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第4話 バックスタブ

 彼女は実に不思議な走り方をする。

 それは端的に言えばいつの間にか“相手の背後をとる”というものだ。


「わーちゃん“振って”!」


 ベンチから届くヴァンパイアの声は一種のサイン。

 元から打てない私に与えられる数少ないバッターとしての仕事。

 要はどんな球でもバットを振って空振りしろということ。


 ピッチャーが投球モーションに入る直前、一塁ベース上にいる彼女を見る。

 相も変わらず彼女はベース上で棒立ちしていた。

 ……深く考えるのはよそう。

 私の今の仕事は如何にバットに当てないことかだ。


 投げられたボールは存外甘い球で如何にも当てて下さいと言わんばかりだ。

 一瞬誘惑に負けそうにもなるが、グッと堪えてわざとボールの上にバットに体重を乗せ派手なスイングをする。


 そして、私の後ろで捕球したキャッチャーはすぐさま投球しようと構えるが──、

 止まる。


 既に先程まで一塁ベース上で棒立ちしていた彼女は2塁ベース上で棒立ちしていたからだ。

 これが彼女の盗塁、メリーさんの走りだ。


『雨天の為一時ゲームを中断します』


 全員がベンチに戻る。


 結局あの後さらに3塁を盗み、私が倒れたあとに後続のスクイズで1点が入った。

 リードは1点だが、この空模様からすればコールドゲームで終わるだろう。


「さっすがメリーさんっス!やっぱり代走のカミサマって憧れッスよ!」


「そ、そんなことは……。皆さんが繋げてくれましたので……」


「そう謙遜なされるな。あの1点はメリー殿のチカラの賜物でござるよ」


 後ろでは皆がメリーさんを労っている。

 試合の終盤で確実に得点してくれるメリーさんなら当然ではあるが。


「外国人選手枠に入らないのは本当に助かる。後は守備が出来てくれればなぁ」


「外国人枠なんてあったんですか」


「ああ。各チーム4人までな」


 さらっと新しい情報が化け猫の監督から提供される。

 日本にいるから当たり前の話ではあるが、通りでチームの半分以上が海外組みたいなチームがないと思ったら。


 因みにメリーさんは日本製のお話なので当然日本国籍の存在である。


「流石に代走専門には外国人枠は使いたくありませんか」


「まあ、な。うちはまだ制限人数分いないが今後増えないとも限らないから」


 走れば1点は取れるがそれ以外はからっきしに制限の枠を取られるのはキツいか。

 だから枠に囚われない枠で彼女のような選手が使えるのはとても有難いことなのだろう。


 不意に彼女の方に視線を向けると丁度1人になっている。

 これはいい機会だ。

 折角だから前から聞きたかったことを聞いてみよう。


 ……実はこれが初めての会話だったりする。


「メリーさん」


「ひゃいっ。ええっと……、座敷わらしさんですよね」


「うん。芋臭いし名前だしわーちゃんでいいよ」


「わ、分かりました。あ、あの、私はメリーでお願いします」


「ん。分かった」


 よし、彼女は人見知りのような雰囲気があったがいい感じで話し始められそうだ。


「それで……。私に何か用でしょうか?」


「うん。実は聞きたかったことがあって」


「?」


「どんな走り方をすればああいう風に盗塁出来るのかなって」


 前から思っていた事。

 投手からしても、一切走るモーションを見せていないのに投げたらいつの間にか2塁にいる。

 それはベンチからも同じで、いつの間にかそこにいるのだ。


「えっと、なんと言えばいいのか……」


「感覚的な感じかな」


「あっ、し、視線を外してます!」


「視線を外す?」


「こ、こんな感じで」


 そう言って彼女は身を屈める。

 恐ろしい速さで。


「……もう1回やってもらっていい?」


「は、はい」


 シャッ、と残像が見えそうな速さで彼女の上半身が視界から消える。

 あわよくば参考にしようかと思ったが、これでは参考にならない。

 凄すぎる。


「でもどうやってそこからあんな早く次の塁に走ってるの?」


「走る、と言うよりはステップですね。そ、その、姿勢を低くしたまま……、初めの1歩で3分の1をいく感じで」


 なるほど、想像したらかなりヘンテコな動きだが、姿勢で視線を外したまま一気に長距離を駆け跳ねるから突然現れたように見えたのか。

 誰にも見えず悟られず。

 実にメリーさんらしい背後の取り方だ。


「あの、聞きたい……、分かりましたか……?」


「バッチリ」


 やれないことがよく分かった。

 ただ、私より少し大きいとはいえ彼女の動かし方は私にも参考できることがあるかもしれない。


「ねえメリー、今度よかったら一緒に練習しない?」


「えっ……」


「あ、ごめん嫌だったかな」


「そ、そんなことないですよ!!あの、よろしくお願いしますざし……、わーちゃん!」


「うん」


 可愛いなぁ。

 私も出来ればこんな可愛い子に転生したかったものだ。


「わーちゃんはカワイイ!!」


 後ろからガバッとヴァンパイアが抱きついてくる。


「だから勝手に心を読むな」


「ごめーん。あっ、試合再開するらしいよ」


 見ればいつの間にか雨も止んでいる。

 土も出来なくはなさそうな感じだ。


「それとメリーちゃんも守備についてだって。セカンドだって」


 おい、守備苦手なヤツに任せる場所じゃないだろ。


「ふぇっ!?」


 案の定当の本人が困惑してるじゃないか。


「後1回だから大丈夫だよ!後ろは任せたよー」


「そ、そんなぁ」


 大丈夫か、コレ。


『プレイッ』


 そんな心配を杞憂にヴァンパイアが2人をサクッと三振で抑えてあと1人。


 ガキッ


 バットがボールの下を叩き、ふわりと浮く。


「ピッチャー!」


 距離的に落下地点はマウンド。

 私が行くより任せた方がいいだろう。


「オーライ」


「私今カバーしてるの」


「っ!?」


「ひゃいっ!?」


 グラブがボールを弾き、カバーはカバーの役割が出来ずに互いに尻餅をつく。


 ……背後をとるのが癖らしい。






本日の試合結果

ネコマターズ 1-1 ジョッキーズ(9回裏にエラーから同点で引き分け)



第4話 バックスタブ ゲームセット


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