失踪した母さん
※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)
家に帰り、サラが作った朝食を食べる。ベーコンエッグというシンプルな朝食だったが、美味しかった。サラも腕を上げたなぁと感心する。そして、身支度を整えると、サラと一緒に家を出た。母さんは家の鍵を持っている様なのでので、鍵は掛けておいた。盗まれる様な物は家に無いし、この村にそんな人は居ないだろうから鍵を掛けなくても問題無いと思うけど、念の為だ。
「「行ってきます……」」
誰も居ないと分かっていたけれど、それでも家を出る挨拶は欠かせなった。そうしなければ、この家から完全に温もりが消えてしまうと思ったから。
今日の朝も少しうす暗い。昨日よりも早い時間に家を出たからだ。
村では、広場にある鐘楼の鐘の音で、時間を知る事が出来る。一日に鳴る鐘の回数は15回。鐘楼の中に、昔の【発明家】が作った時計の魔道具があり、魔道具の中にある光の玉が一周すると1時間。その1時間を100で割った物が1分となる。この基準はこの大陸すべての国の共通時間であるらしい。朝の4時に最初の鐘が鳴り、夜の6時に最後の鐘が鳴る。ちなみに学校は8時50分に最初のチャイムが鳴るので、それまでに登校しなくてはならない。
僕たちが、いつもよりかなり早く家を出た理由は、母さんが居る村長さんの家に行く為だ。
昨日帰って来なかったという事は、母さんは村長さんの家に居るはずである。いくら僕とサラが大きく、家の事がある程度出来るとはいえ、さすがにいい大人が連絡の一つも寄こさないでは、文句の一つも言いたくなる。なので、学校に行く前に村長さんの家に寄ろうと、サラと決めたのだ。
「ほんとにお母さんたら、連絡もしないで泊まりなんて、非常識だわ!」
サラはおかんむりだが、まぁ無理もないな。僕だって母さんに、一言言いたい位なのだから。
いつもの通学路から少し逸れ、村の北側に伸びる道を歩く。村長さんの家は村の一番北にある、この村で一番大きな家だ。昔、父さんの付き添いで何度か行った事がある。サラも、スペルマスターのジョブ絡みで、何度か来た事があると言っていた。
「母さんにも何か理由があったんだろ」
「それでも帰って来ないなんて!」
「まぁまぁ」
サラを宥めながら歩く事数十分、家が立ち並ぶ一角に、村長の大きな家が見えてきた。
「──あ、見えてきたよ!」
「サラ、ちょっと!?」
サラが小走りになる。気が急いているみたいだ。僕も慌ててサラの後に続く。
二階建ての立派な村長さんの家。その門前に着くと、ちょうどお手伝いさんらしき女性が、玄関先の掃除をしている所だった。さすが村一番の金持ちである村長。お手伝いさんが居るとは……。
「―あのぅ、すみません……」
「―はい、何でしょうか?」 こちらを振り向く、エプロン姿のお手伝いさん。
「こちらに昨日、女性が訪れませんでしたか?僕たちの母親なのですが……」
するとお手伝いさんは作業の手を止めて、少し思い出す仕草をした後、
「―えぇ、居らっしゃいましたよ。確か、12時位でしたかねぇ」
「そうですか!」
やはり母さんは、村長さんの家に来ていたみたいだ。それが分かっただけで、少しホッとする。
「それでお母さん、……その女性はまだお邪魔していますか?!」
サラが尋ねると、お手伝いさんはきょとんとして、「いえ、1時間程で帰ったと思いますが?」と答えてくれた。 え、すぐ帰った? じゃあ、母さんは今、村長さんの家に居ない?!
「え!?すぐ帰ったんですか!?」
サラも驚いたらしく、お手伝いさんに詰めよる。そのせいで、お手伝いさんは焦ったのか、手に持っていた箒を落としてしまった。
「え、えぇ。この家から出ていく所を見ましたから」
「そんな……。じゃあ、お母さんは一体何処に?」
長い睫毛の生える目を伏せるサラ。村長さんの家に居ないとなると、母さんは何処に行ったのか? 広くないとはいえ、なんの手掛かりも無いまま、村を隅から隅へと探すのはさすがに無理がある。
「―もう! お母さんってば、何処にいるのよ!」
サラの苛立ちが聞こえたのか、お手伝いさんは恐るおそるといった様な感じで、
「あ、あのぅ。その女性の方ですけど、この家を出た後は、確か西に歩いて行きましたよ」
と当時を振り返り、西の方を指差す。
「西? じゃあ家に帰ろうとしたのか?」
「お兄、一回家に戻ろ? もしかすると母さん戻っているかも」
「え、だって学校があるだろ。僕一人で探すから、サラは学校に行ってきな」
「嫌! こんな気持ちで学校に行っても何も頭に入らないよ!」
確かにサラの言う事は一理も二理もある。
「—そうだな。よし、一緒に母さんを探そう」
「うん!」
「ありがとうございました!」 お手伝いさんにお礼を言って、僕たちは来た道をまた戻っていった。
読んで頂き、有難う御座います。