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ニャーとシャーに脅される

 


  イサークの街を目指して、街道を馬車で進んでいた僕たち。道中は天気にも恵まれて、順調だった。

  懸念していた魔物も現れず、いつ魔物が現れても良い様に【魔力探知】を使っていた僕は疲れてしまい、途中でサラに変わってもらった。幌馬車内で休んでいた僕の耳には、ガラガラと車輪の動く音と、御者台から聞こえるサラとアカリの話し声を子守唄に、いつしか眠ってしまった。



「————ユウ、そろそろ起きて————」

「————う、ん……」


  アカリに起こされた僕は、目を擦り上体を起こす。


「うーん、おにぃ……」


  僕のお腹を枕代わりにしていたのであろうサラが、ムニャムニャと口を動かし、足下に転がっていく。起きる気配は無さそうだ。

  そっとサラをどかして毛布を掛けてやると、御者台に出る。

  陽が落ち始め、辺りは薄暗くなってきていた。御者台の横にある、魔道ランプに灯りを灯すと、オグリの手綱を握っているアカリの隣に座る。

 

「ごめん、アカリ。結構寝ちゃって。それにサラも」

「気にしないでよ。疲れていたのでしょ? 仕方が無いわ」


  アカリは笑って、僕を労う。


「それでもさ。地理に疎いアカリだけに任せちゃって」

「問題無いわよ。ただ道沿いに進んでいれば良いだけなんだから。この馬も優秀だしね」


  よしよし、と御者台から少し身を乗りだして、オグリの首もとをポンポンと叩く。

  その様子に、僕は少しだけ見とれた後、その事に気付いて軽くコホンと咳払いした。


「そうか、仲直り出来たみたいで良かったよ」


  村を出た時、最初は手綱を握っていたアカリ。だけど、その好奇心旺盛な性格が仇となって、あちこちにオグリを振り回してしまったのだ。それによって、オグリは不機嫌になり動かなくなってしまったので、それ以降は僕が手綱を握っていたのだけど、僕が休んでいる間の内に、どうやら仲直り出来たみたいだ。


「当たり前じゃない。日乃出の姫が、いつまでも馬に舐められっ放しなんて、良いお笑い種だわ」


  フンっと鼻を鳴らすアカリ。確かに、侍の国である日乃出のお姫様が、馬に舐められっ放しでは、格好がつかないよな。


「————それよりも、暗くなってきたけど今晩はどうするの? 夜営?」


  アカリが辺りを確認しながら聞いてくる。冬が近いから、陽が落ちるのも早いのだ。このままでは、程無くして辺りは真っ暗になるだろう。その前に、馬車が停められそうな場所を探して、夜営の準備をしなくてはならない。


「そうだね。イサークの街までは何も無いから、夜営になるよ。だから、まだ周りが見える今のうちに、良い場所を見つけないと————、お、あそこなんか良いかも」


  アカリに説明している間に、街道から少しだけ離れた所に、大きな石が重なる、平らな場所を見付けた。生えている草も短いし、邪魔にならないだろう。オグリの食む草も適度にありそうだ。


「アカリ、あそこにしよう。あそこなら、あの石が風を防いでくれるし、身も隠せるだろうから」

「解ったわ」


  頷いたアカリが、オグリの鼻先を僕の指定した場所に向けた。


「夜営なんて、侍見習い試験以来ね」

「そんな試験があるの?————」


  アカリと他愛もない話をしている間に、今晩の夜営地に着いた。御者台から降りて、馬車の裏に回り、夜営に必要な物を取り出そうとすると、


「お兄~」


  まだ少し寝惚けた様子のサラが、僕の首もとに抱き付いてくる。


「サラ、そろそろ起きないと、夜寝れなくなるぞ?」

「大丈夫~、お兄と一緒ならすぐ寝れるから~」


  ふにゃあと、甘えてくるサラ。と、そこに、


「お兄ちゃんと一緒じゃないと寝れないなんて、サラ殿はまだまだお子様なんですね」


  夜営の準備を手伝いに来たアカリが、顔を出す。


「な、何よ!? 悪いっ!?」

「いえいえ、仲睦まじいかと。ですが、それは妹としてしか見られないって事ですけどね」


  ウフフと口に手を当てて笑うアカリと、ぐぬぬと悔しがるサラ。どうでも良いが、女の子なのに、ぐぬぬとか止めてほしい。


  いつしか睨みあう形になっている二人の背後に、ナニかがボンヤリと浮かび上がる。

  良く見ると、サラの裏には虎らしきものがニャ~と、アカリの裏には龍らしきものがシャ~と、それぞれを威嚇していた。


「お、おいおい、二人とも。そんなことよりも、夜営の準備をしないと暗く————」

「————お兄!」

「な、なんだよ?!」

「村からイサークの街までは、四日は掛かるんだよね!?」

「あ、あぁ。それが一体————」

「という事は、三回は夜営するってことだよね?!」

「ああ、そうだけど————」

「分かった! お兄と一緒に寝る順番は、今日が私で、明日はアカリさん! それで問題無いでしょ!?」

「えぇ、問題有りません」

「それで、最後の三日目は、お兄にどっちと一緒に寝たいか決めてもらいましょ! どう!?」

「————いいでしょう」

「ち、ちょっと待ってくれ!? 僕は一人でも寝れる————」

「お兄は黙ってて!!」

「ユウは黙ってなさい!!」

「……はい……」


 ニャーとシャーに脅され、もといサラとアカリに詰め寄られ、僕は頷くしかなかった。



 そうして、初日はサラと、二日目はアカリと、幌馬車の中で一緒に寝る羽目になったのだ。サラはともかく、アカリと一緒の時は、とてもじゃないが寝れなかったので、ずっと起きていた。暗闇の中、微かに聞こえるアカリの寝息。それがとても気になってしまって……。少し前に、学校の夜営訓練の時に、アーネと隣同士で寝ることが有ったけれど、その時はこんなに気にならなかったのにな。

  しかも、アカリは寝相が悪いのか、寝返りをうつ度に近づいてくるわ、何故か御者台で寝ていたサラが隣に居るわで、まともに休めなかった。


 ちなみに、僕と一緒に寝ていない人、初日ならアカリ、二日目ならサラは、御者台で寝ていた。女の子を御者台に寝かせるなんて、男として情けないのだが、僕が御者台で寝ると言った所で、二人ともまったく聞く耳を持たなかった。彼女ら曰く、魔物が現れた時に、自分達なら対処出来るからとの事。僕だって対処出来ると抗議したが、スペルマスターであるサラと、侍見習いである、アカリの方がよっぽど魔物に対応出来るので諦めた。



     △



 今回の旅では見張りは誰もしていない。と、いうより必要が無かった。村を出る時に、イーサンさんが見張り用の魔道具を持たしてくれたからだ。


『わしの剣は貸す事が出来ん。だから、わしが昔使っていた魔道具を貸してやろう』


 そう言って、イーサンさんは、何点か魔道具を貸してくれた。見張り用の魔道具はその一つだ。

 エマさんの話によると、この見張り用の魔道具は、魔道具に込めた魔力を使用して、【魔力探知】を自動で行ってくれる優れもので、込めた魔力の量で、魔力探知の時間も変えられる。これさえあれば、見張りを立てなくても、魔道具が代わりに見張っていてくれるのだ。とても便利な物をイーサンさんは貸してくれたと思う。これさえあれば、旅も格段に楽になるというものだ。買えば一体幾らの値段になるのか、想像がつかない。さすがは元トライデント。貴重な物を持っていて、それを貸してくれたのだから。太っ腹だ。


 それに加えて、イーサンさんの軍馬であるオグリも、何かの気配を感じると嘶く様に調教されていると、イーサンさんが説明してくれた。 見張りに関しては最早、穴は無いのである。


 今の僕達は、見張り当番の負担は無い。魔道具のアラームと、オグリの嘶きという二段階の警戒があるのだから、少し位深く眠っていても簡単に起きられるだろう。なので、普通の旅に比べ、よっぽど楽なのであった。


 そして、問題の三日目。つまり、今日である。最初の予定ならば、今晩も夜営する予定だったのだが、トラブルというトラブルも無く天気にも恵まれ、また、夜営時の見張りの負担による、体調不良とかも無く、さらにはオグリが、さすがは軍馬だと感心させられてしまう程の速さで進んだお陰で、三日目の朝にして、イサークの街に到着したのであった。


 ちなみに、サラとアカリは三回目の夜営が無いことにぶう垂れていた。逆に僕はとてもホッとしたけれど。


(オグリ、お前のお陰で助かったよ。イサークに着いたら、大好きなニンジを買ってやるからな)


 と、オグリの首もとを撫でて労うと、僕の心の声が聞こえたのか、オグリはヒヒィーンと嘶いた。


「じゃあ、イサークの街まで急ごうか。あの入場の列が混み合う前にさ」

「えぇ、そうしましょう」

「そうだね!」


  一度も村から出ていない僕とサラ。そして、異世界の人間のアカリにとって、始めての街、そこに待つ新しい体験に心踊らせながら、オグリの手綱を緩め、先を急ぐ僕たちであった。


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