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158話

 

 教会の敷地を出る。周りは次層に届かんばかりに延びる、相変わらずの無機質なビルばかりだ。だが、どれだけ延びようと、延ばそうとしても、決して次層には届かない。届いてはいけない。


「さて、ギャズの所はどっちだったか……」


 俺も確か12、3位までは、ギャズの所に、お使いさせられていた記憶はあるのだが、あれから五年以上経っている。無意識に寄り付かない様にしている内に、道まで忘れちまったらしい。

 すると、


「アラン兄ちゃん~!」


 教会から、焦げ茶の長い髪を後ろ手に縛ったジャンが走り出てきた。


「待ってよ、アラン兄ちゃんっ。僕も、一緒に、行くよっ」


 俺の元に着くなり、膝に手を置いて息を整えるジャン。


「別に付いてこなくても良いんだぞ?」


 見下ろす様に言い放つ。正直、これから行くギャズの所で、なにもしない気がしないのだ。ならば、身内にはあまり見せたくは——。


 だが、まだ整わない息のまま、俺をキッと睨むように下から見上げると、


「いや、行くっ! 俺も、ミナが、心配だからっ!」

(——ほう?)


 男の子の意地という奴かと思ったが、どうやらそれ以上の感情がありそうだ。こういう奴は嫌いじゃない。


「……邪魔はすんなよ?」

「——っ!? うんっ!」


 息を整えたジャンは、嬉しそうに頷くと、膝から手を離して、


「それで、これからギャズさんの所に行くんでしょ?」

「あぁ」

「じゃあ、早く行こうよっ!」


 と、俺をおいていくかの様に走り出す。


「お、おい、ちょっと待てって」


 慌ててジャンの後を追い掛けた。



 ジャンの後に続いて、ロワータウンを歩いていく。あまり近寄っていない地域だからか、相変わらずの無機質なビルだが、見慣れない雰囲気に思わずキョロキョロしていると、


「お、アランじゃねぇか?! また、遊び呆けているのかぃ?」

「おや、アランちゃん? 今日はどうしたね?」


 等と、顔馴染みの住人が声を掛けてくる。


「うるせぇな。もう遊んでねぇよ」

「いや、野暮用だよ」


 等と軽くあしらいながら先を進むと、このロワータウンの中で一番高いビルが見えてきた。


(あー、確かここだったっけか)


 うっすらと思い出した記憶では、確かここがギャズの住んでいるビル、通称【ジ・エンド】だ。


「何だよ、アランお兄ちゃん。ジ・エンドも忘れてたの?」


 額に手を添えて、朝用の眩しい照明から目を守る様にジ・エンドを眺めていると、隣に立つジャンがからかい口調でそう言ってきた。


「うるせぇ、行くぞ」


 ジャンの頭を拳でグリグリと押し、ジ・エンドの中へと入っていく。


 ここ、ロワータウンのビルは全て集合住宅だ。4、5人位の世帯が暮らせる程度の間取りの部屋が、一つの階に5つ程度あり、それが大体10階層ほどが、ここロワータウンの平均的なビルの高さだ。アンダーモストも大体は一緒だが、あそこは人の入れ替わりが激しい為、居住に困る事は無い。


 しかしここ、ロワータウンは違う。アンダーモストに堕ちきれない、だが、上を目指さない底辺層の人間はかなり多いのだ。

 そこで間違っちゃいけねえのが、彼らは別に現状を憂いている訳ではねぇってとこだ。逆に満足している奴の方が多いかもしれない。住み心地が良いのかもしれない。

 だが、その住み心地の良さに引かれる様に、このロワータウンには多くの住人がやってきて、今じゃ居住するビルも足らねぇ位だ。


 そんな居住に困るロワータウンでも、一際高い建物が、このジ・エンドだ。


 玄関ホールに入ると、右手にはなんとエレベーターが備わっていた。さすがはジ・エンド、良く見れば、他の建物とかとは違い、そこかしこに有る、煌びやかな照明が照らす内装もキレイである。明らかにロワータウンに在る様な建物では無い。


「うわぁ、何だここ!?すげぇキレイだっ!?」


 ジャンが興奮しながら辺りを見回す。確かにこんな光景、ロワータウンではお目にかかれる物では無い。


(ちっ!一体何をしたら、こんなに稼げるんだか)


 俺からしてみれば、この建物自体がこの

 ロワータウンの異物である。そんな異物に出来るギャズという人間が少しだけ怖くなった。


「おい、こっちだ」


 未だに興奮して、キョロキョロしているジャンの襟首を掴んで、エレベーターの前に行き、上に行くボタンを押すと、ちょうど一階で停まっていたのか、エレベータードアが開く。


「何だよ、これっ!?」


 初めて見るエレベーターに、さらに興奮度を増したジャンを引っ張り中に入ると、12階のボタンを押す。別に15階に行きたくなかった訳じゃ無い。エレベーターのボタンがそこまでしか無かったからだ。


「あれ? ギャズさんて、確か15階に住んでいるんじゃなかったっけ?」


 俺の押したボタンの数字を見て、不思議そうな顔を浮かべるジャン。このビルに入ってきた時の反応と、この言葉を聞くに、どうやらジャンはギャズの部屋に行くのは初めてらしい。


 エレベーターのドアが閉まり、ガクンっと一度揺れた後、ブゥゥッンと浮遊感に襲われる。


「うわっ! 何これ!? 何これっ!?」


 両手を広げ、エレベーターの中でバランスを取ろうとするジャンに向かって笑いながら、


「おい、ジャン。少しは落ち着け。良いか? ギャズは確かに15階に住んでいる。だがな、ここに並んでいる数字には12階までしか無い。という事はどういうことだと思う?」


 そう問うと、ジャンは「うーん……」と、腕組みをしながら首を捻る。と、


「解った! 12階でこいつから出て階段を歩くんだな?!」


 と、正解を当ててやったと誇らしげな顔をする。だが、


「——不正解だ。正解は、な?」


 そこで、チーンと目的の階に着いた事を知らせる音と同時に、エレベーターのドアが開く。


「——うわっ」


 ジャンが驚きの声を上げる。が、それも無理はない。


「——これが正解だ……。ちっ」


 思わず舌打ちする。


 目の前に広がる、ビルの中に建つもう一つの建物。


「これが、ギャズの家、さ」


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