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156話

 

 △  ???視点   △



 エレベーターから下りると、朝用の照明に照らされた、アンダーモストと変わらない街並みが広がる。


 ここは、俺が住んでいる【ロワータウン】。その名の通り、日々貧困に苦しむ奴等が集う、下流階級の町だ。


 ここの奴等は、たった一つの事だけを口にして、日々を過ごしている。『アンダーモストの奴等よりはマシだ』と。

 俺から言わせればどっちもどっちなのだが、それを言われるとここに住む奴等は、青筋を立てて怒るから、面倒臭くて何も言わない事にしている。


 だがまぁ、そいつらの言うことも解る。俺を含む、ここに住む奴等はアンダーモストの奴等と違い、人間を、生きる事を止めてはいねぇからだ。

 皆一応に働いているし、助け合いは合っても一方的にお恵みってやつを期待して生きてはいねぇ。

 ゴミみてぇな飯かも知れねぇが、自分の働いた対価で食っている飯だ。そこには味以上の何かが多分に含まれている。


 何より、ここの奴等はクソみてぇな奴も多いが、笑顔がある。見えねえ位に小せぇが、優しさもある。そこが、アンダーモストとのデカい差だと俺は思っていた。


「久々だからか、良い町に見えちまうな……」


 街並みは汚い。そこかしこにゴミはあるわ、ゲロはあるわ、汚水は溜まっていて、虫は湧くわ、だ。


「まぁ、クソと死体が無いだけマシだな」


 と、俺もここの住人宜しく、アンダーモストと比べてしまっている事に気付き、自嘲めいた笑みを浮かべた。


 アンダーモストとあまり変わらない、下から突き出た様に生え、打ちっぱなしのコンクリートビルが乱立する中、誰かのゲロを踏んだ八つ当たりで、道に転がっていたビールの空き缶を思いっきり蹴飛ばしながら歩いて行くと、目的の場所に着く。


 天井からの、少し暗い照明に照らされたそこには、ビルの間にポツンと在る、一件の寂れた教会。

 敷地を囲う塀は所々が砕けボロボロで、教会の壁にも蔦が覆う。まるで、お化け屋敷の様だ。

 だが、ここが、このボロい教会こそが、今の俺の全て。


 俺は孤児だ。物心付いた時からここに居る。何処のどいつが両親かなんて知らねえし、知りてえとも思わない。そいつに意味を見出だせないからだ。

 俺はこの教会の様に、まるでゴミ屑よろしく棄てられていた様だ。それをここのシスターに拾われて育てられたっていう、よくあるお涙頂戴の話を、地でいく様な生い立ちだった。


 だが別に、それをどうこう言うつもりは無い。良くも悪くも、俺は今生きている。それだけで十分だ。生きていりゃ、人間なんて単純に出来ているから何とかなるもんだ。



「……二週間位帰らなかったからな。五月蝿く言われなきゃいいが……」



 教会と孤児院の管理をしている、母代わりのシスターはかなりの過保護で、18になった今でも、ちょっと帰りが遅くなっただけで、どこに行っていたのかだの、何で帰りが遅くなっただのと五月蝿い。……まぁ、それも理由があるのだが……。


「ちっ、何か理由を考えねぇと、また外出禁止されかね——」

「アラン兄ちゃんっ!!」


 教会の敷地に足を踏み入れ、頭を掻きながら言い訳を考えていると、教会の扉口から焦げ茶色の髪を後ろ手に縛った坊主が一人、俺の名前を叫びながら走ってきた。俺と同じ孤児で、教会の裏にある孤児院で一緒に暮らしているジャンだ。


「おぉ、どうしたジャン。俺が中々帰って来ねえから、夜のトイレに一緒に行く奴が居なくて、辛かったか?」


 ジャンの奴は、今年で13になるっていうのに、未だに一人で離れにあるトイレに行けず、違う部屋に寝ている俺を起こす始末だ。


「そろそろいい加減一人でトイレ位——」

「アラン兄ちゃん、今はそれ所じゃねぇんだよっ! ミナが! ミナがっ!」

「——っ!? おい、落ち着け、ジャン! ミナの奴がどうしたってんだ!?」


 近づくなり、俺の両腕を掴んで揺らしながら、息も絶え絶えに上目遣いで訴えるジャン。

 ミナとは、俺やジャンと同じ孤児で、パッチリとした茶色の目の下にそばかすのある、今年12歳になる女の子だ。

 そんなジャンを落ち着ける為、捕まれた腕をそのままジャンの肩に置いて、顔を近づけ、詳しい説明を求める。


 すると、ジャンは少しだけ落ち着きを取り戻したのか、息を整えると、まっすぐに俺の目を見つめ、


「ミナが、一昨日から帰って来ていないんだ」


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