179話
なんか、久しぶりに書きたくなったので、書いてみました……。
△ アラン視点 △
「クソっ! アラン兄ちゃんの邪魔すんなっ!」
突如現れた十数人にも及ぶ、黒いスーツを纏うギャズの兵隊。それをノエルがたった一人で相手にしているが、如何せん数が数である。しかもその中には、今は仲間への誤射を恐れて撃てないでいるが、ピストルを持つ奴も居る。ノエルも持っている木の棒で牽制をしてくれてはいるが、そいつが何時撃つのか分からないので、気が抜け無さそうだ。そうこうしている内に、兵隊の何人かは俺達の元へとやって来る。そして、手に持った小剣を振りかざしてきた。
傷付き倒れたミナへの回復魔法で手を離せない俺の代わりに、ジャンが持っていたナイフを振り回してそいつ等を牽制する。だが、所詮は素人の、それも子供が振るうナイフだ。戦い慣れているギャズの兵隊達は、必死にナイフを振るうジャンを見て、やれやれと小馬鹿にした様に笑うと、
「──フン」
「あぁ!?」
持っていた小剣でジャンのナイフを弾く。弾かれたナイフはジャンの手を離れ、宙をクルクルと廻ると、キィンとやけに高い音を立てながらギャズの兵隊たちの後ろに落ちた。
「どけ!」
「ぎゃっ!?」
「ジャン!?」
弾かれたナイフを呆然と見ていたジャンを、そのナイフを弾いた当人であるギャズの兵隊の一人が蹴り付ける! 悲鳴を上げ、蹴られた腹を押さえながらヨロヨロとふらつくと、その場に崩れ落ちるジャン。
「クソ! テメェ等! よくもジャンを!」
「くくく。文句があるなら掛かってこい、ロワーの狂犬。それとも口だけか?」
「テメェ等……!!」
ミナに掛けているヒール。それを今止める訳にはいかない。ミナの太ももから未だに血が流れているからだ。流れ出る血の量は減ってきてはいるが、完全には止まっていない。今、ヒールを掛けるのを止めれば、出血によって気を失い掛けているミナの命が本格的に危なくなる。
だがこのままでは、ギャズの兵隊の持つ小剣かピストルによって、俺はおろかミナとジャン、そして、この状況においてもミナを心配そうに見つめているノインも殺されるだろう。ならば、ミナへの治療を止め、殺される前にコイツ等を片付けなくてはならない。だが、そんな事をすればミナが死ぬ。
(クソ! どうすりゃいいんだ!?)
そんな状況をコイツ等も解っているのだろう。悩み、苦しみ藻掻く俺を見てニヤニヤと下衆な笑いを浮かべる。ほんとムカつくヤロー共だ。さすがはあのギャズの兵隊だけの事はある。
「おら、どうすんだ、狂犬。やんのか?やんねぇのか? あぁん?」
ジャンを蹴りつけやがった兵隊の一人が、持っていた小剣の先を俺の頬へと突き付ける。そして、徐々に力を込めると、プッっと俺の頬にその刃先が喰い込み、血が流れた。
(──悪ぃ、ミナ。我慢の限界だわ──)
ユラっと、自分の背後に禍々しい魔力が立ち昇るのが解る。それを抑える事無く──逆に怒りを注いでさらに大きくしながら、ミナに翳していた手をスッと下ろしつつ、ギロっと俺に小剣を突き付ける兵隊を睨み付けた。
「お? やんのか、狂犬。やっとその気になった──」
ドガッ!!
「ぐはっ!?」
やる気になった俺の態度を見て、小剣を突き付けていた兵隊が何かをほざいていたが、それを最後まで言う前に、そのムカつく面に一発くれる。バカが。幾ら小剣を突き付けているからって、気を抜き過ぎだ。
「テメェ! やりやがったな!?」
ドサリと倒れる仲間を見て、色めき立つ他の兵隊共。それぞれに持っていた得物を俺へと向ける。
「オラァ! 遊んでやるからさっさと掛かって──!」
立ち上がって、両の拳をガツっとぶつけ合わせた俺の前に、スッと人影が割って入る。
「ここは私に任せて、あなたはミナの治療を……」
「……ノイン?」
俺と兵隊共の間に、両の手を大きく広げたノインが入り込むと、背中越しに俺へと話し掛ける。ミナと変わらない年端のガキの思わぬ行動に、俺は怒り付ける。
「バカが! どけっ! ガキが相手に出来る訳無ぇだろうが!」
「バカはあなたよ! あなた以外、誰がミナを治療出来るの!? 治療しなきゃ、ミナは死んでしまうのよ!?」
「そ、そんな事は分かってるんだよ! だからコイツ等を殺った後にヒールを」
「ミナにそんな時間は残されているの!? いいからあなたはミナの治療をして! お願い!」
「ノイン……」
「おいおい、こんなおチビちゃんに、俺達の相手が務まんのかよ? なぁ?」
「あぁ。俺達も舐められたもんだぜ。いいから退いてな、ガキ」
俺とノインのやり取りを聞いていたギャズの兵隊たちも、俺を庇う様にして立つノインを見て、ゲラゲラと笑う。だが、その中の一人が
「……なぁ、今気付いたんだが、あのガキってもしかして……?」
「……ん? ──!? あぁ、そうだ! 確か次の商品に混ぜて売り込むってギャズ様が言ってたよな!?」
「あぁ、言っていた! って事は、今ここであのガキを傷付けたら、ギャズ様に叱られるんじゃ……?」
「──? ノイン、お前って“訳有り”か?」
「……」
ノインを見て、俄かに狼狽え始めた兵隊たち。その様子に前々から何かあると思っていた俺は、いいタイミングだとばかりにノインに問う。が、小さく肩を震わせただけで、振り返る事も何かを発する事もしないノイン。
(ま、ロワ―タウン(ここ)じゃ素性なんて、どうでもいいか)
アンダーモストほどじゃないが、ロワ―タウンに居る連中だって、その素性はそれぞれだ。だから、今さらノインや、大勢の兵隊たちと大立ち回りを繰り広げているノエルの詮索なんて、どうでもいい。
それよりも、兵隊たちへの思わぬ抑止効果の方がありがたい。見るからに狼狽えている兵たちの相手は、ノインに任せても大丈夫そうだ。
「……解った。だからって、無理するんじゃねぇぞ? ミナを回復させたら、俺がコイツ等を殺るんだからよ?」
「解ったから、さっさとミナを治して」
そんな軽口を言い合いながら、俺は心の中でノインに感謝する。ったく、俺とした事が、簡単に頭に血が上っちまった。
パァン──!
「──うっ!?」
「ノエル!?」
そうして、ミナの治療を再開しようとしゃがみ込んだ矢先、火薬の破裂する音と共に、今度は大立ち回りを演じていたノエルが、短い悲鳴を上げる。
見ると、黒い官服のその肩口を手で押さえてしゃがみ込むノエルが、キッと兵隊たちを睨み付ける。その視線の先を追うと、黒いピストルをノエルへと向けた一人の兵隊。どうやら、ノエルが小剣を持つ兵隊をあらかた倒した事で、奴のピストルの射線が通る様になったのだろう。何とも皮肉である。
「ノエル!?」
「……大丈夫です。それよりも、そちらの状況はどうですか?」
撃たれた肩口を押さえる手からは、血が滲み出ている。明らかに大丈夫では無さそうだが、ノエルは自分の事よりもこちらを心配してきた。そのノエルの言葉を受けたノインは、チラリと俺へと視線を向けて来たので、俺は首を横に振るう。
「……芳しくはなさそうよ」
「……そうですか。ならばもう少し頑張りますので、そこの男にさっさとしろと伝えてください」
そう毒吐いたノエルは、木の棒を握り締めて残りの兵隊たちを相手にする。だが、撃たれた傷の影響か、はたまたピストルを持つ兵隊への警戒ゆえか、先程までの勢いは無い。ノエルが相手にしている兵隊の数はだいぶ減ったとはいえ、ノインが足止めしている奴らも含め、まだ片手以上居る。
「おい! 取り合えずあのガキは後回しだ! まずはあの男を殺るぞ!」
ノインがその素性だけで足止めしていた兵隊たちが、混乱から抜けたのか、戦況を見極めてはノエルへと向かって行く。マズい!今のノエルでは、あれだけの人数を相手にするのはキツイ!
「待ちなさい!」
ノインもそう判断したのだろう、ノエルへと近付いていく兵隊たちに向けて叫ぶ。
「ウルセェ! お前は後回しだって言ってんだろ!」
「きゃあっ!?」
「お嬢様っ!!」
だが、兵隊たちはノインの声に耳を貸さない所か、邪魔しようとしたノインを突き飛ばす。その勢いを殺せなったノインは尻餅を付き、その際に上げた悲鳴にノエルが大きく反応する。
「おい! お前の相手は俺達だぜ!」
「ぐはっ!?」
「ノエルっ!」
尻餅をしたノインの元へと向かおうとしたノエルは、完全に隙だらけとなっていた。そこを見逃す兵隊たちでは無い。持っていた小剣で鋭い突きを放つと、反応が遅れたノエルの脇腹に突き刺さる!
「ぐ、ぐぅう!?」
「おい、大丈夫か、ノエル!?」
「だ、大丈夫です……。そ、それよりお嬢さ──ノインをお願いします!」
肩口よりも大量の血を滲ませたノエルの額には、脂汗が滲み出ている。明らかに大丈夫では無い。それは周りの兵隊も解っていて、
「おいおい、兄ちゃん。それだけの傷が大丈夫な訳無いだ、ろ!」
「ぐはっ!」
ノエルの血の滲む脇腹に横蹴りを放つと、踏ん張る素振りも無く簡単にこっちに吹っ飛ばされるノエル。蹴られた脇腹からはさらに血が流れ、その痛みも伴ってそのまま蹲ってしまった。