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相棒推参!

 


「何モンだ? テメェ……」


 アカリに押し出された形になったオーガが少し距離を取り、警戒した声でアカリに誰何する。しかしアカリはそれには答えずに、オーガから目線を外さないで僕に声を掛ける。


「——ユウ、大丈夫?」

「……あぁ、何とか……生きているかな……」

「そう、良かった。ところで、ここは何処かしら?」

「……ここは、僕の住むアイダ村だよ」

「……そう、ここが……」


 そう言って、警戒を解かずに辺りに目を向けるアカリ。その顔は何処か考え深げだ。


「……で、今のこの状況は? 見る限りだと、あの鬼にやられたみたいだけど?」

「……そう、実は———」

「——俺様を無視するんじゃねぇぇ!!」


 無視された事に腹を立てたオーガが、アカリに突進していく。


「ふっ!!」


 だが、警戒していたアカリはあっさりとそれに対応、オーガの振り下ろした巨剣を躱すと、刀を横薙ぎに振るう!


 サシュッ


「くぅぅ!?」


 その大きさゆえに簡単には剣の軌道を変えられないのか、それとも片手だからなのか、アカリの横薙ぎをその巨剣で防ぐ事もせず、その体に食らうオーガ。

 だが、


「浅い……」


 そうアカリが呟いた様に、オーガの剥き出しのお腹に出来た刀傷は、血は流れているがそこまで深くは無い。アカリの横薙ぎが当たる寸前、オーガはその脚力で突進の勢いを殺し、何とか致命傷を避けた様だ。


「この鬼、反応は良いみたいね」

「……テメェ……!」


 アカリの挑発を受けたオーガが、その額に青筋を立てる。アカリを見るその眼差しは憎悪に満ち溢れていた。

 だが、


「怒っているのがあなただけだと思っていたら大間違えよ……」


 そこでアカリは寝そべる僕を見る。両足は折れ曲がり、頭や顔からは血が流れている惨めな姿。


 ————ギリッ!


「……よくも、よくも私の大事な相棒をこんな目に遭わせてくれたわね……」


 刃を食いしばりオーガを睨む。そしてアカリも負けずに吼える!


「絶対に許さないわよ!!」

「面白れぇっ!!」


 刀を突き出し、オーガに突進していくアカリと、巨剣を構え迎え撃つオーガ。


「はああぁぁ!!」

「おらあぁぁぁ!!」


 お互いに武器を繰り出し、引き、突き出し、薙ぐ。速さでは圧倒的にアカリが、力では圧倒的にオーガが、それぞれの長所を生かした戦いを繰り広げている!


「——やれやれ、肝を冷やしたわい」

「——ほんと、殿下には死んで詫びるしか無かったわ」

「イーサンさん、エマさん……」


 ふと、地面に影が出来ると僕たちの傍らには、お互いに肩を貸し合い立つイーサンさんとエマさん。そして、僕の傍でしゃがむとそっと僕の頭を撫でる……。


「ユウ、よく頑張りましたね……」

「うむ。妹を守るお前の姿は立派な騎士だったぞ」

「……エマさん……。イーサンさん……」


 そこで不甲斐なく涙が零れた。その涙は留まることを知らずにどんどんと溢れてくる。と同時に色々な感情が溢れてきた。失う恐怖。何も出来ない絶望。敵に赦しを求めた事への後悔。そして、仲間に逢えた喜び。


「うぅ~、ううぅ、ぐすっ、ひくっ……」

「ほんと、ユウは立派だったわ。待っていなさい。今すぐ治すから」


 そう言ってエマさんは自分の鞄から、何やら淡く光る液体の入った瓶を取り出す。


「ユウ、動けるか?」

「……いえ、無理そうです」


 腕や足、お腹に力を入れてみるも、気を緩めたせいか、まるで体が拒否している様に全く動かなかった。


「そうか、少しガマンしろよ」

「……はい。——っ!!」


 動けない僕の上体をそっと持ち上げてくれるイーサンさん。それだけで、僕の体は痛みを訴える。


「飲めるか、ユウ?」


 痛みで顔を顰める僕に、先程エマさんが取り出した瓶を手渡してくるイーサンさん。それを受け取るとタプンと液面が揺れる。


「これ、は?」

「うむ。これは、……何だったっけな、エマ?」

「もう、しっかりしなさいよ、イーサン。これはね、ハイポーションよ」

「———!? これがハイポーション……」


 傷やちょっとした病気が治るポーションには色々な種類がある。効果が一番低いビィポーションが一般的に飲まれるポーションで、確かうちにも2本くらい有ったような気がする。そこから、冒険者など、ケガを負う危険性が高い人達が主に飲むロワポーション、さらに高い効果のポーションへと続き、その上に今僕が握っているハイポーションがある。効果が上がるにつれその値段も上がり、たしかハイポーションは普通に働いている人の一か月分の給金の価値があると聞いた事が有る。

 他にも、魔力を回復するポーションも有り、それも結構な値段がするらしい。


 僕は持っていた瓶をイーサンさんに押し返す。


「こ、こんな高い物、飲めませんよっ」


 だが、イーサンさんはすぐさま僕に押し渡す。


「いや、飲んでもらうぞ、ユウ」

「いえいえ! そんな高い物、イーサンさんが飲んだ方が良いですって!」


 今もアカリと剣を交えているオーガを見る。イーサンさんが飲んでその体を万全にしてくれた方が、あれに勝てる確率は遙かに高い。

 だが、


「ユウ、わしは既にさっき飲んだのだ。だからもう飲めん」

「——あっ……」


 そうだった。たしか学校で教わった授業に、ハイポーションなどの効果の高いポーションは、その効き目の強さにより、一日に飲める本数が決められている。ビィポーションならそんなに問題は無いのだろうが、ハイポーションではそうはいかない。薬だって摂り過ぎれば毒になるという事だ。


「それじゃ、エマさんが——」

「私はサラちゃんの治療があります」


 間髪入れずにエマさんに言われる。確かにエマさんにはサラの治療に専念してほしい。


「それに、イーサンには私たちを守って貰いたいの。サラちゃんを治療中にあのオーガに襲われたら、またさっきの二の舞になってしまうから。本来なら、一刻も早くこの場から離れた方がいいのだろうけれど、今のサラちゃんは動かすのも危険な状態。仕方なくここで治療するしかないのよ」

「なら、サラに飲ませましょう!」

「それは無理よ。覚えておいて、ユウ。ポーションは治す薬として皆に知られているけれど、多少は体に負担がある物なの。普段ならあまり気にしなくても良いのだけれど、ここまで弱っているサラちゃんには負担が重いわ」

「という訳じゃ。それにサラちゃんほどじゃないが、お前の体も大概じゃぞ? 早く治した方が良い」

「……分かりました。頂きます」


 イーサンさんに押し返すのを止め、震える手で瓶の蓋を開ける。僕自身、体が弱い訳では無いので、実はこれが初めて飲むポーションだったりする。

 瓶口を口に当てると何かの果物の様な香りがした。意を決して一気に飲む。ほのかに甘く、思ったよりも飲みやすい。


(こんな味なん、だ——?)


 ドクンっ!!


「はぐぅ!!」


 突如として体が跳ねる! 体が熱い! 体の中から骨の軋む音が響く!


「うがっ!? くうぅ!!?」

「我慢じゃ、ユウ。すぐに治るからの!」

「薬師なら、ポーションの負担を減らすスキルを持っているのだけれども、ごめんなさいね、ユウ」

「——いえ、大丈夫、です? がぁっ!?」


 折れていた骨だけで無くヒビの入っていた骨、そして切れて血を流していた皮膚が無理やりくっ付け、作り直されている様な痛みと強い不快感。たしかに今のサラにこれは耐えられないだろう。

 治癒士やエマさんが使う回復魔法はこういった痛みや不快感は無い。人間の英知であるポーションと、神様の御業である魔法の違いだろうか。

 そんな痛みも段々と収まってきた頃、


「それにしても、あの娘は何者じゃ?何やらユウと顔見知りの様じゃが?」

「……はい。あの子はアカリ。橘アカリと言います。例の別世界でお世話になった恩人であり、相棒です」

「ほう、別世界の、な。」


 そう言ってオーガと戦っているアカリを見つめるイーサンさん。


「……強い、な」

「分かるんですか?!」

「昔の役職柄、な。それに、あの娘の持っている武器。あれは見た事が有る。確か、東国の武器だったような……」

「——この世界にも有るんですか!?」

「う、うむ。多分だがな。随分昔の事だから、うろ覚えだが……」

(そうか、この世界にも刀は有るのか……)

「……思い出した! あれはトライデントだった時に、王の護衛で様々な国に行き、様々な人々に逢うた。その中で東方にある国の騎士が、似た様な武器を持っておった」

「覚えているんですか!?」

「あぁ、その騎士と手合わせをした事があっての。あの独特な武器とその技に翻弄されたよ。あれは強かった……」


 アカリを見つめていた瞳に、回顧の色が浮かんでいた。その戦った人をあのアカリに重ねているのだろう。


「——だが……」

「——何ですか?」

「……ぬるい、な」

「ぬるい、ですか?」


 イーサンさんの視線の先、今もオーガに激しい攻撃を繰り広げているアカリ。それを見る限りぬるいとは思えない。だけど、元トライデントで騎士でもあるイーサンさんには、僕じゃ解らないものが見えているのだろう。


「あぁ。彼女は強い。それは間違いない。が、何処か隙があるというか、わざとそこに隙を作っているというか……。例えるなら、誰かが傍で戦っていた様な……。そんな戦い方じゃ」

「———あ」


 瞬時に理解出来た。そうなのだ。彼女には、アカリには一緒に戦ってきた“相棒”が居たのだから。


(アカリ……。待ってろ!)


 バチィィン!


 立ち上がる。まだ少し痛み、違和感の残る体に言う事を聞かせる様に、両頬を叩く。


「ユウ?」

「……イーサンさん、エマさん。サラの事、お願いします」


 アカリとオーガの戦いを注意深く見つめていたイーサンさんと、いつの間にかサラに〈ヒール〉を掛けていたエマさんに振り返る。

 そして、


「———アイツを倒して来ます。相棒と一緒に!」


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