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今度こそ!

 


「……落ち着いたか、三人とも」

「「「……はい」」」


 イーサンさんの前で、何故か三人正座をさせられていた。母さん、あなた、この人の元主なんじゃないのでしょうか?


「全く、落ち着かんとまともな話も出来ないでは無いか。殿下もしっかりしてくだされ」

「……はーい」

(いや、絶対反省していないだろ、それ)


 隣で正座させられている母さんを半目で見ていると、


「それで、ユウ君は何故取り乱したのかしら?」


 腕組みをしたエマさんが、質問してくる。


(どこまで話せばいい?)


 俯き、顎に手を当てて考える。僕の体験した事をそのまま言った所で信じてはくれないだろうし、端折って要点だけを説明出来る頭も無い。うーんと唸っていると、


「良いのよ、言いたい事をゆっくり整理して話してちょうだい」


 エマさんが優しい顔で、そう言ってくれた。


(整理……か)


 まずは、僕はどうしたいのか。


(それは決まっている。この後に来るアイツから、一刻も早く逃げないと!!)


 そう、今この村は魔物達に襲われている。その魔物達を率いているのは、あの悪魔。

 サラを、母さんを、アーネを殺したアイツに見つかる前に、すぐさまこの村から離れないといけない。


(だけど、どう言って説得すればいい!?)


 この後に何が起こるのかを僕は知っている。だからこそ、その強みを生かして今の内に逃げ出さないといけないのだが、どうやってここに居る皆を説得すればいいのだろう。

 たしか、今居るのは村にある教会の一室だったはず。なぜ母さんはこの教会に居たのかは分からないけれど、もしこの教会に居なければならない理由が有ったとしたら、アイツの存在を隠しての説得は無理だと思う。


(でも、そこで何故僕がそれを知っているのかって聞かれたら、説明出来ない……)


 実は、僕はこの後の事を知っているのだと。これから現れる悪魔に、僕も含め皆殺されてしまうのだと。だけど、何故か僕だけ違う世界で生きていたと……。


(これ、絶対に無理じゃないか?)


 日乃出に、別の世界に行っていた事は……。言わなくても良いか。あそこで体験した事を話すと、とても時間は掛かる。

 だけど、そこを話さないと話は進まないし、この後に待っている厄災からは逃れられない。


(あぁ、もう! どうすれば!? ……いや、待てよ!?)


 さっき、母さんは言った。僕が別の世界から来たと。という事は、少なくても“別の世界”という言葉の意味を認識出来るという事だ。


(ならば、何故か別の世界に行った事。そしてこの現実へと戻ってきた事を説明すれば、解ってくれるかもしれない!)


 もし仮に、今居るこの現実が、過去に時間が戻ったいわゆるやり直しなのだとしたら、神様がくれた良い機会なのだとしたら、ここに戻ってきた意味がきっとあるはずで、僕はここに居る大切な人達を助ける責任がある!


「……うん」

「ユウ君?」


 納得した僕の頷きに、首を傾げるエマさんに顔を向ける。


「……実は———」


 その場にいる人達を見渡しながら、僕は今までの出来事を簡単に説明する。


「———という訳なんだ……」


 説明を終えた後、再び皆を見渡すと、一律に俯いていた。

 この後に、ザファングという悪魔が現れ、僕も含めてここにいる全員殺されてしまう事。

 その後、何故か僕だけ別の世界に行き、そこで生活していた事。

 だけど、突然またこの世界に戻って来た事を、簡潔に話した。

 日乃出の事については、多分関係無いと思ったので、ほとんど話していない。別の世界の国で何とか生活していたよ程度で、アカリ達の事は何一つ話していない。


「……別に今すぐ信じてくれなくても良いんだ。とにかく、今は早くここから逃げ出さないと!」


 必死に訴える。こうしている今も、アイツは、あの悪魔はここに向かっている筈だから。


(こうなったら力ずくでも——!)


 そんな事を考えていると、


「ユウ君、確認なのだけれど、これからここに現れるそのザファングと名乗った魔族は、【四天王】と、そう名乗ったのね?」

「……うん」

「エマ、知っているのか?」

「……えぇ、お城の文献で読んだのよ。この世の終わりを統べる魔王。その魔王に使える幹部が、たしか【四天王】……」

「……」

「これは国家的な秘密、というより、知っている人が少ないから結果的に秘密になっているような物かしらね。だから、ユウ君が学校とかで聞く様な類のものでは無いわ。恐らく殿下も知らないでしょうし、この村で【四天王】という言葉を知っているのは私だけよ。その私が、その事をユウ君に言った覚えは無い。……という事は」

「……ユウの言っている事に偽りは無い、という事じゃな」

「その通りよ……」


 そこで言葉を切ると、エマさんは僕達を見渡し、


「逃げましょう、ここから。そして、村の東にある宿に向かいましょう。……ユウ君、そこには生き残りの人達が居るのね?」

「うん」

「ならば、そこでその魔族を迎え撃ちましょう。ユウ君の話だと、私とイーサンの二人で迎え撃って殺されたみたいだけど、そこに行けば他の住人に、冒険者も居るわ。ここでまた同じ事を繰り返すよりもずっとマシでしょう。そして隣街や首都に応援を要請しましょう」

「……うむ、そうじゃな。ではさっさと向かおう!」


 さすがは元【トライデント】というべきか。僕の話を聞いてすぐに頭の中で整理して、最善策を講じ行動する。アカリやユキネさんもそうだったけれど、やはり国の重鎮としての心構えと経験が差に出るんだな。


「殿下、宜しいですな?」

「……はい、そうしましょう。イーサン、エマ、宿までの道のり、頼みましたよ」

「「御意」」


 そして部屋から出て行く。向かうはアーネの親が営んでいる村の東に立つ宿だ。

 最後に部屋を出て廊下を歩く時、前を歩くサラを呼び止める。


「——サラ」

「ん? 何、お兄?」


 体ごと振り向いたサラを呼ぶと、抱き寄せる。


「~~~~~っ!!??」


 突然、僕に抱き締められたサラは声無き声を上げ、体を固くする。だけど、僕はさらに強く抱き締めた。


「……ぅく……ひくっ……」


 気付けば聞こえる嗚咽。


「……お兄?」

「……ぇぐっ……うぅぅ~~……」


 頬を流れる涙。


 もう会えないと思っていた、とても大切な存在……。


(生きていてくれた……)


 そう思うと、もう駄目だった。


「サラ、良かっ、良かったよ! サラぁ……」


 これから来るであろう絶望から逃げなくてはいけない。生き抜かなくては意味が無い。

 だけど今は、今だけは———。


 そっと、僕の背中に何かが優しく触れる。サラの暖かい手……。


「……もう、しょうがないなぁ……」


 涙声でそう言うサラに背中を撫でられながら、ここに戻って来れた事に心から感謝した。



 ☆



 僕達一行は、先頭をイーサンさん、一番後ろを僕とエマさんが位置する形となって東の宿を目指し、夜の道を走る。


 GYWAAAA!!

 SHYAAAA!!


 途中、何度か魔物の群れに襲われたものの、


「っふん!」「<ファイアーボール>!」「<ストーンボール>!」


 先頭のイーサンさんが斬り、中団に居るサラと、後方に居るエマさんが魔法を放ち、あっさりと倒していく。

 今も、突然現れたコウモリの羽根を生やしたウサギの魔物と、大きなヘビの魔物をあっさりと倒している。


(さっきから何もしていない……)


 魔物が弱い訳じゃない。この三人が強いのだ。さらに、こんな所でモタモタしていられない。アイツが、ザファングが後ろから追って来ているかもしれないのだ。


 だからこその効率重視。何もしていないのだけれど等と文句なんか言えないのだ。僕に出来るのは、せいぜい後ろから襲われない様に、気を配りながら走るだけ。


 程なくして、村の東側の建物が見えてきた。所々で煙が上がっており、微かに人々の悲鳴や魔物の雄叫びが風に乗って聞こえてくる。この東側の地区も同じ様に魔物に襲われているようだった。


 そして、宿を中心とした村の東側地区に到着した僕達の目に、魔物に壊されたであろう建物や、無惨に殺された人々の死体が入る。中には喰われた死体まで……。


「——うっ……」


 その悲惨な光景を目の当たりにし、サラがしゃがみ込む。まだ十二歳の子供にこの光景は耐え難い。

 その背を撫でながら、


「取り敢えず宿に向かいましょう。生き残りの人達もそこに居るはずです」


 母さんが宿のある方角を指差す。


「サラ、立てる?」

「……うん」


 母さんが、サラに肩を貸しながら歩き出す。その後ろでエマさんが、そっと杖をかざし、回復魔法である魔法をサラに掛けている。さすがは魔導師、攻撃も回復も出来るのは羨ましい。


 そのまま歩くと、暗闇に浮かぶアーネの宿が見え始めた。そして先ほどよりも戦う音や爆発音、怒声や叫び声がはっきり聞こえてくる。魔物と戦っている人が居るのだ。


「戦っている人が居るって事は、まだ生きている人が居るって事だよね?」


 気分が落ち着いた様子のサラが、母さんに確認する。


「えぇ、そうよ。私たちも合流しましょう!」


 その母さんの言葉に皆が頷き、アーネの宿まで急ぐ。そして、街道へと続く道を曲がると、そこかしこで燃える炎のせいで橙色に浮かぶアーネの宿の前に、これ以上の魔物の侵入を防ぐ様に机や椅子、木の柱やレンガ等が、道を塞ぐ様に乱雑に置かれていた。さながら防壁の様だ。前回もこの防壁というか防柵というべき障害物を上手く使って、魔物と互角以上に戦えていただけに、これが有るのと無いのとでは大違いだと思う。

 今も、襲い掛かる様々な魔物をその防柵を利用しながら、懸命に対処しているようだった。


「ほう、誰だか知らんがよう考えたな」


 イーサンさんも同じ様に思っていた様で、その防柵を見て感心していた。


「イーサン、感心は良いから、あの防柵に近付きましょう」


 呆れながら、指示を出すエマさん。と、そこに、


 GYAOOOOO!!


 口から生える、長いキバが特徴的なサーベルキャットが襲い掛かってくる。その大きさは、さっきまで居た教会のベッドよりも大きい。しかもその大きさに見合わないほど俊敏な動きである。こんな魔物、勝てる訳が無い!


 しかし、


「っふぅん!!」


 イーサンさんが持っていた剣を振るうだけで、頭を胴が離れ離れになった。

 それを見届けたイーサンさんは、刀に振るって付着していた血を振り払うと全身鎧の脇に差した鞘へと納める。


「うむ、エマの言う通り、とっとと行こう。物騒でいかん」


 と、アーネの宿前まで走って行ってしまう。置いてきぼりをくらった形になった僕達も、急ぎ防柵へと向かう。


「やれやれ、ほんとに困ったじいさんだよ」


 エマさんがぼやく。それに苦笑いを浮かべる僕とサラ。母さんだけは何も言わずに微笑んでいた。


 しかし、


(あんなに強い二人を、あっさりと殺したザファングは、どんだけ強いんだよ……)


 ここに向かっているであろう、最悪の悪魔。その計り知れない実力に、改めて恐怖を覚えた。


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