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【アンダーモスト】

 

 △ ???視点  △


「―ぅ……?」


 薄っすらと目を開けると、白い天井の照明光が目に刺さった。ここは一体どこなんだ?


「お、起きたか、(わけ)ぇの」

「……あぁ?」


 声のした方に顔を向けると、少しほつれた服を着て髪がすっかり淋しくなった、しけた面の爺さんが俺の事を見つめていた。見た事のない面だ。


「……ここ、は?」

「わしの家だ」

「何で、俺を?」

「……いつも飯を調達している場所に、お前さんが倒れておっての。そのまま放っておいても良かったのだが、さすがに寝覚めが悪くなるしの。仕方なく、わしの家へと連れてきた」

「―そう、か」


 そっと腹を撫でると、布の感触がした。どうやら包帯が巻かれている様だ。この爺さんが手当してくれたのだろう。


「こりゃ、随分と世話になっちまったようだな」


 そう言って、簡易なベッドから起き上がろうとしたが、


「―痛っ!?」


 ズキリと傷口に痛みが走った。思わず身を屈めてしまう。


「無理をすんな、若ぇの。その傷じゃあ、すぐには動けんよ」

「だがよ……」

「構わん、動ける様になるまでここに居ったらいい。あいにくと部屋は貸す程有るからの」

「……って事は、ここは」

「あぁ、【アンダーモスト】じゃ」


【アンダーモスト】

 このクソッタレな国において、最も底辺な人間の住む街。それがアンダーモスト。

 そこは、国から不適合者と判断された人間が、住む場所を求めて最後に行き着く地獄(らくえん)。そこの住人共に与えられるのは、生活するに困らない居住場所と、上から落ちてくるゴミだけだ。ただそれだけ。それだけで、死ぬまで生きて行かなければならない。ここはそんな場所だ。


「……お前さんが何をしたのかは知らんし、知りたくも無い。だが、体を休めるにはこの場所は最適だ。()(この)んでこのアンダーモストに来る奴は居らんからの」

「……」


 確かにこの爺さんの言う様に、身を隠すのならこのアンダーモストは最適だ。ただ、二度と上には昇れない。それにさえ目を瞑れば、だが。


「取り合えずは、体が治るまでここに居れば良い」


 そう言って、よっこらしょと立ち上がると、部屋の奥へと消える爺さん。それを見届けると、ベッドに倒れ込む。それだけで、ベッドのフレームがぎしりと悲鳴を上げた。


(ちっ。全く、下手をしたぜ)


 両手を組んで頭の後ろに入れ、腕枕をしながら天井を眺めると、丸い裸電球の周りを蛾が数匹飛んでいた。それをぼぉっと見つめながら、これからどうするか考える。


(取り敢えずは、あの爺さんの言う様に傷が治るか、せめて動ける様になるまではここで世話になるか)


 俺がここに運ばれて来てから、何日経ったのかは判らない。だが、あと一週間もすれば、動ける位には回復するだろう。


(それまで、ガキどもが無事だと良いんだがな……)


 歯がギシリと鳴る。もう少しで手掛かりが掴めそうだったというのに。


(あんなに警備が居たんだ。絶対、あの場所に何かが有るに違いねぇ)


 その警備の放った弾丸で、腹に穴が開いちまったんだ。今思い出すだけでも頭に来る!


(―待ってろ。 動ける様になったら、お返しに行くからよぉ)


 顔が歪むのが判る。自分の事ながら、きっともの凄く悪い顔になっているに違いない。


(また、アイツに怒られちまうな……)

「待たせたな。腹が減ったろ、若ぇの」


 すると、奥に消えていた爺さんが、何やらお盆を持って部屋へと入ってきた。そして、俺が寝ているベッド以外で唯一この部屋に有る、粗末なテーブルにそのお盆を置くと、上に乗っていた皿とフォークを俺に差し出した。どうやら、俺に飯を用意してくれたらしい。


「食わないと治るもんも治らんからな」

「……済まねえな、爺さん」


 一つ礼を言って、指の所だけ覆われていない、小汚い手袋をはめた手からそれらを受け取る。皿にはグズグズに煮込まれた麦と、欠片程度のくず野菜が入った粥が入っていた。


「……上からのゴミ、か?」

「嫌なら食わんでも良いぞ?」

「……いや、今の俺には過ぎるモンだ」


 そう言って、麦がゆを頬張る。少し塩気が足りないが、怪我人にはこれ位がちょうど良い。


「俺はどの位寝てた?」 食いながら、爺さんに聞いて見た。

「わしが見つけた時から三日じゃ。その前は知らんが、その傷ならそう経ってはいまい?」

「そうだ、な」


 この傷なら、長くは持たなかっただろう。なら、俺が意識を失って、そう経たない内にこの爺さんが拾ってくれたのか。運が良かったと言える。

 麦がゆを平らげ、再びベッドに横たわると、爺さんに向かって、


「考えたんだが、動ける様になるまではここで世話になろうを思う。済まないが、な」

「気にすんな、若ぇの。困った時はお互いさんだ。拾った手前、最後まで面倒みてやるよ」


 俺の食った麦がゆの皿を盆に乗せると、爺さんは少しだけ照れた様に笑いながら、奥に消える。

 その爺さんの背中に、改めて礼を言うと、目を瞑り、考えに耽った。


(頼むから、俺が行くまで持ってくれよ)


 そう願っている内に、眠気に襲われ、俺は眠りに落ちていった。


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