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160話

 

 玄関を潜ると、天井にはキラキラと光り輝くシャンデリアが照らし出す玄関ホールは、壁のコンクリートも各部屋の扉も、上階に延びる螺旋階段も白色に統一されていた。


(こんなだったっけか?)


 前に来たのがハッキリと何年前なのかは分からないが、俺の記憶には、こんな玄関を通って行った記憶が無かった。


 そんな中、


「来ましたねぇ、教会の札付きが」

「……ギャズ、……さん」


 秘書なのか、キッチリとした、黒のスーツに身を包んだ背のデカい女を伴い、玄関ホールの奥にある螺旋階段から下りてくる、こちらも白のスーツに身を包んだ、ヒキガエルがまだ可愛く見える程のヒデェ顔をした、チンチクリンなオッサンが下りて来た。ギャズだ。


「これはゴアイサツっすね、ギャズさん」

「おや?誉め言葉のつもりだったんだけどねぇ」


 そういう口元には、思いっきり人を馬鹿にした様な薄ら笑いが浮かんでいる。

 螺旋階段を下りて、玄関ホールに佇んでいた俺たちの前まで来ると、


「それで? 何用かな?」

「……さっきも言った様に、ウチのガキが一人、行き方知らずになっちまって。最後の足取りがギャズさん所への使いだっていうから、その時の様子を聞きたくて」

「……そんな事か」

「——っ!? そんな事って何だよっ!」

「ジャン、落ち着け」

「でもっ!」「良いから」「……ぅん」


 ギャズの返答に、激高したジャンを黙らせる。そのやりとりを気持ちの悪い顔でニマニマと見ていたギャズが、わざとらしく両肩を竦めると、


「さて、私としては、その時の事は全て憲兵に話してありますからねぇ……。新たに何かをお話しする事も無いんですがね……」

「……ミナが、ウチのガキがギャズさんの所に来たのは、間違い無いんだな?」

「えぇ、確かにいらっしゃいましたよ。あれは一昨日の昼過ぎ、でしたかねぇ」

「……で、そのまま使いを済まして帰って行ったと?」

「えぇ、間違いなく。そんな難しいお使いでは無かったですしね。ねぇ?」


 ギャズは後ろに控えている秘書の女に目を向ける。「えぇ」と答える女の声は、先程インターフォン越しに聞いた声と酷似していた。おそらく、さっきのインターフォンでの応対はこの女か。


「……そんな怖い顔をしても、彼女は嘘を吐いてはいませんよ」

「……別に疑っちゃいねぇよ……」


 女から目を離し、ギャズの方に目を戻す。

 ギャズもこの女も、嘘を吐いているとは最初っから思っていない。もし、こいつ等が話を合わせて嘘を吐いていても、得が無いからだ。

 こっちとしては、ギャズの所に使いにやったという裏付けがある。もしギャズがこの家で、ミナに何かをしたとしたら、真っ先に疑われるのはギャズである。そんな面倒な事を、この男がする訳は無い。……町の憲兵によっぽど積んでいない限りは、だが。


(で、あるならば、問題はこの後、だ)


 ミナの安否に、ギャズが絡んでいるかは分からない。だが、ミナはここからの帰り道に、何らかの事変に巻き込まれちまったんだろう。

 今日ここに来たのは、その確認と、俺が動いたという事を知らせる為、だ。


「……そうか、邪魔したな、ギャズさん。それと、いつも援助有難うな。シスターマリアも感謝してたぜ?」

「それはそれは。良く勘違いされるのですが、これでも私は敬虔な信者ですからね。教会が困っているというのに、何も支援出来ないなんて、心苦しいんですよねぇ」

(言ってろ)


 その場で唾を吐き捨てたいのを何とか我慢して、踵を返す。


「おや?お帰りですかな?」

「……あぁ。何か思い出したら、教会に知らせてくれよ」

「はい、そうですね。……ん、何だい?」

「……」


 振り返ると、帰ろうとしていた俺に声を掛けたギャズの耳元に、女秘書が体を折って何やら内緒話をしている。どうせ、関係無い話だろうとそのまま玄関ホールから外に出ようとすると、


「……アラン君、ちょっと待ってもらいますか?」

「……あぁ?」

「いえね、この秘書が言うには当日、そのお使いに来た女の子の事について、うちのメイドが何やら気になった事があったと、報告していたらしいのです」

「……それは何だ?」

「……ここで立ち話もなんですから、お茶でも、ね?」


 そう言ってギャズは、この玄関ホールから見える、奥の応接間らしき部屋に目を向ける。


「こちとら、忙しいんだがよ」

「まぁまぁ。そのメイドも連れて来なくてはいけませんし、ね。 そうだ、今、【ミッドタウン】で、話題になっているお菓子も手に入りましてねぇ。そちらの坊ちゃんの口にも合いそうだ。どうです?」

「……」


 そこで、ジャンに目を向ける。ジャンは迷っているようだ。教会で暮らしていると、お菓子なんて月に一度食べれるかどうかって代物だ。だが、ミナの心配もある。その狭間で揺れている様だ。

 そこに、ギャズはトドメとばかりに、


「お気に召せば、教会の他のお子さん達の分も、持って行ってくれて構いませんよぉ」

「——っ!? アラン兄ちゃん!?」

「……ふぅ。手短にしてくれよ、ギャズさん」

「それでは、こちらへ……」


 俺の言葉に、例の気持ち悪い笑みを浮かべるギャズと、俺たちを部屋へと案内する女秘書。正直、あまり長居したい場所じゃなかったのだが、しょうがない……。


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