妹と相棒
△ アカリ視点 △
(間に合った———)
鬼の、ご老体に振り下ろした剣を、何とか受け止めた。もう少し駆け寄るのが遅れていたらやられていたかもしれない。ユウに教わった“えんちゃんと”で自分を強化したのが功を奏した。
「チィ!またウゼェのがノコノコと出てきやがったっ!!」
鬼が愚痴る。が、ご老体の頭から足をどけようとしない。
「こ、のっ!!」
刀で鬼の剣を受け止めつつ、ご老体の上に乗っていた鬼の足を蹴り付けた。
「ぐっ!?」
普段の私の力では蹴り付けた所で、大した威力は無い。だが、この全身が強化された状態ではどうか——。蹴られた足の痛みで顔を歪める鬼。そして私の狙い通りに足を浮かせた。
(今だ!)
「フッ!!」
「おわ!?」
片足を浮かせた鬼。それでは踏ん張りが効かない。私はその隙に奴の剣と交わっている愛刀に力を籠め、奴の剣を退かせる。さらに体勢を崩す鬼。その隙にフッと屈み込む様に体勢を低くすると、地面に倒れ伏しているご老体を抱き上げ、その場から駆け逃げる。
「……すまんのぅ、娘さん……」
「いえ、その、お体の具合は?」
「うむ、大丈夫だ、と言いたいがのぅ。年甲斐も無く無理をしてもうた……」
「いえ、ご老体のご健闘、まさに獅子奮迅でございました」
「ほほっ!これは嬉しい事を言ってくれるわぃ。あとでうちの家内殿にも言って欲しいもんじゃ」
抱きかかえたご老体とやり取りしながら、ユウの妹殿、たしかサラ殿だったかしら、の所へと辿り付くと、その隣にそっとご老体を下ろす。
「おじいちゃんっ!!」
「サラちゃん、心配掛けたのぉ。すまん」
「うぅん、良いの! おじいちゃんが無事なら!」
ご老体に抱き着いて、その無事を喜んだあと、見上げる様に私に顔を向ける。そして、
「おじいちゃんを助けてくれてありがとうございます!」
ペコリと頭を下げた。
「いえ、間に合って良かった。———私の名前は橘アカリ。ユウに、あなたのお兄さんに、あなたと共闘する様にと頼まれ、参りました」
「お兄が……」
そこで立ち上がり、服に付いた汚れをパンと叩いて落とすと、右手をグイっと私に向ける。
「私の名前はサラです。一緒に戦ってくれてありがとうございます!」
「うん、一緒にあの鬼を倒しましょう!」
「……オニ?」
サラ殿が差しだした手を握ると、私はユウに言われた事をサラ殿と、地面に座り込んだご老体に伝える。
「……うむ、確かにボロボロなわしよりも娘さん、アカリさんが戦ってくれた方が良いな」
納得する様に頷いたイーサン殿。名前は先ほど教えてもらった。そして、頭を下げる。
「イーサン殿!?」
「サラちゃん、アカリ殿。女子であるそなたら二人に任せてしまう事、本当に済まん。わしらに変わってこの村を救ってくれ!」
「……うん」
「……分かりました」
「うむ。では、わしはエマの所でユウとエマを守るかの。“老人は死なず、ただ去るのみ”じゃったか」
そう言い残すと、イーサンさんはユウとエマ殿が居る壊れた家の軒先にと向かっていった。それを見届けていると、
「———アカリさん、だっけ?」
「?」
イーサン殿を睨みながら何やら考え事をしている鬼を注意深く見ながら、サラ殿が私に話しかけてくる。
「今の内にはっきりしておきたいんだけど……、お兄とはどんな関係なの?」
「……へ?」
我ながら、情けない声を出してしまったと思う。品位に細かい姉様に聞かれていたら大目玉を食らっていたであろう。そんな私の動揺を知ってか知らずか、サラ殿は続ける。
「なんかとても仲良さげに見えたから。はっきり言うと、恋人みたいな」
「————!? こ、ここ、恋、人!!?」
顔が赤くなっているのが、その顔がとても熱を帯びている事が嫌でも判る。激しく動揺する私の方を見ずにさらに続ける。
「……それか、同志?っていうより、戦友みたいな?」
(……あ……)
ストンと何かが私の中におちてきた。
「……そうですね。戦友、というより“相棒”、ですかね」
「……相棒……」
私のその答えに、サラ殿は腰に手を当てて、むーっと一瞬考える素振りを見せた後くるりと振り返り、私に指を向けて、
「アカリさん、あなたがお兄の事をどう思っているかは解りました。でも、お兄は渡しませんからねっ!」
と、何やら宣言されてしまう。それが、その姿が、姉様をシンイチ様に取られたと思っていた私の小さい頃にそっくりで、思わず微笑んでしまう。
「な、何よ!? 文句でもあるの!?」
「……いえ、有りません。ただ——」
「……ただ?」
そこで私は愛刀である〔姫霞〕を鬼へと向け、
「今はあの鬼を倒す事だけを考えましょう。続きはそれからって事で」
「……そうね、あのオーガを倒して、お兄にたくさん褒められてから、話しましょう」
サラ殿も、その立派な杖を鬼へと向けた。
その鬼だが、エマ殿の元に辿り着いたイーサン殿をじっと見つめ、……いえ、そのイーサン殿をさっそく治療しようとしているエマ殿を凝視すると、
「……そうか、テメェら死にぞこないが次から次へとノコノコ出てきやがるのは、あの婆ぁの仕業ってことか……」
そう言うと鬼は不気味に嗤い、剣を肩に担いで、
「何度も遊べるから良かったんだけどよぉ? さすがの俺様も飽きてきたわ……」
エマさんを睨み付ける。
「面倒くせぇから、あの婆ぁを殺っちまうか!!」
「————待ちなさいっ!!」
隣から、鬼を押し留めようとする様にサラ殿が声を上げる。
「……はっきり言うわ。もうおばあちゃんの魔力は限界よ。だから、悔しいけれど、お兄もおじいちゃんももう回復しない……」
「サラ殿……?」
「……ほう……?」
「……だから、もうこの場には戦える人間は私達二人しか居ないっ! もし私達がアンタに負けたら、私達も、他の人も、この村も好きにしなさいっ!!」
そう啖呵を切ると、持っていた杖を鬼に向けた。サラ殿の突然の告白に、鬼はキョトンとしていたが、
「……という事は、オマエら二人を殺っちまえば、終わりってわけだ? ……ククッ! そいつは面白くなってきやがったなぁ!!」
ドンッ!!
すでに何度も見ている鬼の突進、その先にはサラ殿。
「させないっ!」
ガキィイン!
何度目かの防守。だが、腑に落ちない。この鬼は何故受け止められると解っているのに、同じ攻撃を繰り出したのか?
私のその疑問が聞こえた訳では無いだろうに、巨剣を受け止められた鬼は、顔を私に近付けると、嗤う。
「これが最後ってんならよお? 後先考えずに全力を出せるってことだよなぁっ!?」
叫ぶと、
「〈俺様に命じる!身体強化ダ!!エンチャントアルム!!!〉」
鬼の腕が淡く光り出した。
「なけなしの魔力を使ったんだゼ? 最後の殺し合いを愉しもうぜ、なぁ!?」
「くっ、あぁ!?」
強化により、受け止めていた鬼の巨剣の圧力が驚異的に増し、私の刀を私ごと吹き飛ばす!
「おらぁ!!」
すぐさま追撃を仕掛けてくる鬼。だが、
「〈ファイアーランス〉!!」
鬼の行く手を遮る様に、サラ殿の魔法で造られた火の槍が飛んでくる!
「おっとっ!?」
ドゴッッ!!
火の槍をその巨剣で打ち消すかの様に捕らえた鬼。そのまま、
「うぅぉおりゃぁあ!!」
ブオォォン!!
上空へと弾き返す。
「どうだぁ!?」
「———ウォーターランス〉!!」
火の槍が返された事を気にする様子も無く、すぐさま今度は水で出来た槍を生み出し、鬼へと撃ち出す。
「ったく! 次から次へとよぉ!!」
火の槍と同じ様に、水の槍もその巨剣で受け止めた鬼。
バジュュウォ!
そして火の槍とは違い、その巨剣の押力によって水の槍は徐々に潰れ、消え去ってしまった。
(……なんて力と速さなの……)
知らず頬に汗が流れる。
「ふぃ~」
サラ殿が間髪入れずに放った二つの魔法を、その恐るべき力と速さで捻じ伏せた鬼は、その巨剣を肩に担ぎ直す。その鬼に、疑問に思った事を聞いてみる。
「……一つ聞いても良いかしら……」
「ん?何だ?別に構わねぇぜ? 俺様は優しいからよ? んで、何を聞きてぇ? テメェの殺され方か?」
「……なんで、腕を強化したの?あなたの力なら、強化しなくても私達より遙かに強い。なのに、なぜ?」
「ア~ン? そんな事かよ……」
私の質問を聞いた鬼は、つまらなそうに呟くと、
「そんなん決まってんだろうが!今さらスピードを強化した所で、テメェ等を圧倒出来るとは思えねぇ。そんなつまらねぇ事に残りの魔力を使うかよ。だったら俺様の自慢の力を最大限に強化して、テメェらをミンチにした方が、よっぽど楽しめるってもんだ!!」
「……自分の欠点を補おうとは思わなかったのかしら?」
「カァ~! これだから女ってやつはよ! 良いか!? 圧倒的な力で相手を捻じ伏せる!! それが、それこそが俺様を心の底から満足させるホンモノってやつよ!!テメェ等の悲鳴だの絶望の顔だのは、オマケみてぇなもんだ。俺様にとってはな!!」
ゲラゲラと下品に嗤う鬼。その動機は唾棄すべきものだが、少しだけ理解出来るものもあった。
「———確かにアナタのいう通りね……」
「———アカリさんっ!?」
「おっ!? まさか刀の嬢ちゃんに解って貰えるとは思っても無かったぜ!」
「……勘違いしないで。私が納得したのは、己の得意な、相手に勝っている部分で勝負するって所だけよ……」
「……ちっ、つまんねぇな」
「……サラ殿?」
「なに、アカリさん?」
「私がユウから教わった強化は、おそらく全身に作用する類のもの。他にもその箇所だけを強化する方法もあるのかしら?」
「……あるにはあるけど……。使えるの?」
「えぇ、恐らくは。ユウに教わった全身強化は使えたから、ね」
「……なら使えると思う。でも良い?〈エンチャント〉は失敗するとその反動?ってのが凄いんだって。暫く体を動かせなくなっちゃうみたい」
サラ殿が心配げに聞いてきた。それに対し大きく頷くと、
「大丈夫です。お願いします」
「……分かった……」
そして、サラ殿に部分強化の方法を教わる。最後に、
「その詠唱で使えると思う。私も魔法使い系だから、肉体強化系の〈エンチャント〉が使えなくて、自信が持てないけれど……」
おじいちゃんならキチンと教えられると思うんだけどごめんなさい、と 言って少し俯くサラ殿の頭の上にそっと手を乗せる。驚き軽く目を見開くサラ殿を見つめ、
「大丈夫。ユウの妹であるサラ殿が教えてくれたんだもの。絶対上手く行く。とっととあの鬼を倒して、ユウに自慢してやりましょう!」
「……うん、そうだねっ!」
「———もう良いのかィ?」
「……えぇ、お待たせしたわね。でも意外ね。待っててくれるとは思えなかったわ」
「何度も言ったろ? 俺様は優しいってよ。それに、相手が全力で向かってきた所を叩き潰した方が、その後の絶望が美味しくなるだろ?」
「……ほんと、下衆、ねっ!!」
「言って、ろっ!!」
ガギィイイン!!
私と鬼、同時に動き刀を、剣をぶつけ合う。が、腕力を強化した鬼が相手では、二合も打ち合えない。すぐさま飛び退き、距離を取る。
「〈ファイアーボール〉!!」
飛び退いた事で、私と鬼の間に距離が開く。そこに、サラ殿の魔法が過ぎ飛んで鬼に向かう!
「しゃらくせぇ!」
鬼は、その巨剣を振り回し、迫る火の玉を弾く。
(やはり、全身強化では話にならないわね)
掛けていた全身強化の魔法とやらは、すでに消えていた。時間と共に徐々に消えていくか、魔力が尽きたら消えてしまうらしい、その魔法。全身を強化しても、今の鬼の腕力相手では、たかが知れている。実際、二合も打ち合えないのだ。お話にもならない。ならば、どうするか———。
だから私は腹をくくる。自分の中の魔力という未知の力。それがあとどれくらい自分の中に残っているのか分からない。もしかすると強化する分も残っていないかもしれない。もし失敗すれば動けなくなるとサラ殿が教えてくれた。そうなれば、確実に殺される。私も、ユウたちも……。
(お願いっ!)
強く願い、自分の中にある魔力を感じた。すると、ほんのりと暖かいモノがおへその辺りにあるのが解る。【忌み子】になる時に感じた様な、冷たく鋭い感じではない。生なる暖かみ……。
サラ殿が教えてくれた……。魔力は練るものだと。
(たしかこう、グルグルするのよね……)
想像するのは、昔お母様が作ってくれた水飴。それを箸でグルグルと混ぜる様に、自分のお腹の真ん中で、その暖かみを感じる中心で練る。すると、暖かみが熱も持つ。大きくなる。主張する。
「〈———自分に命じる〉」
「〈ウォーターボール〉!!」
「また弾いてやんよっ!」
「〈——身体強化よ〉」
「くっ!〈ファイアーボール〉!!」
「おっ!!ダブルかよっ!小さいくせにスゲェ魔力の量だな!?こりゃ、魔王様にお土産として持っていっても良いか?」
グルグルさせた魔力。それが体の外側に一斉に向かっていく。この感覚は成功なのか、失敗なのか!? 私が葛藤する中、サラ殿の魔法で生み出された火の玉、今までは一つだけだったが、二つ同時に出現、鬼に向かっていった。だが、相変わらずその巨剣で打ち消されてしまう。
「っていうか、その大きな剣、反則でしょうっ!?」
「ん~?いや、普通の剣だぜ? 魔法剣じゃなくてな。ただ、俺様用に特注品だがな!」
鬼は、自分のその巨剣を自慢する様に掲げる。陽の光を受けて鈍色に光る。あちこち傷だらけでとても手入れが行き届いているとは思えない。
「どうだ?この剣で殺されたくなってきたろ?」
「バッカじゃない!!」
「そうか、よ!」
サラ殿が強く否定すると、鬼はサラ殿を一睨みし、サラ殿に迫る。サラ殿は迫って来るオーガから逃げようとしたけれど、
ペタン。
「あれ?」
足に力が入らなかった様にその場で座り込んでしまった。オーガが迫っているのに。
「何で!? 何でっ!?」
必死に立ち上がろうとしているけれど、全然立てないでいた。
「逃がさねぇよ……」
サラ殿に迫る鬼。
「立てねぇだろ? 俺様の技さ。心が弱いやつには効くんだよ。目を見ながら殺気を飛ばすとよ、今の嬢ちゃんみてぇにその場から動けねぇ様にしちまうのさ」
サラ殿の元に着くとしゃがみ込み、顔を近付けた。必死で顔を背けるサラ殿。そんな様子を面白そうに眺めながら、
「さて、嬢ちゃん。俺様の事をオーガなんて言ってくれた罪を償わなきゃいけねぇんだが、俺様は優しい男だ。だからよぉ、選ばせてやる。この剣でゆっくり切られるんのと、この腕でゆっくり締め上げられるんのと、どっちが良い? ん?」
(サラ殿っ!?)
もう迷っている暇は無い! ここで何もしなければ、サラ殿が殺されてしまう。ユウの願いを無碍にしてしまう!
外側に向かっていた魔力を無理やり押し留めていたけれど、もう限界だ。 チラリと少し離れた所で横たわっているユウを見る。ユウは満足に動けない体でありながら、必死になって声を上げ、私達を応援してくれていた。そのユウと目が合う。
「大丈夫だ、アカリ! 君なら出来るっ!!」
それで決心が着いた。教えてくれたサラ殿を。そして自分を信じよう!
魔力を解放する。解き放たれたことを喜ぶ様に魔力が溢れ出す。まだこんなにも自分に魔力が合った事に驚き、同時に親しみを感じていた。自分の中から生まれたこの力に……。
(えぇ、きっと大丈夫よ——)
目を瞑り、語り掛ける様に詠唱を完了させた。
「———〈エンチャントフース〉!!!」
フワッと、体の中から力が抜ける。と同時に足が熱を帯びる。感覚が変わる。まるで足そのものが風にでもなったかの様に、重さを全く感じない。
(これならばっ!!)
鬼を見る。サラ殿を怯えさせる様に、締め上げられる方が、さっきのお前の弱ぇ兄貴と同じだぞ?と、ユウまでも馬鹿にする。すると、顔を背けていたサラ殿の頭がフルフルと震える。
「ふっ!」
足に軽く力を込めて、地面を蹴る。———目の前に、サラ殿が現れる。抱き締め、すぐに離脱する。
その速度は正に神速。ここまで速くなるとは思わなかった。
「サラ殿、大丈夫ですか!? サラ殿!」
「…………ない……」
「———え?」
「———お兄を馬鹿にするなんて許さないっ!!」
叫んだ! すると、体が思う様に動ける様になったようで、急いで逃げようと立ち上がる。
が、
「あれ?アカリさん?」
キョトンとするサラ殿。まさかユウを馬鹿にされた事の怒りから、鬼の妖術から抜け出すなんて……。そりゃ、私もユウを馬鹿にされて怒ったけれども……。
何故か、サラ殿にヤキモチにも似た感情を抱いてしまった。
「アカリさん?」
「はっ!? サラ殿ご無事ですか?」
「えぇ、有難う御座います、アカリさん。……なんか、ユウがどうたらって言ってましたけど?」
「!? いえいえ、何でもありませんっ! それより! 成功しました、部分強化!」
そこで、淡く光る足をサラ殿に見せる。するとサラ殿は嬉しそうに、
「良かった! アカリさんなら、絶対に成功するって思っていました!」
「ほんとですか!? 有難う御座います!」
「……おいおい、今のスピード、何だよ……」
サラ殿と話していると、感情を一切無くしたかの様な顔をした鬼が近付いて来た。
「……いつの間に、ちっこいお嬢ちゃんを助け出したんだい?」
「……いつでもいいでしょう?」
「そうかい……」
ドガァア!!
それだけを言うと、鬼は持っていた巨剣を地面に叩き付けた!
「「なっ!!?」」
抉られた地面が礫の様に私たちに撃ち出される。すぐさまサラ殿を抱え、避ける。
「オラオラオラぁ!!」
ドガ、ドガ、ドゴォオン!!!
叫び、狂った様に地面を打ち付ける鬼。その度に無数ともいえる数の土礫が私達を襲う。サラ殿では回避すら難しいそれを、サラ殿を守る様に抱きかかえながら避けていく。足を強化する前では避ける事は難しかったそれら。だけど今のこの状態なら面白い様に躱せる。まるで遊戯だ。
「オラオラ、どうしたァ!?」
ドゴドゴォオン!!
まるで壊れた井戸の滑車の様に、その腕をクルクルと回転させながら、次々と土礫を飛ばしてくる。躱すだけならば出来るが、反撃するとなるとそう簡単にはいかない。それに抱えているサラ殿の負担も相当な物になる。このままでは、鬼の強化が切れるが先か、私の強化が切れるのが先かの勝負になってしまう。ジリ貧だ。
(どうする? サラ殿をどこかに置いてくる? うぅん、それでサラ殿が狙われたら、身も蓋も無いし)
すると、抱えていたサラ殿が、私を見る。
「アカリさん、これはこれで楽しいんだけど、アカリさんの魔力が無くなっちゃうし、そろそろ反撃しませんか?」
(意外と楽しんでいたっ!?)
「……はい、そうですね……」
「ん? どうしました?」
「いえ、何でもないです」
「? そうですか。それで、反撃なんですが、私に一つ考えが有るのですが———」
抱きかかえたサラ殿が私に顔を近付け、耳打ちする。その間も鬼の土礫による攻撃が続くも、躱していく。
「オラァ! 逃げてばかりじゃあ、俺様は倒せねぇぞっ!!」
「————といった感じなんですが、どうですか?」
「……たしかに私も聞いた事があります。上手くいく可能性は高いかと」
「では、やってみましょう! 私を適当な所で下ろしてください」
「はい!」