もう一つのやるべき事
レベルアップの間を後にした僕たち。
青年神官さんに案内されながら歩いてきた袖廊を、玄関ホールに向けて戻って行く。
「それにしても、誰にも会わないわね」
僕の少し後ろを歩いているサラとアカリ。そのアカリがそう呟く。
そうなのだ。レベルアップの間からこっち、誰にも会わない。時刻はおそらく6時を回っているだろうから、そんなに多くの教会に勤めている人達の数は減ってはいるだろうが、ここまで会わないってのは……。
「ま、この袖廊には、あのレベルアップの間しか無かったんだし、あまり人が来ないのかもね」
この袖廊を歩いて分かった事だけど、ここにはあのレベルアップの間以外には、小さなドア——恐らくは教会関係者の人達用の部屋だと思う——が10室程度にあるだけで、他には何も無かった。
「取り合えずはあの、玄関ホールまで戻ってみようよ。そうすればきっと誰かは居るよ」
二人にそう言って先を歩くと、
「あ、ほら、見えて来たよ」
僕たちが歩く緑の絨毯の終わりが見えてくる。それと同時に、玄関ホールに敷かれていた大きな赤い絨毯も見えてきた。そして、
「あ、ほらお兄っ。誰か居るよっ」
サラが指を指す。その先に人が数人居るのが見えた。見ると教会の人達が着用する、濃い深緑の神官着が見えた。
「良かった。教会の人みたいだ。——あのう、済みません——」
そして、僕たちは玄関ホールに居た、母さんよりも少しだけ歳を取った女性のシスターさんに、レベルアップをしに来た事。無事にレベルアップしたのだけど、覚えたスキルを知りたい事を伝える。
「あぁ、それでしたら……」
と、僕たちが来た、レベルアップの間とは、玄関ホールを挟んで反対側の、青色の絨毯が敷かれた袖廊を指差す。
「あちらに【鑑定】のスキルを持つ者が御座いますので、そちらで確認なさってください」
「鑑定のスキル、ですか?」
「はい。私達シスターや神官、神父など神に仕えるジョブの者が得る事の出来るスキルでした、物事の本質を視る事の出来るスキルなんですよ」
これも髪のお導きなのでしょうね、とシスターさんは続ける。
「それは凄いですね! 全て視る事が出来るのですか?」
「いえ、相手のレベルが高かったり、こちらのレベルが低かったりと、レベルに依存する部分が御座います。それと、相手に隠密などのスキルがある方は視えない事があります。それと……」
「それと、何ですか?」
「はい。レベルは問題無いのに、何故か視えない事もありますね。そういった時は視てはいけない、視られてはいけない何かが有るのかもしれませんね」
こちらも神のお導きなのでしょう、とシスターさんは話を締めた。
「分かりました。この奥なんですね?」
「はい。相談室も兼ねている小部屋が並んでおりますので、すぐに分かると思いますよ」
では、と頭を軽く下げて立ち去るシスターさんにお礼を言って、僕たちは青色の絨毯の敷かれた袖廊——扉口から入って左側——の袖廊を歩いて行く。
「親切な方で良かったわね」
アカリがさっきのシスターさんに対して感想を述べる。
「そうだね。アカリも神官系のジョブになれば、あのシスターさんみたいにお淑やかになるんじゃないのかな?」
「……へぇ、ユウも言う様になったわねぇ……」
「っ!? う、嘘です! 違います! そ、そう! アカリがシスターの服を着たら、とても似合うんじゃないかなって思って——」
「そんな訳無いでしょ~っ!!」
「うぎゃ~っ!?」
ゴゴゴッとアカリの背後から龍の様なヘビが出現、シャァ~っと大きく威嚇してくる。
「ま、待ったっ?! ここは教会、静かにしなきゃいけない場所なんだよ!?」
「問答無用よ~っ!」
「ごめん、許して~!」
「待ちなさい~!」
捕まったら殺られると、僕はシスターさんが教えてくれた場所に向け逃げ走る。そのすぐ後ろを、ヘビを背後に付けたアカリが追い掛けてきた。
必死に逃げる僕の耳に、
「二人とも着れば、大人しくなるのに……」
やれやれと呟くサラの声が聞こえた。