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第一章  イサークの街  初めての旅路

 

 △  ユウ視点  △



「ねぇねぇ、お兄! あっちにウサギが居るよ! あっ! あっちには見た事無い花がある! もうすぐ冬になるから、村じゃ花なんて咲いてなかったよね!?」


   荷台から顔を出したサラが、御者台に座る僕にあれを見ろ、これを見ろと騒いでいる。


   アイダ村を出発して街道を進んでから、暫く経った。魔導時計が無い為、どれくらいの時間が経ったのか分からないけれど、そろそろ昼食の時間になりそうな頃合いだ。

  なので、馬車が停められそうな場所を皆で探しているのだが、初めて村の外に出た事で、見る物全てに興味津々なサラがはしゃぎまくる。

  僕だって、村の外に出たのが初めてだけど、サラの様にははしゃげなかった。いつ魔物に襲われるかとヒヤヒヤしていたから。


  そして、もう一人の同乗者は————、


「ユウ見てみて!あれは何かしら!?キツネ!?でも、私の知っているキツネとは違うわ!ユウ、それよりもあっち! あっちの山! 随分と高いけど、あそこには神様が宿っているのかしら!?」

「……」


  手綱を握っている僕の袖を、グイグイと引っ張りながら、サラ以上に興奮なさっている異国のお姫様であるアカリさん。


  最初はアカリが手綱を握っていたが、サラ以上に好奇心旺盛なもんだから、見る方見る方に手綱を引き、馬車が大きく蛇行。そのせいでサラは酔うわ、馬は不機嫌になるわで大変だった。なので、今は僕が手綱を握っている。


「ちょっと、二人とも。今はお昼を食べる所を探す方が先だろ? あれこれ珍しいのは分かるけど、ちゃんと探してくれよ」

「「はーい」」


  解っているんだかいないんだかの返事を返すと、二人は再びキョロキョロと辺りを見始めた。そうして探すこと数分、街道から少しだけ離れた場所に立つ大きな木の下で、昼食をとることにした。


「「「いただきます」」」


  もうすぐ冬になる為、吹く風は冷たい。周りにあるのは草原だけで、風を遮る木々が無いため、寒いと思ったが吹く風もかなり弱いし、天気が良い為、陽が当たってポカポカと心地よい。村を出る時に母さんが持たせてくれたバケット。その中には母さんが作ってくれた、ハムやチーズ、色とりどりの野菜が挟まったサンドイッチが入っていた。


「美味しー♪ 」

「うん、美味いな」

「うむ、美味だ」


  それぞれに好きなサンドイッチを手に取り口に運ぶ。多分アーネの食堂の食材なのだろう、ハムもチーズも野菜も、いつも家で食べている物よりも美味しい。

  サァっと草原を風が走る。ちょっとしたキャンプ気分。少し離れたところでは、馬車を曳いていたイーサンさんの馬が、草原の草を()んでいる。


「なんか、平和だな……」


  ポツリと呟く。一昨日までは、村が無くなってしまう程の惨状を味わったというのに。村の人が大勢傷付き、少なくない人が殺されてしまったというのに、だ。

  そう呟いてしまう程に、魔王という言葉とは程遠い景色が、目の前に広がっているのだから。


「……うん、平和だ、ね」

「そうね、平和だわ……」


  僕の両隣に座る二人も、賛同してくれた。ただ、誰一人として、そう受け止めてはいない。あの村の悲惨な出来事を味わっているのだ。そして、魔王と魔族の復活————。あの村の惨状がこれから各地で起こるかも知れないから。


  今だけの、仮初めの平和。それが判っているから、それ以上、何も言わない。


  再び平原をサァっと風が舞う。その風は冬が近いというのに、かなり弱々しく、平原に生える草の先しか揺らせない。まだ村から近いこの辺りなら、この時期は山からもっと強い風が吹くはずである。

  だけど、今の僕はこんな弱い風であっても、身を竦めてしまう。王都に行って、父さんの残した資料を読み解かなければならない、その重責を感じて。


「……食べたら行こうか……」

「……うん」

「……そうね」


  僕の纏う重い空気を読んだかの様に、二人は言葉短く返すと、食事を続けるのだった。



 ☆




「————見えた。あれがイサークね!?」


  馬車の幌から顔を出したサラが、これから向かう、その街並みを指差した。


  アイダ村を出て、三日目の朝。街道を進んで小高い丘に上がると、遠くに街並みが見えた。


「……あれが、この世界の街なのね……」


  サラが指差した方を向いて、アカリも感想を述べる。


  馬車が走る街道の先に、中央に他の建物よりも高くそびえる教会が特徴的な、大きな街並みが拡がっている。隣街であるイサークだ。

 僕達が住んでいる、アイダ村を含む西方面を統べる西都で、ノイエ王国に四人いる侯爵様の一人が統治していると、チリの授業で教わった。

 

  「うわぁ、大きいねー!」


  サラが興奮するのも分かる。アイダ村しか知らない僕とサラにとって、眼下に広がるイサークの街はかなり大きい。さすがは国の西側を統轄する都市の事だけはある。


「この世界の建物は、石で出来ているのか……。それに、あれは何だ? 城壁、か?」


  アカリが驚く。が、それも無理もない。イサークの街は、昔の【大災害】の際に、迫る魔物から街を守るため、街の周囲に石造りの大きな防壁が囲っている。

  今居る丘の上からは、きれいにその全貌が見える。さらに良く見れば、この街道口なのか、防壁に設けられた門の前に人が並んでいるのが見えた。


「あと、一時間位かな……。以外と早く着いたな」


  アイダ村に行商に来る商人さんの話では、アイダ村からイサークの街まで四日は掛かるって話だったけど、僕たちは三日も掛からずに着いた。


(イーサンさんの馬が良い馬だからだな)


  ブルルッと嘶くイーサンさんの馬。途中でサラが、名前を付けたいと駄々をこね、オグリと名付けたこの立派な馬が、馬車を曳いてくれたお陰で早く着いたのだろう。


(でも、早く着いてくれて助かったよ……)


  ここに来るまでの事を思い出す。特に夜の事を————。


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