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163話

 

 △ ユウ視点  △




「——て事なんだよ」



 丸いテーブルに置かれた魔導ランプの光は、サラが寝ているので一番弱くしてある。そんな弱い光に染め上げられた部屋の中で、僕は対面のベッドに座るアカリに先ほど宿の女将さんから聞いた話をした。



「……なるほど、ね」



 話を聞き終えたアカリは、考え込む様に俯く。同時に、アカリの座るベッドの奥に映るアカリの影が揺らめいた。



「で、どう思う?」

「……聞きたいのだけれど、その王都とやらに行くのに、今ある物資だけでは足りないの?」

「……分からない。僕も王都には行った事が無いから」



 一回でも王都に行っていれば、その時の経験である程度の目途が付く。だけど、行った事がないので、それすら出来ない。



「母さんは、まだ幼い僕を連れて、イーサンさんとエマさんはそんな母さんを追って、それぞれ王都からアイダ村へと来た訳だけど、その三人がこの街で旅に必要な物を補充しなさいって言っていただろ? それには何か理由がある筈なんだと思う。この先の行程が厳しくなるのか、それとも次の町が遠いのか」



 アイダ村を出る時、母さん達は言っていた。ここイサークの街に寄って、旅に必要な物資の調達をしなさい、と。という事は、、村を出る時に用意されていた水や食料などでは、王都まで持たないという事になる。



「そうなるわね。ならば選択肢は二つに一つね。高いのを承知で、この街で物資を補充するか、それとも、次の町まで、今ある物資を何とかやりくりして進むか」

「……そうだね……」



 アカリが提案した様に、選択肢はこの街に留まるか、先に進むか二つに一つなのだ。



「取り合えず、また下の食堂に行って、女将さんに次の町までどの位掛かるのか聞いて見るよ。判断材料は多い方が良いからね」

「そうね、ならお願い出来る?」

「うん、じゃあ、行ってくる」



 そうと決まればと、早速女将さんから情報を得る事にした僕が立ち上がると、ベッドがギシリと小さく鳴った。今日あった様々な出来事のせいで早くベッドで休みたかった僕には、その音がまるでベッドへと(いざな)っている様に聞こえた。だが、まだ休むわけにはいかないと、首を小さく振りながら、部屋の扉に近付いた時、


 コンコン……


 と、ちょうど開けようとしていたその扉がノックされた。


(ん、何だろ? もしかすると、僕のことを心配していた女将さんが、わざわざ部屋まで様子をみに来てくれてのかな?)


 それほどまでに心配掛けたのかなと、「はーい」と返事をして、部屋の扉を開けようとする——



「——ユウっ!」

「へっ?」


 スッ——



 扉のドアノブに手を掛けたのと、アカリに首根っこを引かれた事、そして、アカリに引かれる前にあった僕の首の部分に、キラリと鈍色に光る何かが通り過ぎるのはほぼ同時だった。


 そして、そのままアカリに引っ張られた僕は、盛大に尻餅を付く。



「いててっ!? おい、アカリ! 何すんだ——」

「おいおい、躱しやがったよ……」


 未だに状況を理解出来ていない俺は、アカリに文句の一つも付けてやろうとしたが、その前に、男の声が耳に入る。

 ギョッとしてその声のした方を見ると、ボロボロの布切れを頭にグルグルと巻いた男が、僕が開けかけた部屋のドアをさらに開けて、部屋の中へと入って来た。



「おかしいなぁ。今のは躱せる様な間合いじゃなかったんだが……」

「お前の腕が鈍っちまっただけじゃねぇのか?」



 ブツブツ言う男の後ろから同じ様に顔を隠した、こちらはかなりの大男が、思いきり身を屈めて部屋の入り口を潜り中へと入ってくる。何なんだ、コイツ等は!?



「そんな事は無いと思うんですけどねぇ、兄貴」

「あっ、馬鹿野郎っ! この恰好の時に兄貴なんていうんじゃねぇよっ! せっかく顔を隠してんだぞ!」

「あっ!? 済みません、兄貴っ!!」

「あぁっ!?」


 僕達の部屋に押し入ってきて早々に、漫談を始める二人。何だろう、もしかして部屋でも間違えたのかな?

 だが、そんな僕の暢気な考えを振り払う一言が、僕を庇う様に前に立つアカリの口からもたらされる。



「——アナタたち、昼間の当たり屋、ね?」

「えっ?」

「ほら見ろ! バレちまったじゃねぇかっ!」

「済みません、兄貴っ!」



 ゴチリと背の低い男を殴る大男。そして、「ったく、もう意味がねぇな」と言うや、頭に巻いていたボロ布を取り始める。



「あぁ、スッキリしたぜぇ。こんなの巻いていると、周りが見えにくくて仕方ねぇ」

「お、お前はっ!?」



 頭に巻いていたボロ布を取って現れた、魔導ランプの弱い光が照らし出すその顔は、確かにアカリが言った様に、昼間に花瓶の事で一悶着を起こした相手である、禿頭の大男だ。



「いててっ。兄貴、何も殴らくても……」



 と、ブツブツと文句を言いながらも、こちらも頭に巻いていたボロ布を取り始め、そして現れた顔は、やはりあの時僕にぶつかってきた先端が跳ねている口髭を生やした小男だった。


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