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161話

 

「——っ!? う、旨いよ、これ! アラン兄ちゃんっ!」


 玄関ホールの奥。応接間の様な造りになっている部屋に通された俺たちに、紺のメイド服に身を包んだメイドが、席に着いた俺たちに早速、お茶と例のお菓子を提供してきた。そのお菓子を、キラキラとした目で見ていたジャンに、「どうぞ」とギャズが勧めると、「い、頂きます」と、シスターが口を酸っぱくして注意している、必要最小限の挨拶をちゃんと忘れる事無く口にして、恐るおそるテーブルに置かれた焼き菓子の入った箱の中から一つ取り出し、包みを解いて口に含むと目を見開き、一気にバクバクと口に詰め込んでいく。「おかわりもどうぞ」と、ニコニコしているギャズに勧められると、両手に持って、次々に口に運んでいく。下に食べかすをボロボロと零しながら、だ。シスターが見れば、嘆き悲しむ事は間違いない。


「……たく、何も食わせてねぇみてぇにガッツきやがって」

「ホホホ。子供なんて、その位が可愛いものですよ。アラン君もお一つどうですか?」

「いや、俺は甘いモンは苦手なんでね」

「おや、そうですか? こんなに美味しそうですのにねぇ」


 そう言って、ジャンの目の前にある焼き菓子と同じ、だが、まだ誰も手を付けていない箱の中から、一つ取り出し口に運ぶと、顔を綻ばせている。それでも気持ち悪いが。


 おれは、出されたお茶、ロワ―タウンでは味わう事なんてそうそう無い、香りが豊かなお茶を一口含むと、カップを置いてギャズに目を向ける。


「それで? そのメイドさんとやらは、いつここに?」


 玄関ホールと同じ、白で統一された造りの部屋に、これまた白基調の調度品が適度に置かれた応接室を何気なしに見ながら、ギャズに質問する。

 二つ目の焼き菓子に手を伸ばしていたギャズが、俺に目をやり、


「もう少しでここにきますよ。今、秘書が呼びに行っていますから」

「早くして欲しい、ね」


 柔らかすぎず、それでいて硬すぎないソファに体を預けること、暫く、


「……ギャズ様」


 例の女秘書が部屋に入って来ると、ギャズに耳打ちをした。


「……ほほ、それは何より」

「……どうした?」

「いえ、懸案だった取引の一つが上手く行きそうでして、ね」

「……それは何よりだ、な?」


 そう口にした途端、舌にちょっとした違和感を覚えた。


「あ?」


 その違和感は舌から口、そして顔から首、全身にと急速に広がっていく。


「て、てめ、ぇ」


 間違いなく毒だ。出されたお茶に一服盛られていたようだ。まさかいきなり、かましてくるなんて!まるっきり油断していた俺。すでに毒は全身に回っている様で、痺れて動けない。何とかギギギっと首を横に向けると、両手に焼き菓子を持ったまま、すでに意識を失っている様子のジャンが、テーブルに突っ伏していた。それでも焼き菓子を離さなかったジャンの食い意地は称賛に値する。


「ほほほ、やっと効きましたか。常人の10倍の量を入れたのですがねぇ」


 馬鹿には効きが悪いのかな?等とお道化ているギャズ。


「————!」


 痺れのせいで、すでに言葉は発せなくなっていた。代わりに思いっきりギャズを睨みつける。


「ふぅ、やれやれ。アランくんはもう少し、口の利き方に気を付けた方が宜しいですねぇ」


 焼き菓子を食べ終わると、ナプキンで口を拭き、立ち上がるギャズ。そして、俺の所に来るなり、


 ガスッ!


「——っが!」


 俺の頭を踏み付ける。


「全く、自分の立場と、私の立場に、どれだけの差が、あるのかを、ねぇ!」


 ガスガスと頭を踏み付けながら、言い放つギャズ。短足野郎に頭を蹴られても全く痛くは無いのだが、途轍もなく腹が立つ。


「ふーっ!ふーっ!」


 一通り、俺の頭を踏み付けたギャズは気が済んだのか、ハァハァと息を切らせながら、俺の頭から足を下ろすと、乱れた服を正す。正した服装を、女秘書に確認してもらいながら、


「さて、あまり時間も有りませんからね。……それではお願いしますよ」

「はい、ギャズ様」



 ギャズは俺とジャンに一瞥くれると、部屋を出ていく。

 残された秘書が手を2、3度叩くと、部屋の入り口に筋肉だるま宜しく、どういう趣味か、メイド服に身を包んだ、丸坊主の巨漢が一人入ってくる。


「お呼びですか?」

「えぇ、この犬っころを二匹、例の部屋に運んでちょうだい」

「……解りました」


 そう言うと、俺とジャンを両肩に抱きかかえ、部屋を出る。どこかへ運びだされる様だ。


「——っ!?——!!」


 痺れが少しずつだが取れ、力が入るようになった体で、筋肉だるまから逃れようと、もがいてみるが、


「あら? もう薬が切れ掛かっている。さすがは〔ロワーの狂犬〕。薬への耐性もしっかりしてるわね——」


 女秘書は口に手を当てひとしきり笑うと、スーツの内側に手を忍ばせ、一本の注射器を取り出す。


「全く、あれだけの量を混ぜたのに効かないんだもの。直接打った方が早いわよね」


 そう言って俺の腕を取ると、プスリと針を刺し、中の薬を投入していく。


「——っ!」


 薬を投入された所が急に熱さを発した途端、意識が反転した。


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