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ワルキューレ

 


 △  サラ視点   △



「こんのぉ!!」


 〈ウィンドランス〉の後に放った〈ファイアーボール〉がオーガの大きな剣で弾かれる。


「ふっ!」


 その隙をお爺ちゃんが見逃さずにオーガに切りかかっていった。だけど、


「読めんだよっ!!」

「クッ!?」


 オーガがお爺ちゃんの剣をあっさりと防ぐ。お爺ちゃんの攻撃の癖みたいなやつが解ってきたのかも知れない。オーガのくせに頭が良さそうで困ってしまう。


「お爺ちゃん、下がって!!」


 オーガの反撃から逃げようとしていたお爺ちゃん、だけど、それよりももっと下がってもらう様に言って、私は唱え終わっていた魔法を使う!


「〈ファイアーランス〉!!」


 お婆ちゃんから渡された、フワッと光る緑色の杖の先に生まれた火、それが一気に大きくなると、ゴウゴウとすごい速さで回転し始めた。


「行っけぇ~!!」


 オーガのお腹を狙って撃つ。的が大きい方が当たりやすいって、前に教会の神父様に教わった通りに。

 だけど、


「効かねぇえ!!」


 オーガはその大きな刀で〈ファイアーランス〉を受け止めた!


「ぐぬぬぅっ!」

「おおぉぉあ!!」


 私も杖を前に突き出して、〈ファイアーランス〉をオーガに当てようと頑張るんだけど、あの生意気なオーガも、必死に踏ん張っている。


「——ガアァァア!!」


 ボシュュゥウ———!


 オーガが大きく叫びその大きな剣を振り抜くと、私の放った〈ファイアーランス〉は大きな音を残して消えてしまった。片手しか使えないのに、私の〈ファイアーランス〉を消しちゃうなんて生意気なやつ!


(たぶん、強化した足で、足りない力を補ったんだ!)


 オーガの足は今も光っている。まだオーガの魔力が切れないでいる証だ。その強化した足で地面に踏ん張ったおかげで、片手しか使っていなくても私の〈ファイアーランス〉に勝ったのだと思う。


(アイツ、かなり強い)


 今までに戦ってきた魔物の中でも一番に強い。あのドラゴンよりも。


(———でも!)


 私はこいつをやっつけるって決めたんだ!

 エマさんの〈ヒール〉のお蔭で目が覚めた私の耳に聞こえた絶叫。それは今も耳に残るお兄の悲鳴。お兄が死んじゃうんじゃないかって怖かった——。


(もう、あんな思いはしたくない——だから、負けたくないっ!!)


 私はお婆ちゃんから借りた杖をオーガに突き付ける!


「よくもお兄を———」

「あぁん!?」

「痛め付けてくれたわねっ!!」

「そんなに吠えんなよっ!弱虫のお嬢ちゃん!!」


 ドッ!


 オーガがすごい速さで私に迫ってきた。……だけど、大丈夫!


「ふんっ!!」


 気合いを入れてお爺ちゃんが私とオーガの間に立って、私を守ってくれる。そして、お爺ちゃんは持っている剣でオーガに切り掛かる!


「お前さんも片腕しか使えんのなら、勝負にならんのではないか?」

「ほざいてろ、爺ぃっ!!」


 ガギィイン!!


   お爺ちゃんに汚い言葉を使って、お爺ちゃんの剣を大きな剣で受け止めたオーガ。そして、私の耳が痛くなるほどの大きな音。耳を塞ぎたくなるけれど、お兄がやられた事の仕返しをしなくちゃ!


「〈世界に命じる!火を生み出し穿て!ファイアーランス!!〉」


 お腹の真ん中でグルグルしていた魔力がブワッと消えると、ギュルギュルと回る大きな火の塊が現れる。


(もう一つ!!)


 またお腹の真ん中で魔力をグルグルした後に、もう一つの魔法を唱えた。


(〈世界に命じる!水を生み出し穿て!ウォーターランス!!〉)


 だけど、すぐには出さずにまだ取って置く。それが私が考えた作戦だから。


「くらえぇ!」


 先に〈ファイアーランス〉をオーガに向けて撃つ。すると、お爺ちゃんがオーガをギリギリまで惹き付けてから、バンッと横に跳ぶ!そして私の〈ファイアーランス〉がオーガに当たる!


「——当たらねぇよ!」


 さっきと同じ様に、自分の大きな剣で私の〈ファイアーランス〉を受け止める。


「何度も同じ手が通じるとでも、思っているのかよ、お嬢ちゃん!?」

「そんなの思っていないわよっ!」


 オーガのくせに私を馬鹿にする様に笑う。だから私は力一杯否定して、


「〈ウォーターランス〉!!」


 唱えたままにしておいた〈ウォーターランス〉をオーガに向けて撃つ!


「これでも同じだと思えるかしらっ!」

「——その考えが!」


 〈ファイアーランス〉を大きな刀で受け止めているオーガは、〈ウォーターランス〉が近付いているのにも関わらず、相変わらず笑っている。


(強がり言っちゃって!!)


 杖を前に突き出してオーガに向けていると、オーガは速度も増してオーガに襲い掛かる〈ウォーターランス〉を睨み付けると、〈ファイアーランス〉を受け止めたまま、その〈ウォーターランス〉にぶつけた!


「なっ!!」

「甘ぇんだよっ!!」


 バシュウウウウ!!


 空気が破裂した様な響くと同時に、モワモワっと白い煙が周りに広がっていく。


「なんだ、これはっ!?」


 自分がやった事なのに驚いているオーガ。逆に


(よしっ! 上手く行った!!)


 両手をグッと握る私。

 そう、これが私の作戦だ。【鍛治士】のジョブを持つ、自分の家も鍛治屋のケイトちゃん。そのケイトちゃんの家に遊びに行った時に、ケイトちゃんのお父さんが教えてくれた事。


『水と火を合わせるとすごい煙が出るんだよ。これは水蒸気といってね。熱いからあまり触っちゃ駄目だよ』


 出来上がった短い剣を、水が入った桶に入れた瞬間に、部屋の中が真っ白になるほどのモクモクとした水蒸気が出て来て、すぐ近くにいたケイトちゃんが見えなくなってしまったのを覚えていたのだ。


 第二位格の〈ランス〉系じゃあ、あのオーガを倒せそうも無い。お婆ちゃんに借りたこのキレイな杖を使うと、魔法の強さが上がる。それでも悔しいけれどあのオーガは倒せない。でも第三位格以上の魔法を使うとなると、魔力をグルグルしたりするのに時間が掛かっちゃう。ならば、どうするか?

 私が考えたのは、お爺ちゃんだ。お爺ちゃんは昔強かった騎士さんらしい。ならばあのオーガを倒せるんじゃないかって考えた。だとしたら、私に出来る事は?

 それがこれ! 水蒸気での目眩ましだ!これならば、オーガからは何も見えない!もちろん私達からもあのオーガの姿は見えないけれど、


「なんじゃ、こら!? あのガキの仕業だな! おい、どこ行ったぁ!!」


 うるさく文句を言うオーガ。あれならどこにいるかなんてすぐに分かる。そして、それを見逃すお爺ちゃんじゃない!


「上出来じゃ、サラちゃん!!」


 私を褒めながらオーガに向かっていったお爺ちゃん。水蒸気の中だと私からもお爺ちゃんが見えない。きっとあのオーガにだって見えないハズだ!


「シッ!!」


 お爺ちゃんの声が聞こえた。きっと、オーガを切ってくれる、そう思ってた。


 だけどーーー


「ったくよぉ、こんな子供騙し、俺様に通じるかってのっ!!」

「がぁ!?」

「お爺ちゃんっ!?」


  少しずつ無くなっていく水蒸気。その中からオーガの声と、お爺ちゃんの声が聞こえた。しかもお爺ちゃんの声はオーガに何かやられた様な声。

  そして、ほとんど消えて無くなった水蒸気の中から、頭から血を出している倒れているお爺ちゃんと、気持ち悪い位に口を歪めて笑っているオーガが出てきた。


「くっ、抜かったわ!!」

「おいおい、動きが鈍ってるぜ、爺さん。まだ本調子じゃねぇのに、ノコノコと出てくるからそうなんだよ!」


  お婆ちゃんに治してもらったけれど、やっぱり完全には治っていなかったお爺ちゃん。水蒸気に隠れてオーガを倒そうとしたけど、失敗したみたいだ。


「お爺ちゃん!!」


  急いでお爺ちゃんの所に行こうとしたけれど、


「来るなっ!」


 ビクッ!


 お爺ちゃんに怒鳴られてしまった。


「おぅ、老いぼれ、まだまだ元気そうだな? なぁ、おい!」

「ぐぁあ!!」

「お爺ちゃん!!」


 オーガが倒れているお爺ちゃんの頭を踏みつけていく。


(ダメっ!このままじゃ、お爺ちゃんが死んじゃうっ!)


 杖を向けて、魔法を唱えようとしたけれど、


「おっと! 魔法を使ったらどうなるか解んだろ?」

「がぁ!?」


 私が魔法を使おうとしたら、オーガがそれに気づいたのか、私を脅す様にお爺ちゃんの頭を踏んでいる足に力を込めた。


「止めてっ!!」

「止めるわけねぇだろ?」

「ぐぁあ!? ……サラちゃん!わしを気にせず魔法を放てっ!」

「でもっ!?」

「老いぼれ爺ぃは黙ってな!」

「がぁああ!?」


(このままじゃ、お爺ちゃんが死んじゃう! でも、どうしたら……!?)


  知らない内に目に涙が溜まっていた。でも、泣いたってお爺ちゃんは助けられない。 何か考えるんだ、何か!


「老いぼれの爺さんよぉ? もう充分長生きしたろ? だからさぁ、俺様を喜ばせる為に———」


  お爺ちゃんの頭を踏みつけて動けなくしたオーガは、肩に乗せていた大きな刀を振り上げた。


「——良い悲鳴(こえ)で啼きながら、逝っちまいなぁ!!」

「お爺ちゃーんっ!!」


 ガギッッ!!


 オーガが大きな剣を、踏みつけているお爺ちゃんの頭目掛けて振り下ろした。私は情けないけど、その後のお爺ちゃんの姿を見たくなくて目を瞑って、しゃがみ込んでしまう。

 だけど、オーガの剣が何かにぶつかった音がして、そっと目を開ける。


 ———そこには、昔絵本で読んだ鎧姿じゃなく、見た事の無い服装をした黒髪の戦乙女(ワルキューレ)が居た ———


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