッ!


「──テメェ!!」


 が、俺が相手にしなかった事が気に喰わなかったのか、兵隊の一人が、あろう事かミナを蹴り付けやがった!

 それを見た俺の頭に、沸点どころか、昔この世界にあったとされる大気圏とやらも突き抜ける勢いで一気に血が昇る! 野郎! ぜってぇ許せねぇ!!


 ミナに掛けていたヒールを解くと、立ち上がりざまに傍らに置いてあった長棒を蹴り付ける。そして、蹴り付けた反動で上へと跳ね上がった長棒をパシッと手に取ると、立ち上がる勢いそのままにその長棒をミナを蹴りつけやがったクソ野郎の鳩尾へと叩き込む!



「げへっ!?」

「おらぁ! こんなもんじゃ済まさねぇぞ!」



 まるでカエルの鳴き声の様な声を上げ、崩れ落ちるクソ野郎。だが、それで終わらせる気は俺には無い!

 鳩尾へと叩き込んだ長棒をクルリと回しながら振り上げると、崩れ落ちる事でこちらに頭を下げる形となったクソ野郎のその後頭部へと叩き込んだ!



「──っ!?」



 ドガッ!と鈍い音を立てて叩き込まれた一撃に、悲鳴らしい悲鳴を上げる事無く地面へと叩き付けられたクソ野郎。廊下にお寝んねしたままピクリとも動かない。



「くっ! やりやがったなっ!?」



 仲間をやられて色めき立つギャズの兵隊たち。それぞれの得物を構え、俺を睨む。



「オラァ! さっさと掛かってきやがれっ! それとも女子供しか相手にできねぇのか、あぁ!?」



 だが俺も、負けじと睨み返しながら長棒を構え吠える。コイツ等、絶対に許さねぇ!



「クソが! おい、構わねぇ! 商品のガキ以外は皆殺しだ! 行くぞ!」

「「「おお!!」」」



 残った兵隊たちの中で一番偉いのか、一人だけピストルを持った兵隊の一人が、小剣を構える他の兵隊に号令を出すと、一斉に向かってきやがった!



「面白れぇ! やれるもんならやって見やがれぇ!」



 迎え撃つ俺も、持っていた長棒を手前に居た兵隊へと叩き込む! こうなったらもう、殺るか、殺られるか、だ!


「や、止めて……」と遠くでノインが小さな訴えを口にする。だが、すっかりブチ切れた俺の頭には届かない。もう俺の頭にはミナもジャンも、そしてノエルの事も無くなっていた。【ロワ―タウンの狂犬】そのものが、そこには居た。


 そうして残った兵隊たちと、ノエルに負けない位の大立ち回りを演じていた俺の耳に、「ミナ!? しっかりして、ミナ!!」と悲痛な声が入る。そこでやっと俺は少しだけ冷静さを取り戻した。


 少し冷めた俺の目には、床に倒れて動かないギャズの兵隊と、残り二人となったギャズの兵。そして、ボロボロになった長棒と、……すっかり血の気が無くなったミナに覆い被さるノインの姿……。



「お、おい……う、ウソだろ……?」



 力が無くなった手から滑り落ちた長棒が、カラン……と床を叩く。その音が合図になったかの様に、俺はヨロヨロとミナ達に近付いて行く。



「ククク、どうやら死んじまったようだな、その嬢ちゃんはよ!」



 遠くでケラケラと、腹の立つ笑いを上げる兵隊たち。だがそんなもの、今の俺にはどうだっていい。



「ミ、ミナ……?」



 ミナの元へと着いた俺は、ノインを半ば退ける様にして押し込むと、そっとミナを抱きかかえる。すると、僅かだが息をしていた。温もりも感じた。ミナはまだ戦っていたのだ!



「──ミ、ミナ!」



 俺は急いで神に祈ると、手に灯った緑の光をミナの胸元、心臓へと当てる。今は傷を塞ぐよりも、失血によって弱った心臓に、少しでも活力を与えねば!



「おいおい、もう終いかよ、狂犬よぉ……」



 今度こそ、今度こそ間違えまいと、兵隊たちの声には耳はおろか意識すら向けない。今は全力でミナの治療に専しなければならないのだ。でなければ、ミナは確実に死ぬ!


 パァン!


「あう!?」



 ミナに必死にヒールを掛けている俺の肩口に激痛が走る。後ろを見ていないが、あの銃声からして、ピストルで撃たれたに違いない。


 だが俺は、反応しない。それどころじゃないからだ──


 パァン!


「うぐぅ!?」



 反対側の肩口にも、風穴が開く。もう一発撃ち込まれたらしい。両肩を襲う激痛。あまりの痛みに、魔力の集中に支障が出始め、緑色の光が弱々しく明滅する。



「ぐ、ぐぅ!!」



 ここで少しでも弱めたらミナが死ぬ! 歯を食い縛って魔力を集中させると、全力で持ってヒールを維持し続ける。




「おやおや? 二発も食らったはずなのに、意外にしぶとい奴だな……」



 俺の肩口に二つも風穴を開けやがった、ピストルを持つ兵隊が、半ば呆れ口調でのたまう。



「最後は私にトドメを刺させてくれませんか?」

「いや、まだ弾は残っているし、あと何発耐えられるか見てみた、い!」


 パァン!



「ぐがぁ!?」



 ギャズの兵隊の下らないやり取りを背中で聞いていると、再び響く銃声と走る激痛。


(野郎! 今度は左腕を狙って!?)


 ダランと下がる左腕。そちらに目をやると、二の腕辺りから血が流れだし、下がった腕を伝って、廊下を赤く濡らす。

 ミナに掛けていたヒールは片手だけでも持続可能だが、魔力集中という点では二倍の労力を使う。未熟な俺は両手での意識集中に慣れていた為、片手での集中はかなり気を使うのだ。


(こうなると解っていたら、ババァの言う事をもう少し聞いておけば良かった、ぜ)


 俺に神聖回復術を教えてくれたのは、教会のシスターであるババァだ。そんなババァの教えを、初めの頃は真面目に聞いていた俺だが、回復よりもケンカの方が楽しくなってきた俺は、ババァの教えをいつしか聞かなくなった。もしババァの話をもう少しちゃんと聞いていたら、魔力集中がもっと楽に出来ていたかもしれないし、もしかすると、ハイヒールも使えていたかもしれない。


(まぁ、今さらだよな……)


 片手で何とかヒールを持続させる事に、全神経を集中させながら、俺は皮肉気に笑う。今、この場で無いもの強請(ねだ)りをしたところで、この状況が良くなることなんて一つも無い。



「ん~? 意外に強情な奴だ」



 そんな中、ピストルを持つ兵隊──ピストル野郎が、さらに呆れた口調で俺へと近付いてきた。



「お、おい!? 危ないんじゃ!?」

「大丈夫だって」



 小剣の兵隊──小剣野郎が、注意の声を上げるが、ピストル野郎がは平気平気とばかりに俺へと近付いて来る。



「両肩と左腕を撃たれてるんだぞ? もはや、何も握れはしねぇよ。それになぁ──」



 そう言って、まるで近所でも散歩しているかの様な、気の抜けた歩き方で俺達に近付いて来ると、チャキっとピストルを構える。



「離れた所から撃っても面白くねぇんだよなぁ」

「テ、テメェ……!」

「そうそう、その顔だ、狂犬! その顔を浮かべたまま──」



 そこまで言うと、俺の後頭部に銃口を突き付けるピストル野郎。



「死んでいけ!」

「ダメぇ!!」

「くっ!?」



 俺の後頭部に銃口を突き付けたピストル野郎が、引き金を引こうとした時、ノインが阻止しようとピストル野郎の足にガシッとしがみ付いた!



「なっ!? このガキ、離しやがれ!」

「離しません! 離したらミナも死んでしまう!」



 ピストル野郎がその銃口を下ろすと、ピストルを持っていない手で、しがみ付くノインを引き離しにかかる。だが、ノインも必死になって、ピストル野郎の足元から離れない。



「くっ!このガキ!! 商品だからって容赦はしねぇぞ!」

「あうっ!?」

「ノイン!?」



 しがみ付くノインを手で剥がすのは無理だと判断したのか、ピストル野郎がノインの腹を思いっきり蹴り付けた。

 蹴り付けられたノインは、その勢いのまま俺達の方へと転がってくると、「げほっ!げぼっ!」と、少し血の混じった胃液を吐き出す。



「ハァハァ! ったく、ムカつくガキだぜ! こうなったら、狂犬諸共殺してやるっ!」

「え、いいんですか!? ギャズ様に怒られますよっ!?」

「構わねぇさ! その時ゃ、狂犬が殺したって報告すれば良いんだからよぉ!」



 その口から汚ねぇ唾を飛ばしながら喚き散らすと、目を血走らせたピストル野郎が、俺達に銃口を向ける。マズい! あのイカれた目は本気で撃つ気だ!?



「くっ!?」



 痛みに顔を顰めながら、俺はミナとノインに覆い被さる。こんな事をしても、俺が撃たれて死んだらノインはともかくミナは死ぬというのに、今の俺にはこれしかする事が出来ない!



「くくく、そうやって仲良く死んできなぁ!」

「く、クソがぁ!」



 余りの悔しさで吼える。吼えた所で状況が変わる訳でも無いのに。



「アッハッハ! ギャズ様に逆らうからこうなるんだ! 解ったか!」



 チャキっと引き金に指を掛けたピストル野郎。そのムカつく言葉が終わった後、不意に──「……カツン」と、固い廊下を何かが叩く音が聞こえた。




「お? 他の奴らも来やがったか? なら、ヤベェのを見られる前にさっさと殺っちまうか」



 その音はピストル野郎の耳にも聞こえた様で、少しだけ焦りの色を浮かべる。と、そこに、



「ま、待ってください! もしかすると、ギャズ様の新しいご命令が出たのかも知れません! 聞いた所によると、そこの狂犬もまた“商品”だとか! 勝手に殺すな!って事かも知れませんよ!?」

「チッ、そういやそうだったな……。じゃあ、これから来る奴に聞いてみるか」



 向けていた銃口をスッと下げると、廊下の曲がった先を見つめる二人の兵隊。俺もまた、その角に目を向ける。だが、兵隊どもとは全くの心持ちだが。


(クソッタレ! やっと二人まで減らしたのに、これ以上、奴らの援軍なんか、相手に出来ねぇ!)


 クルっと周囲に目を向けると、俺達の中には誰一人として立っている者は居ない。ミナもジャンもノインもほぼほぼ意識を失っており、俺とノエルは深い傷を負っている。まさに満身創痍な状況だ。これ以上敵が増えたら、ここから抜け出す事なんてまず不可能だ!


(何か無いか!? 何か──!?)


 焦る気持ちで色々と考えるが、傷から血を流しすぎたせいか、もともと頭の悪い俺には良い案が全く浮かばない。


 そうこうしている内に、床を叩く音が近付いてくる。音からするとどうやら一人の様だ。だが、油断は出来ない。一人だったとしても腕の立つ奴ならば、それは脅威に変わらないのだから。


 奴らの期待と、俺の不安。双方が入り交じった視線が向けられる中、ついにその音の持ち主が廊下の角から、姿を現す。



「「「……へっ?」」」



 間抜けな声が三つ重なる。だが、それを責める奴はこの場には居ないだろう。それほどまでに、余りに予想外な奴が現れたのだから。



 ──俺達が見つめる中現れたのは、見た事も無い服を身に纏った、一人の少年だったのだから──



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