生まれた自信
※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)
アーネとのゴタゴタにより、教室に入るのが遅くなってしまったが、先生が来る前にはなんとか席に着いた。今日の授業は座学のみらしく、朝からずっと机に向かい、今は歴史を習っている。
村の学校は基本的に午前中だけだ。たまに午後授業もあるが、その時は家にいったん帰るか、家が遠い生徒はお弁当持参である。実技などは午後の授業になる事が多い。今日は実技の授業が無いから、他の生徒もどこか気が抜けた感じで授業を受けている。もちろん僕もその中の一人だ。
(僕も魔法が使えるって所を、皆に見せ付けてやりたかったのになぁ)
今朝初めて出来た魔法を、実技の授業で皆に見せたかったのだ。そしたら間違いなく、今のこの憂鬱な状況も変わるはずだ。カールのイジメも無くなるかも知れない。召喚士の事を悪く言う人が居なくなるかも知れない。父さんが帰ってきてくれるかも知れない。―それは無いか。
しかし、今日は実技の授業が無いから仕方ない。一番近い実技の授業は、たしか三日後だったはずだ。その時まで、朝の鍛錬でもっと魔法を練習しておかなきゃな。正直、今朝は何で魔法が使えたのか、いまいち分からないのだ。実戦と父さんの杖の両方の条件が揃えば、魔法が放てるのかも知れないし、もっと練習すれば、学校の杖でも魔法が放てるのかもしれない。本当なら帰ってすぐ鍛錬場所で練習したいのだが、家の手伝いなど、やらなくちゃいけない事はたくさん有るのだ。母さん一人ではまだまだ負担が大きいし、サラにはまだ任せられない事もある。こればかりはしょうがない。
そんな事を考えているうちにチャイムが鳴り、歴史の授業は終わった。今日の学校はこれで終わりである。手元のノートを見ると、何も書かれていなかった。あとでアーネにノートを見せてもらおう。
「よし、今日の授業はこれで終わりだ。それと、最近魔物の目撃情報が有ったから、くれぐれも遅くまで―」
☆
授業が終わって、実技の先生が注意事項を連格し終えた教室からは、生徒たちがそれぞれ友達に別れの挨拶をしながら、昇降口に向かって行く。
僕もサラと一緒に帰る為、教室から出ようとした。が、その前に教室の出口に会いたくない奴が立っていた。
「―—よう、無能。俺にやられた所は大丈夫か?」
カールはそう言うと、僕が出るタイミングで、出口に足を掛けて通せんぼをした。
「カールさんが聞いてんだから答えろよ、無能!」
カールの取り巻きも凄んでくる。……どうでも良いが、いつも一緒にいて飽きないのか、この二人?
「おまえの事だから、あのまま学校に来ないのかと思ったぜ。ていうか、俺がお前の立場なら、恥ずかしくて学校なんか来れねえよ」
そういって笑うカール。「そうですね」と同調して一緒になって笑う取り巻き。
「出来の良い妹と違って、お前には才能なんてこれっぽっちも無いんだ。もう学校に来るのを辞めたらどうだ? 妹と比べられるのも嫌だろう?」
僕を労わるかの様に言うカール。僕の事を心配している言葉使いだが、実際の所、ただ単に僕を馬鹿にしているだけだというのが、その表情からも見て取れる。いつもの僕ならここで何も言い返せなかった。二人が飽きるまでひたすら耐えるだけだった。
でも今日の僕は違う! 今朝の出来事が、魔法を使えたという事実が、僕に確固たる自信をもたらせていた。
「……悪いな、カール。僕は学校を辞める気は無いし、無能でも無いんだ」
真正面からカールを見る。その言葉と、昨日までと違う僕の雰囲気で、少したじろぐカール達。
「言いたい事はそれだけか?なら僕は急いでいるからそこをどいてくれ」
言って、邪魔だった足を退けて教室を出る。そこで急に、今まで彼らにされた事が急に蘇り、少し怖くなって、膝が震えた。
(おい、しっかりしろよ!)
だが、それをおくびにも出さず僕は廊下を歩いて行く。後ろでは、「なんだ、あの野郎!」と取り巻きの罵声が聞こえてくるが、無視を決め込んだ。彼らも学校で騒ぎを起こせばどうなるか知っているので、それ以上の事はしてこない。
サラの教室に向かう途中で、昇降口に向かっている女子生徒の中から、アーネが僕を見ている事に気付いた。その顔は何か言いたそうだ。
気付いていない振りをして、アーネの傍を通り過ぎ様とした時に、アーネがボソリと僕だけに聞こえる声で、
「やれば出来るじゃない」
と呟く。……なに、その上から目線的な言葉は……。
僕は聞こえていない振りをして、だけどいつの間にか震えが収まった足を揚々と上げて、サラの待つ教室に入って行った。
読んで頂き、有難う御座います。