第二部 蒼目の聖者編 プロローグ
このお話から第二部となります。
楽しんで読んで頂けたら幸いです。
プロローグ
「はぁ、はぁ! ————クソ、こんなはずじゃあ」
ゴミのすえた臭いが立ち込める摩天楼の一角。そこで、俺はビルの間の狭い路地で身を隠す。
服を赤く染める血を何とか止めようと手で押さえるが、その位じゃ止まる訳も無く、ドクドクと腹に負った傷から溢れ出てくる。
「コイツはちっとばかし不味ぃかな……」
血と同時に体力も流れ出ている様で、段々と目が霞んで来やがる。本格的に不味い状況だ。が、今下手に動くと見つかっちまう。このまま、ビルの物陰に隠れていた方が良さそうだと判断すると、来ていた上着を脱ぎ、腹の傷を覆う様に巻くと、袖できつく縛り付ける。
「~~~~~~~っ!!?」
傷の痛みが全身を駆け巡るが、声なんか上げたら見つけてくれと言っている様なもんだ。何とか我慢して、さらにきつく縛っていく。服を包帯代わりにして止血すると、少しずつだが出血が弱まっていく気がする。
(これで何とかなりゃいいが————)
ビルの壁面に体を預ける様に座り、深く、だが静かに息を吐く。それに応えるように、チャリっと手に持っていた槍が鳴った。
「————どうしてこうなっちまったんだか…… 」
上を見上げると、隙間から暗い空が見える。だが、ビルが空を隠さんとばかりに高くそびえている為、ほんの少ししか拝めない。
「はぁ、参ったぜ……」
出てくるのは、弱る気持ちに乗った言葉だけ。気分は最悪をとうに突き抜けている。
それでも、自分のやったことは正しい事だ。嫌われ者の俺だが、間違った事だけはしていねぇ。だから、悔いなんてこれっぽっちも————
「そういや、助けてやれてねぇのが居たな……」
ビルの狭間で呟いた言葉。それは果たして、空に昇るのか、それとも地下へと沈むのか————。
「……やべぇな……。痛みすら無くなってきやがった……」
手足の感覚などとっくに無くなり、残っていた痛みすらも薄くなる。生きている事を感じる術が徐々に軽薄になっていた。
「こりゃ、俺もお終いか、な」
瞼が重くなってくる。そのまま目を瞑り、ソレに身を委ねればどれほど楽だろうか。
「駄目だ。まだ終わらせられやしねぇ……」
早くこっちに来いと手招く死神に、必死に無愛想をかまして、何とか意識を保とうとするが、それもどうやら限界の様だ。ビルの合間を飛ぶカラスが、俺というエサが出来るのを期待する様に、カァカァと鳴いてやがった。
「ちくしょう……。俺はまだ……」
そう呟いたところで、俺は意識を失った————————。