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171話

 

「……やっぱりアカリさんの言う様に、ここら辺一体に魔法が掛けられているよ」



 アカリの頼みを聞いたサラが、意識を集中する為に閉じていた目を開くと、そう口にした。


 アカリがサラに頼んだ事、それはサラが常時発動している〈サーチ〉を使って、この宿に魔法が掛けられているのかどうかを調べる事だった。そして、サラの出した答えは、僕達の状況がかなりマズい事を示していた。



「この人達を倒したのに、魔法が解かれていないって事は、恐らくこれからここに襲撃を仕掛けてくる連中の中に、その〈サイレント〉の魔法を使っている張本人が居るってことよね」

「うん、多分。それにこの周辺に掛けられているのは〈サイレント〉だけじゃないみたい」

「〈サイレント〉だけじゃないって、どういう事だ?!」

「そのままの意味だよ、お兄。〈サイレント〉の方が強いけど、それに重なる様にして、もう一つの魔法が掛けられているよ」

「……ううん、分からない。かなり上手く隠してあるから。ゴメンね、お兄」

「いや、サラは悪くないよ。それで、ここに来る10人は後どの位で来そう?」

「もう、宿のすぐそこまで来てる。10人全員がこの宿の中に入ろうとしているかな」

「……そうか」



 サラの伝えてきた状況は、刻一刻(こくいっこく)と僕達に危険が迫ってきていることを示していた。


(どうする!? いや、考えている暇は無いな。取り合えずはこの宿から出よう。このままっていうのは気が引けるけど、しょうがないよな。あとで何が起きたか説明しに来れば)


 このままここにいても、状況は悪くなるだけだと判断した僕は、寝間着姿のサラに早く着替える様に伝える。さっき、二人が黒装束の襲撃者と戦っている時に、散らばっていた荷物を片付け、整理しておいたから、すぐに見つかるだろう。

「私も手伝うわ」と、この街で買った動物の革素材で出来た、緑色のチュニックと紺色のロングスカート姿のアカリが、サラの着替えを手伝う為に近付いて行く。


 寝間着に着替える時は部屋から追い出されたけれど、流石に襲撃者が向かっている中では、それも言われない。だけど、せめて後ろを向いて居ようと、荷物が置かれている側とは反対側の、部屋の扉の方を向く。出来る男は、一回注意された事は忘れないものだ、うん。


 そうして、部屋の扉を凝視していると、サラの着替えを手伝いながら、アカリが質問を口にした。



「ねぇ、サラちゃん。どうしてサラちゃんは常時発動なのに、魔法が使われた事を気付かなかったの?」

「うんしょっと。確かに〈サーチ〉は常に使っているけど、寝る時はさすがに切ってるよ~。じゃないと、人とか動物とかにいちいち反応しちゃって寝れないんだもん」

「それもそうね。はい、次はこれね」



 そんなやり取りを聞きながら、僕は右手に持つ、父さん譲りの杖を握る手に力を籠める。それは、僕が後ろを振り向いた時に使った〈サーチ〉に、数人の反応があったからだ。



「お待たせ! どう?」

「……何人か入って来た。サラ、何人だ?」



 僕は着替えの済んだ、こちらもこの街に来た時に買った、色違いだがアカリとお揃いの、小麦色のチュニックに、緑色のズボンを履いたサラに、侵入者が何人か聞く。

 僕も〈サーチ〉は使えるけれど、あいにくとまだ慣れては居ない。なので、普段から使い慣れているサラに尋ねる。こと命に係わる事に関しては、間違いがあってはいけないからだ。



「お兄の言う通り、全員じゃないね。五人ってとこ。多分半分に別れたんじゃないかな」

「何の為に……。いや、この動きは——裏口かっ!?」



 僕の〈サーチ〉に、宿の中に入って来た五つの光点と、宿をクルリと迂回する五つの光点が脳裏に映る。



「そうみたい。それにしてもお兄ってばスゴイね! この宿全体に〈サーチ〉が掛けられる様になったんだね!」

「あぁ、まだあまり慣れてないから、無駄な魔力を使ってそうだけどね。それよりも困ったな。裏口から逃げようとおもったんだけど、先回りされちゃっているなんて——」



 そこまで言った時、不意に何か空気の振動を感じた。それは魔力の波動——



「コレ、相手の〈サーチ〉だよ!? どうするお兄!?」



 アカリが焦りの声を上げる。相手の〈サーチ〉を受けた事なんて無かったから分からなかったけど、こんな風に感じるものなのか等と、ボケた事を考えている間にも、この宿に侵入してきた襲撃者がは僕達の居る二階に上がろうとしているのが、〈サーチ〉で伝わってくる。

 っていうか、〈サーチ〉って、こんな風に相手に違和感を与えるって知らなかったけど、これって、自分達の存在が感づかれた事が丸わかりなんじゃ……。



「お兄、どうする!? 私とアカリさんなら、五人くらいなら勝てると思うよ!?」



 そう言って、サラがグリューンリヒトに魔力を通していく。僕の放った〈ライティング〉の白い光が照らすボロボロの部屋の中に、魔力が通されたグリューンリヒトが放つ、深い瑠璃(るり)(いろ)の色合いが混ざる。



「いや、それは避けたい。ここの宿に泊まっている人にも、この宿の人にもこれ以上の迷惑は掛けたくないし、それにこれから来るお客さんが、この人達と同じ強さだとは限らない!」



 そう言うと、床に倒れている、先の襲撃者を見る。この人達位な強さなら、自分の杖を見つけた僕の援護もあるし、何とかなるかもしれない。だけどそれ以上に強かったり、先の五人と戦っている間に、後の五人が攻め込んできたら、とてもじゃないけれど、対処出来なくなってしまう。



「じゃあ、どうするのっ!?」

「……あそこから逃げよう」



 僕とサラのやり取りを黙って聞いていたアカリが、少し苛立ちを含んだ声で聞いてきた。魔法に関してはまだまだ素人のアカリ。だからこそ、僕とサラの会話を邪魔しない様に黙って聞いていてくれたんだと思う。


 廊下の方から、人が近付いてくる足音が聞こえてきた。もう色々考えている時間は無さそうだ。


 ならば、と僕は後ろを振り返る。そこには、破壊され、元の二倍くらいの大きさとなった窓と、星空を覗かせている天井の大穴が有った。



「……僕に良い考えがある」



 そう言って視線を送ったのは、あのデコボココンビが落ちて行った、窓だった。


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