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167話

 

 △  アラン視点   △




「おっ、良いモンがあるじゃねぇか」



 今は牢屋でお寝んねしている、門番の二人組が居た見張り部屋を物色していると、床に転がっていた長い棒を二本見つけた。 その内の一本を真ん中で折り、「こんなモンか?」と牢屋から出て来たノエルに投げ渡す。


 少し強めに投げ渡したそれをバシッと軽く受け取ると、整った口の片側を吊り上げる。



「あぁ、これ位でちょうど良い」

「そいつは良かったな。 ん?」



 折り残った方を、続けて出て来た白いワンピースの少女、ノインに「要るか?」と問うが、



「いえ、大丈夫。御構い無く」



 と、否定した。



「……妹は、剣はやらん」

「そうか? 意外とヤレんのかと思ったが、まぁ本人が言うのなら良いが」



 そう言うと、折れ残った棒っ切れを放り捨てた。カランと乾いた音が響く。



「良いのか?」



 ノエルが、特に感情を乗せていない口ぶりでそう口にする。それに対して、残ったもう一本の棒を手に持つと、



「良いんだ、俺の得物はこれ位でちょうど良い」



 長棒で肩をトントンと叩きながら、俺は不敵に笑った。



 ☆



 閉じ込められていた牢屋を出た俺たちは、隣続きとなっている見張り部屋を物色する。長い二本の棒以外、武器になりそうな物は無く、ミナとノインの武器は手に入らなかった。まぁ、ノインの嬢ちゃんはともかく、ミナは戦えないから問題無いか。せいぜいジャンの奴に守ってもらおう。


 見張りの部屋はそこまで広く無く、部屋の中央には一人掛けの椅子が四脚備わっているテーブルと、腰の高さまでの木で出来た棚が一つ置かれているだけだった。白い壁紙が貼られた壁のコルクボードには、何かの予定だろうか、時間の書かれた紙が画鋲で留められていた。



「お、パンが有るな。頂こうぜ」



 テーブルの上には、黒パンが複数個乗った大きめの皿と、水の入った水差しとコップが置かれていた。俺達の代わりに牢屋に入れられている見張りの飯だろう、今が何時だか分からないから朝飯だか晩飯だかは分からないが。


 皿の上から黒パンを一つ摘まむと、あむっと一つ齧る。いつも口にしている硬くしめられた黒パンとは違い、少し柔らかさを残しつつ、ほんのりと甘さが感じられた。



「うめぇな。ったく、ギャズん所じゃ、こんなチンケな見張りでさえ、教会(うち)よりも良いモン食ってやがんかよ。俺もここで働こうかね……」

「そ、そんなに? お、俺も」

「私も貰おうっと……」



 パクパクっと黒パンを軽く平らげ、水差しからコップに水を注いでいると、ジャンとミナも皿からそれぞれパンを取る。



「う、旨いっ」「美味しいっ」と、バクバクとパンを口に詰め込んでは、次のパンを手に取る二人。ジャンの奴なんて、口に含み過ぎて危うく喉を詰まらせる始末である。ったく、普段から食わせて無いみたいで恥ずかしいから、止めて欲しいもんだぜ。


 喉を詰まらせかけているジャンに、水の入ったコップを差し出しながら、



「お前等は良いのか?旨いぞ?」



 と、食い意地全開の二人から、パンを二つ、皿の上から救い出すと、二人を呆然と眺めていたノエルとノインの二人に差し出す。



「……え、遠慮しておこう。二人にあげてくれ」

「え、えぇ。私も結構ですから、お二人に差し上げてください」

「そうか? 後で食べるって言っても、もう遅いぞ?」



 そういうと、一つだけ皿に戻す。そして、手に残った黒パンを口に放り込むと、水で流し込んでから、



「んで、早速ここから出るんだが、外までの道とかって覚えているかい?」

「……いや、先程も言った様に、ここに連れて来られた経緯を覚えていないんだ」

「……そうか、ノインの嬢ちゃんは?」

「……覚えていません」



 そう返事をしたノインの嬢ちゃんは、テーブルから目を離さなかった。皿の上に乗った最後の黒パンの行方が気にでもなるのだろう。その最後のパンは、ジャンがミナに譲る形で、手渡していた。



「貴殿はどうなのだ、アラン?」



 俺に話を向けてくるノエル。貴殿なんて聞き慣れない言葉だったもんだから、最後に名前を付けられなかったら、誰に対して言っているのか分からなかった。



「俺か? 俺も同じ様なもんだ。ジャンの奴もな。ミナも同じだろうよ」

「そうか、ならば——」

「……あぁ、結局はあのドアから出る事には変わらないだろうな」



 そう口にして、見張り部屋に有る、一枚の扉に目を向けた。この部屋にある唯一の出入り口だ。そこから俺達も、牢屋でお寝んねしている見張りの連中も、この部屋に入ったに違い無い。ならば、外に出るのならここからという事になる。



「そうと決まればサッサと出るぞ。いつ他の奴らが来るか分からないからな」

「あぁ、そうだな。……ノインさ……、ノインもそれで宜しいか?」



 扉の様子を確認する為、近付いていった俺の背後で、そうやり取りをする兄妹。おいおい、ノエルさんよ、あまりにも芝居が下手過ぎるんじゃねぇか? その内にそのお嬢ちゃんに叱られちまうぞ。



「……よし、鍵は掛かってないな。んじゃ、行くか。先頭は俺が行く。ノエルさんは一番後ろで良いかい?」

「無論だ。後方は俺が守る」

「そいつは頼もしいこった。おい、いつまで食ってんだ。さっさと行くぞ」



 騎士の儀礼の様に、棒きれを体の前で垂直に立てるノエル。それを見て、ノインの嬢ちゃんが何か言いたそうにしていたが、面倒なので見なかった事にする。

 そして、コップの水を呷っていたジャンとミナの二人に声を掛けると、俺はガチャリと扉を開けた。


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