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165話

 

 ☆ アラン視点   ☆




「んで、お前等は何なんだ?」



 ギャズの野郎に一服盛られ、恐らくはヤツの所有する【ジ・エンド】内の牢屋部屋へと容れられた俺は、見張りだろう二人のマヌケを罠に嵌めて、キッチリお仕置きまでかまして倒すと、懐に持っていた牢の鍵と、ソファに座るミナ達ともう一人の女の子のみにされていた手錠の鍵を奪い取る。そして手錠を外してやると二人を起こし、残るジャンともう一人の男を起こしてもらう間、俺は外した手錠を未だに意識を戻さないマヌケの手に嵌め、そこら辺に転がっていた布切れを口に噛ましておいた。


 そうして一連の作業が終わると、すっかりと目を覚ました、俺と変わらなそうな歳の銀髪銀目の野郎と、こちらは金髪金目の、ミナよりも少しだけ年下だと思われる女の子、そして、何故かミナに怒られているジャン、そいつらを見渡して切り出す。


 すると、金髪の女の子が銀髪野郎の腕をそっと抱き寄せた。このアンダーモストではとても珍しい、真っ白いワンピースしか着ていないから寒い、という訳では無さそうだ。その様子に注意を払っていると、こちらもアンダーモストでは珍しい、質の良い、黒い官服(かんぷく)を身に着けた銀髪野郎がその俺の視線を遮る様に一歩前に出る。肩に付いていた金色の飾緒(しょくしょ)が揺れる。



「……どうやら助けてもらったようだが、そちらは一体?」



 女の子に向けていた視線を遮られた事で、スッと野郎の方へと顔を向ける。その顔は明らかに俺を怪しんでいた。まぁ、当然だわな。



「……人に聞く前に、まずはテメェから言うモンだろ?」



 だが、それが気に食わなかった俺は、逆に問う。別にただ気に食わなかったという理由だけでこんな事を口にした訳じゃない。いや、確かにムカつきはしたが、コイツが最初に発した言葉、その端にどこか人を見下している様な空気を感じたからだ。そんな風になるのは、ギャズの様に、経緯はどうであれ自分の力でのし上がってきた奴か、あるいは……。

 俺の言葉を受けて、銀髪野郎は俺への怪訝を深めた様に視線を細める。だが、ここで事を起こす程の馬鹿では無かったらしく、



「……失礼。自分はノエル。そしてこの子は……、俺の妹のノインだ」


(偽名、だな)


「……そうか。んじゃ、俺はアランで、あっちがジャンであっちがミナだ。二人とも家のモンだ」



 恐らくは偽名だろう名を名乗った二人に対し、こちらは本当の名と関係を伝える。俺も偽名にしようとも思ったが、まず間違いなくジャンかミナが普通に俺の名前を言うだろう。それでバレて余計な不信感を与えても、ここか逃げ出すのに面倒事が増えるだけである。そんな事になる位ならば、初めから本当の事を話した方が都合が良いと判断した結果だ。



「……そうか」



 奴はどう受け止めたかは知らない。自分も偽名を使っている事で、こちらも偽名だと思っているのかもしれない。まぁ、どっちだって構わないがな。ま、ノエルと名乗った銀髪野郎のツラを見る限り、信じては無さそうだが。



「納得してもらえた所で、早速さっきの質問に答えて欲しいんだが?」

「……あぁ。……といっても、そこまで詳しい事は解らないが、どうやら私達兄妹は誘拐された様だ」

「ほぅ」



 別に珍しい話じゃない。アンダーモストはともかく、このロワ―タウンですら誘拐なんて日常茶飯事だ。女子供はもとより、男だって容赦無く攫われちまう。そんなんだから、ウチのガキ共には決して一人で出歩くなと伝えてある。二人だからと言って攫わないという事は無いが、人数が増えるだけで、攫うのに時間や手間が掛かるので、安全性はグッと増すのだ。



「兄妹で危ない所でもうろついてたのか?」

「分からない。普通にこの子と歩いていただけなんだ。そうしたら急に後ろから羽交い絞めされて、顔に何かを押し付けられたと思ったら、意識を失っていた……」

「そうか」



 良くある手口だ。という事は、コイツ等を攫った奴らはかなりそっちに手慣れた奴らに違いない。ならば、単純に攫われただけ、と考えるのはまだ早いな。



「ま、おたくらの事情は分かった。んで、こっちの事情なんだが……、まぁ、似た様なもんだ」

「……」

「で、これからどうするかって事なんだが、俺達はここから出る。お前等はどうする?」



 そこで、床にお寝んねしている巨漢のケツを蹴り付ける。微かに呻き声を漏らすも、まだ暫くは目を覚ます事は無いだろう。



「……私は貴方に従います、ノエル」

「……分かり、ました……」


(おいおい、兄妹なのに上下関係見せてるんじゃねぇよっ)


 ノエルという銀髪野郎が偽名を名乗った時点で、二人の関係性も怪しいモンだと睨んではいたが、早速コレかよと、思わず突っ込む。

 だが、なんとか面に出す事を我慢した俺は、任せると言われたノエルの言葉を待つ。だが、その綺麗な造りをした顔の、顎に手を添えて考えるだけで一向に何も言いやがらない。



「おいおい、そのまま考えるのも良いが、ここは時間が惜しい所なんだよ」



 痺れを切らして、ついでに堪忍袋の緒も少しばかり切らして、ノエルを睨む。

 すると、少しだけ伏せられていた目がスッと細くなると、奴の中に潜んでいたモノが鎌首をもたげる様に表面に出て来た。



「ほう?」

「……いけません、ノエル」

「……済みません。……失礼、私達もあなた達と行動を共にしたいのだが、それで構わないか?」

「あぁ、良いぜ。元よりこっちはそのつもりだったんだからよ」



 それは本当だ。このままコイツ等を見捨てていった方が、俺達がここから抜け出すのには都合が良い。人数が増えれば増える程、相手に見付かる危険は増すしな。

 だが、そうしなかったのは、単純に俺の性格ゆえである。ま、途中でギャズにでも見つかったら、コイツ等を見捨てる事くらいはするだろうが、な。



「そうと決まれば早速行動だ。——おい、いつまでもじゃれ合ってんじゃねえぞ、ジャン、ミナ!」



 俺が兄妹と話している間も、じゃれ合っていた二人。



「だってミナがっ。せっかく助けに来たっていうのに怒るんだぜっ!?」

「当たり前よっ! アンタが来ても危ないだけだし、アラン兄さんの足を引っ張るだけじゃないっ!」

「んだとっ!?」「なによっ!?」

「ウルセェな。続きは帰ってからタップリとしろっ。置いてくぞっ」



 そこでゴチリとジャンの頭に拳を落とす。涙目になったジャンが非難めいた視線を向けてくるが、面倒なので放っておくとして、



「ジャン、何か得物になる様なものが有ったら手に持っておけ。そっちのノエルさんとやらも、イケるんだろ?」



 目を細めると、ノエルを見る。さきほどコイツの見せた殺気は相当なものだった。ならば、と挑発めいた視線を向けると、



「……あぁ、少しはな。これでも昔は【ハイ——】」

「——ノエル」



 失言、だったのだろうノエルの言葉を、鋭く遮る金髪少女のノイン。



「——済みません」

「良いのです。それで、貴方も相当な腕前なんでしょう、アランさん?」



 まるでノエルの失言から話題を逸らす様に、俺へ話題を振るノイン。これ以上の面倒事は御免被りたい俺は、その話題に進んで乗った。



「あぁ。お前の兄ちゃんよりも強い、ぜ?」

「それは心強いですね」



 俺が話に乗った事に満足そうに微笑むと、そんな軽口を叩く。このノインという少女の口ぶりは、見た目の年齢に似つかわしい程に大人びていた。


 二人から視線を外すと、容れられていた牢屋の中を物色するが、武器になりそうな物は無かった。当たり前か……。牢の中に武器を置く程、間抜けって事は無いらしい。



「この部屋には何も無さそうだよ、アラン兄ちゃん」

「ちっ。んじゃ、コイツ等の得物でも拝借するか」



 そう言って、手錠で拘束してある見張りの二人をガサゴソと物色する。



「ん~、おっ! 何かあったぞ」



 巨漢の男は何も持ってなかったが、チビの方は懐にナイフを忍ばせてあった。そいつを取り出すと、ヒョイッとジャンに投げ渡す。



「うわわっ! あ、危ないよ、アラン兄ちゃんっ!」

「うるせぇなぁ。 ジャン、お前はそいつを使えるよな? そいつでミナを守れるよな?」

「え? う、うんっ! 任せてよっ!」



 投げ渡されたナイフをおっかなびっくり受け取ると、俺に抗議するジャン。だが、俺の気の利いた言葉を受けると俄然やる気になり、ミナに視線を向けてグッと両こぶしを作り、鼻息を荒くする。ったく、単純な奴だぜ。



「……ちなみにアレはあんたの得意な得物かい? ノエルさんよぉ?」

「いや、アレは自分向きでは無い。自分的にはもっと長い——、剣が一番だ」



 そう言って、顎に手を添えるノエル。その仕草がやけに様になっていて、少しイラっとくる。優男だし存外女にモテるに違いない。



「そうか。ならコイツ等の居た部屋を見てみるか。何かあるかも知れないしな」


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