表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/236

アースドラゴン

 


「エマさん、大丈夫?」


 魔力のほとんどを失って、辛そうにしているエマにそっと水の入ったコップを渡す。


「有難う御座います、シードルフさん。 ……昔なら、何も問題無かったのに情けない姿をお見せしてしまい、申し訳ありません」


 水を口に含みながら、歳には勝てないと落ち込むエマに、


「何を言っているのです。あんな凄い魔法を使えるのですから。どこが情けない姿なのです。それに御覧なさいな」


 そう言ってエマに周りを見渡す様に言うと、それに従いエマは周囲を見渡す。

 そこには多数の遠望の眼差しがあった。エマが元トライデントと知らない人間でも、先程のエマの合成魔法を見れば、その正体はさておき、ただのおばあさんでは無い事は明らかに理解出来る。


「……随分と目立ってしまいましたね……」


 エマが恥じる様に俯く。その顔は照れの為か、周囲に焚かれている松明のせいか赤かった。


「何を言っているのですか、エマ。狙って使ったくせに。この結果も予想出来ていたでしょ?」

「……全てお見通しとは、さすが、殿下で御座います」


 周りに聞こえない様に小さな声でそう口にすると、エマも小さな声で答えて俯いていた顔を上げ、ニコッと笑うエマ。そのエマの狙いとは、その圧倒的な力による鼓舞と、ユウの話の中に出て来た、この後に出現するという脅威に対する対策。

 今は少し慣れて来たとはいえ、もともと魔物は普段の生活と縁遠い生き物。その魔物が大挙して、突如襲い掛かってきたのだ。多くの住民がパニックに陥ったことは容易に想像が付く。私も国の王政に関わっていた者として解る、パニックが人に及ぼす怖さを。冷静な判断が出来ない住民は、力の有る無しに関わらず、いとも容易く魔物達に蹂躙されてしまうだろう。それを防ぐ為にエマは己の力を見せ付けたのだ。魔物を駆逐出来る力がここにあると。必要以上に恐れる事は無いと。だから、この危機を皆で乗り越えようと。そういった意味合いが込められていた。

 そしてもう一つ。この後に出現するという悪魔に対抗するには、イーサンやエマの力は必要不可欠だとして、さらにはユウやサラ、学校の先生達や村の住民の力を合わせる必要が有る。

 ユウの話によると、イーサンとエマの二人だけでは足止めすら出来なかったとの事。それほどまでの相手にどれだけの力になれるかは分からないが、無いよりかはマシだ。援護に牽制にと出来る事はあるはず。その戦力を、有象の魔物相手に損耗してしまう事はどうしても避けたかった。それを成し遂げる為に、エマは己の中の多くの魔力を消費すると解ったうえで実行したのだ。その先見、さすがはエマだわと絶賛したい。

 だが、ただの住民がここまでの力を持った人を褒めれば、どうしたって私の存在を疑問視するだろう。勘の良い人ならば、エマよりも身分が上だと気付いてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。万が一にも私が元姫殿下だと知れ渡れば、今までの苦労が水の泡である。


(ここは一先ず、普通に接しましょう)


「大丈夫ですか、エマさん。ひとまずは横になりましょう」

「……はい、済みません。シードルフさん」


 エマに声を掛けると、力の入らないエマに肩を貸して、アーネちゃんの宿へと向かう。


「おば様、私も手伝います!」

「有難う、アーネちゃん。反対側をお願いね」

「はい!」


 すぐにアーネちゃんも手伝ってくれて、宿へと向かう私たちに、


「エマさん、有難う!!」「凄かったよ、エマさん!! あんた一体!?」「よーし、私達もっ!!」


 バリケード内に居た村の住民たちが、興奮した顔で声を掛ける。中には拍手を送ってくる人も居た。

 まるで、英雄の凱旋の様な雰囲気に、


「どう、エマ。この光景、あなたの判断が正しかった、その証拠でしょ?もっと胸を張りなさいな」

「……全く、殿下には敵いませんよ……」

「えっ?殿下って?」

「ん? 何でも無いのよ、アーネちゃん。さ、急ぎましょ」


 エマに肩を貸しながら、宿の玄関をくぐる。その際にふと後ろを振り向き、バリケードを見つめる。性格には、その向こう側に居る、二人の子供を。


(ユウ、サラ。あとはお願いね!)


 エマは少し休ませる必要が有るが、すぐにでも戦線に復帰できるだろう。それまでは二人の子供に託すのだ。この先の未来を。



 △  ユウ視点   △



 アースドラゴンの元へと向かっていた僕とサラ。

 少し走ると、すぐに戦いの音が聞こえてくる。そしてアースドラゴンの咆哮も。


「あのトカゲ、まだまだ元気そうだね~」

「そうだね。困っちゃうよ」


 程なくして、戦闘場所に辿り付いた。そこはちょうどアーネの宿の裏手当たりで、東に向かう街道の一本裏の道。そこにも少なからずお店が建っているが、アースドラゴンが暴れたせいなのか、二階建ての住居兼住宅の、一階のお店の正面がボロボロに破壊されていた。人の姿は無かったので、避難していたのかもしれない事が唯一の救いか。

 その道を塞ぐほどの巨体がそこには居た。村はずれの森で見る様なトカゲとは違う。堂々としたその姿。高さは4メートルほど。頭から尻尾までは15メートルほどであろうか。その尻尾の半分から先が無くなっているのは、イーサンさんが切り落とした部分なのだろう。がっしりとした足は大人の人、実技の先生位の太さで、ガッシリと地面を掴んでいる。緑と茶色が混ざった様な色合いの堅そうな鱗を身に纏い、その背には黄色い三角の刺々しい鰭上の鱗が、ギランと光る大きな目がある頭の方にまで伸びている。そして、その口に並ぶ頑丈な歯はあらゆる物をすり潰し、飲み込みそうだ。


「これが、アースドラゴン……」


 無意識に唾を飲み込んだ。目の前にいるこの存在は、紛れも無く人間とは別次元の存在。それをまざまざと思い知らされる。そして気付かされる。今までの魔物なぞオマケの様な物だったと。


(人が、勝てるのか?)


 本能がそう問い掛けてくる。そして訴える。これとは争うなと。今すぐに逃げろと。

 自然と足が震えてきた。喉が異常に乾く。息使いが荒くなる。頬に冷たい汗が幾つも流れる。


(ぼ、僕は間違っていた。こんな所に来るべきでは無かったんだ)


 思い知らされた。そして身の程を知った。僕には無理だと……。

 だが、


「ふーん、やっぱりただのトカゲじゃない。何がドラゴンよ。私の憧れを返して欲しいわ!」


 そう、隣に立つもう一人の別次元の存在が、そう口にしたかと思うと、


「お兄はここで見てて! 今すぐあのトカゲをやっつけてくるんだからっ!」

「あ! おいサラ!?」


 臆する事も無く、アースドラゴンへと向かっていくサラに声を掛けるが、その声には力が無かった。

 思い出していたからだ。あの時を……。


(……またかっ! また僕はあの時の悔しさを味わうのかっ!)


 そう、カールとの模擬戦後、サラに慰められた治療室。あの時の惨めな思い……。もうあんな思いはしたくないっ!!


(僕は変わったんじゃなかったのか!? 日乃出で、アカリと一緒に戦って、成長したんだろう!)


 奮い立たす。震える膝を抑え付ける様に叩く。荒い息はそのままに、流れる汗を強引に拭う。


(そうだ! 思い出せ! 日乃出での事を! 僕のやってきた事を! 思い出せっ!)


 日乃出で経験した数々の戦い。そのほとんどに於いて、僕はどう対処していたのかを。


(そうだ!正面に立って敵を相対した事なんてほとんど無かっただろ!思い出せ!)


 出来る事しかやらなかった。それは援護。そして相手の攪乱。


(日乃出で出来たんだ! ここで、僕の居るべきこの世界で出来ない筈は、ないっ!!)


 途端、湧き上がる強い意志。 その意思と共に現れた決心。アカリに鍛えられたから、かな。


(出来る! きっと出来るっ!)


 気付けば走り出していた。まだ足が震えていたから、ぶきっちょな足取りだけれども、確実に走っていた。


 前を向くと、サラがこちらを向いていた。その顔に笑顔を浮かべて……。


「やっぱりお兄は変わったよ。格好良くなった♪」

「何だよ、それ」

「うーん、心配事が増えた……。アーネちゃんだけじゃなくなっちゃうな……」

「言っている意味が解らん。それよりも!」

「うん! お兄、一緒にやろう!」

「おう!!」


 最後は兄らしく返事を返す。その頃には足の震えは止まっていた。

 近付くと、アースドラゴンの威容さを改めて感じる。だが、さっきまでの怯えは殆ど無い。


「やっと来おったか、ユウ、サラちゃん!」


 その声がした方を向くと、イーサンさんが一人、アースドラゴンの右前脚を斬り付けていた。


「イーサンさん!! 大丈夫ですか!?」

「あぁ、わしはな。ただ、村の者の内、数人がケガをしての。今は家々の陰で休ませているわ!」

「そうですか。それで今は何を!?」

「うむ!今は皆でコヤツの足を狙って攻撃しておる! こう動かれちゃ村の被害が広がってしまうからの!」


 それに動かれると攻撃するのが面倒だと息巻く。見ると他の足にも学校の先生や村の人、冒険者たちが、それぞれの武器で攻撃をしているが、イーサンさん以外、傷を与えているとは思えない。


「くそっ!固い!」「動くな、このっ!」「ダメだ!刃が欠けた!」


 傷を付ける事すら困難な中、


 GWOOUUUNNN!!


 アースドラゴンが大きく吼えたかと思うと、足を攻撃されるのを嫌がったのか、大きく足をバタつかせた!


「ひえ!」「逃げろ!潰されるぞ!?」「早く離れろぉ!」


 足を攻撃する為に纏わり付いていた人達が一斉に逃げ出す。何とか全員離れられたみたいだ。


「くそっ! 埒が明かねぇ!」「このままだとバリケートの裏に行っちまうぞ!」「どうすれば!?」


 逃げ出した人達が、皆口々に愚痴を零す。攻撃が通じない事に腹が立っているのだ。

 そんな中、


「えぇい! 動くな! このトカゲがっ!!」


 一人退避しなかったイーサンさんが、剣で斬り付けながら、叫ぶ。イーサンさんが斬り付けている足は、他の足とは違い、アースドラゴンの茶色掛かった血の筋が幾つも流れている。それにも関わらず、その足取りはあまり変わっていない。


「動かなければ、スパッと切れるものを! こう動かれると狙いが定まらん!!」


 唯一、アースドラゴンの尻尾を切り落としたイーサンさんならば、尻尾に比べかなり頑丈そうな足でさえも切り落とせる気がする。けれど、アースドラゴンは当然それを許しはしない。動き、時には押し潰そうとするものだから、傷を負わせる事は出来ても、その歩みを止めるまでの傷を与えるには至っていないのだろう。


「イーサンさん! 足止めすればいいんですか!?」

「そうじゃ! 何か良い策は有るか、ユウ!」

「分かりませんが、取り合えずやってみます!」

「うむ! 頼むぞ!」


 そんな状況を変える為に、やってみたい事がある僕は、イーサンさんに声を掛け許可をもらうと、魔力を練り始め、同時に杖に魔力を通していく。そして、


「〈世界に命じる! 明かりをともせ! ライティング!!〉」


 すぐさま詠唱を行うと、杖の先に光の玉が生まれる。


「いけぇ!」


 杖を振り、アースドラゴンの顔目掛けて光の玉を放つと、狙い通りに飛んで行く。そしてアースドラゴンの目の前で破裂した!


 GWUHOOONN!??


 爆発的な光がアースドラゴンの顔を覆い、戸惑う様な悲鳴を上げるアースドラゴン。驚きでその動きを止めている! 今だっ!


「イーサンさん!」

「よくやった、ユウ! ぬうぅん!!」


 ザシュウゥ!!


 GUGYHWWOOUU!!


 イーサンさんの剣が煌めくと、その刃はアースドラゴンの足を捕らえ、その足の縦に二分する。その痛みに耳がつんざく程の悲鳴を上げるアースドラゴン。

 四つの足の内、一つを切り裂かれた事によりその動きを止めるかと思ったが、ドラゴンは、この世界最強の一角である種族は、そんなに甘くは無かった。


 GRWUUAAAAA!!!!


 足を切られた事に激怒したアースドラゴンは、怒りに満ちるその目を周囲に向けると、手当たり次第に暴れ出した!!


「うわあぁぁ!!」「逃げろ! 潰されちまうぞ!!」「助けてくれぇ!!」


 猛り狂う巨体。動く物に対して残った三本の強靭な足で圧し潰そうとする。狙われた村の人達は散り散りになって逃げ出すが、その巨体ゆえに逃げてもその場所もろとも破壊され、外に放り出される。立ち上がって急いで逃げるもまた破壊されの繰り返しだ。このままではいずれ皆殺されてしまう!


(なんとか動きを止めないと!!)


「〈世界に命じる! 明かりをともせ! ライティング!!〉」


 急ぎ、杖に魔力を通し、〈ライティング〉の魔法を放つ。狙いは先ほどと同じアースドラゴンの顔。

 狙い通り、光の玉がアースドラゴンの顔付近で破裂し、光を放つが、


「アイツ、目を閉じている!?」


 冒険者の一人が指差す。見ると、アースドラゴンは目を閉じて、〈ライティング〉の光から目を守っていた。あれでは目潰しにはならない。


(ドラゴン種は賢いって絵本に書いてあったけど、本当だったんだ……)


 ドラゴンは知能が高いと、小さい頃に読んだ絵本の一冊に書いてあった。恐らく、同じ手は二度と通じないだろう。


(子供のドラゴンでも、こんなに知能が高いのか……。目潰しが効かないんじゃ、もう僕に出来る事は無いんじゃないか……?)


 他にも〈ウインド〉の魔法を使った目潰しもあるけれど、通用するとは思えない。打つ手無しだ。

 そんな中、


「第二弾だ~!!」


 いつの間にか裏手側の部屋へと回った、弓矢使いの人が合図を送ると、


 ドドドドォォォンン!!!

 GUWOOOHH!!??


 宿を挟んだ向こう側から、各属性の魔法が雨の様に降り注ぎ、アースドラゴンに命中。堪らず悲鳴を上げるアースドラゴン。


「す、すごい……」


 誘導性がほぼ無い第一位格、第二位格の魔法。それをほぼ全弾アースドラゴンに当てるなんて。魔法とアースドラゴン、それに戦局に熟知した人が指示しないと、こうはならない。——あ、居た。


「エマじゃな! さすがはわしの惚れた女じゃ!」


 アースドラゴンの攻撃が村の人達に向かない様、囮になって顔付近にて攪乱していたイーサンさんが、自慢する様に大声で褒める。きっと、エマさんへの売り込みも多分に含まれていると思う。


(……余裕あるな、あの人……)


 そんなイーサンさんに呆れていると、


「どうだ、やったか!?」「あれだけの魔法を受けたんだ! きっと……」「……頼む」


 建物の陰に隠れていた村の人達が出てきて、様子を伺う。

 ——が、


 GU、GRYUWAAAAA!!!


 村の人達の懇願空しく、アースドラゴンが大きく吼えたかと思うと、薄れゆく砂塵の中からその巨体を表す。


「ダメだ。逃げろぉ!!」「あれでも駄目なのかよっ!」「もう終わりだぁ!!」

「あ、ち、ちょっと待っ——」


 再び現れたその巨体にパニックとなり、逃げ出す人達。だが、それを許すアースドラゴンでは無い。


 GUWAAAAAAA!!!!

「「「ひぃいいぃ!!」」


 一人として逃がさないと威圧するかの様に大きく吼える。それだけで逃げ惑っていた人達の足は止まり、その場にへたり込んでしまう。

 そして、腰を抜かしたのか、その場から動けない槍を持った村の人に近付くと、無事な左前足を大きく持ち上げ———、


「〈世界に命じる!業火を生み出し暴れろ!!ファイアストーム!!!〉」


 凛とした声の詠唱が聞こえた瞬間、


 ゴウオオオォォウ!!!!

 GRWUUUU!!?


 アースドラゴンの体の中心に、突如として大きな火の柱が噴き上がる。と、それは徐々に渦を巻き始めさらに巨大化し、アースドラゴンの体を覆い尽くした!


 GUWOAAAAA!!!


 今までに聞いた事の無い程の絶叫が辺りに響くが、それも燃え盛る炎の音にかき消されると、全てを燃やし尽くさんとする豪炎の中にその姿は消える。僕たちがその光景を唖然として見入る中、やがて火の勢いが弱まっていき、そして消える。そこには、肉の焦げる臭いと体のあちらこちらからブスブスと煙を上げるアースドラゴン。その体は身動き一つしない。

 恐怖のあまり身を竦めていた村の人達も、恐る恐る立ち上がり固唾を飲む中、


「……やったか……?」


 イーサンさんがそおっとアースドラゴンに近付いていく。 そして、焦げた腹をポンポンと叩くと、


「うむ、死んでお——」

 ピクリ


「———! イーサンさん!!」


 GWUWAAAA!!!!


「—— ぬぅぅんん!!」


 まだ息のあったアースドラゴンが吼え、近付いたイーサンさんを噛み砕こうと、大きな口を開けて襲い掛かる!が、気を緩めていなかったイーサンさんは、すぐさま反応し、迫り来るその口に向けて、愛剣を横に薙ぐ!


 GYAWUWAAAAAAA……・


 口を大きく裂かれ、血を溢れさせるアースドラゴンの絶叫が木霊した! そして、それは次第に弱くなって行き、やがて聞こえなくなった。


 それを見届けたイーサンさんは手に持つ愛剣を、腰に差した鞘へと戻し、


「うむ、これで終いじゃ」


 と、ほうっと息を吐きながら宣言した。


「「「————————!!!」」」


 瞬間、人々の声が爆発した!


「やった、やったぞーー!!」「生きてる、俺、生きてるよ!!」「これで俺もドラゴンスレイヤーの仲間入りだー!!」「バカもん!あれはまだまだ子供のドラゴン。成龍はもっと常識の範疇を軽く逸脱した存在じゃぞ! お主らなぞ、最初のブレスであの世行きじゃ」


 村の人たちや冒険者が口々に喜びを爆発させ、近くに居る人と抱き合い、健闘を称えあい、大はしゃぎする中、


「守った、俺はあいつを守れたんだ……」


 一人座り込む人が居る。——カールだ。

 誰かから借りたのか、それとも拾ったのか分からないが、その手に持つ剣を放り投げ、その場で仰向けに倒れ込む。まさに満身創痍といった感じだ。あいつも守るべきものの為に、必死に頑張ったのだと思うと、それを称えたくなった。


(——僕は少し変わったのかもしれないな……)


 そう呟くと、


「わーい!お兄!!」

「おわっ!?」


 サラが僕の胸に飛び込んで来た。驚きながらもサラを受け止めると、サラは顔を上げて、


「お兄、最後の魔法、私がやったんだよ! 偉い?」


 と、目をキラキラさせながら聞いてきた。僕はそのサラの頭にそっと手を乗せ、優しく撫でながら、


「うん、偉い。サラのお陰で皆が無事だったんだ。サラのお陰でエマさんの魔法も無駄にならなくて済んだ。ほんとにお手柄だよ。サラは自慢の妹だ」

「エヘヘ♪」


 気持ち良さそうに笑うサラ。くすぐったそうに、それでいてもっとやってと主張する頭を優しく撫でていると、イーサンさんが現れ、


「うむ! サラちゃんのお陰で誰も死なずに済んだのじゃ! 大いに誇って良いぞ!」


 べた褒めである。


「エヘヘ、そう? サラも役に立ったかなー?」

「役に立ったってもんじゃないよっ!」「うんうん、サラちゃんが居なかったら、ここに居る奴は皆やられていたさ!」

「さすがはスペルマスターだ!天才だよっ!」


 褒めちぎられ、「そんな事無いよぉ♪」と身をくねらせるサラ。


「いやいや、サラちゃんのお蔭じゃ! さすがはエマが見込んだだけはあるのぅ! ガッハッハ!」


 上機嫌に笑うイーサンさん。サラの肩をポンポンと叩きながら、スッと僕を見て、


「ユウ、お前も良くやった。……成長したのぅ」

「……いえ、僕なんてまだまだですよ」

「そんな事は無い。己の出来る範囲でしっかりと成果を出す。それが出来る様になった。成長した証拠じゃ。ユウ、もう一度言うぞ。良くやったの」


 イーサンさんは最後に僕の頭をポンと撫でた。


「……有り難う御座います」

「そうだよっ! ユウも良くやったぞ!」「あぁ!あの目眩まし、良いアイデアだった!」「さすがサラちゃんの兄貴だよな!」


 イーサンさん以外の人からも褒められる。何だかとてもくすぐったいし、認められて何だか……。

 嬉しさのあまり、涙が零れそうになるのを必死に堪える。見る人が見れば、泣いているのが簡単にバレてしまう為俯くと、逆に僕を見上げていたサラと目が合った。

 まるで自分が褒められたかの様な満面の笑顔を浮かべ、


「お兄、良かったね♪」

「あぁ……」


 それだけを返すのが精一杯だった。


 そんな中、


「チッ、何だよ!! せっかく捕まえて来たっていうのに! 全く使えねぇじゃねぇカ!!」


 悪意に満ちた声が耳に入る。


「誰じゃ!?」


 イーサンさんが急ぎ剣を抜き、声のした方、ちょうど村長さん家の方へと伸びる道から、現れた影に誰何する。


 そこに現れたのは———、体長2メートル程の、人の形をした異形の存在だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ