第3話 家を護りし小さき者
今更かもしれないが私は捕手だ。
なぜ座敷わらしとか言うちんまいのに捕手なんかやらせているのか。
もちろんそれには理由がある。
2つも。
まず1つ目がネコマターズというチームに捕手がいなかったこと。
どうもわたしが転生するちょっと前に捕手が除霊されたらしく、たまたま枠が空いていた。
そして2つ目。
これが最も重要な理由で、単純に縁起が良いのである。
どの点に縁起のよさがあるかと言うと、座敷わらしはお家の守り神という一面もあるということ。
つまり“ホーム”ベースを守るというところから来ているらしい。
まあ、家を“賑やかす”という面を考えると本当に守らせていいものかと思うのだが。
だが、決して縁起だけではない。
なにせこの小さなボディだ。
普通の感性をしているのであればスライディングをしようとするランナー心理にそれを抑止させる効果がある。
これによって長打でセカンドランナーが戻ってくるような場面でも、サードで止まるか減速してくれるので得点防止になっているのだ。
割と理にかなってる、と思う。
ただまあ、それが発動しない機会も当然あって。
「ガルァ!!」
「なっ!?」
ドカーン
狼男のように家を守り神共々吹き飛ばす奴もいる。
『治療のため一時ゲームを中断します』
「わーちゃん!」
着替え室に隣人のヴァンパイアが勢いよく入ってきて、私に突撃をかます。
「ぐえっ」
後ろから抱きつかれた衝撃で手持ちのエアーサロンパスが吹っ飛ぶ。
「大丈夫!?大丈夫なの!?」
「ヴァー子のせいで大丈夫じゃない」
「ごめんね!」
そう言うとさらに私を抱く腕に力が増す。
コイツ本当に私が怪我の治療の為に更衣室にいること分かってるのか?
「分かってるよ!だからこうやって私が抱いてセラピーを……」
「それは男にしか効果がない」
残念ながら同性の嫉妬するような2つのたわわに私は癒されるような嗜好はない。
寧ろ“座敷わらし”という存在にはなっている以上、殺意しか湧かない。
こちらはもう伸び代0だ。
「ごめん!悪気があった訳じゃないんだよ、だから捨てないでー」
「人聞きの悪いことを言うな」
そしてようやく私の体から離れる。
「まだいけそう?無理なら監督に」
「大丈夫。いけるよ」
幸い怪我は外傷が軽い擦り傷程度で済んでるので、この後も続行は可能だ。
正直妖怪が怪我をするというのも可笑しな話の気がするが……。
ゲ○ゲ○鬼○郎とかだとガッツリやられたりするし、そこはそういうものだと受け入れるしかない。
幸い死なないし多少は人間の時よりも頑丈なのは間違いない事だし。
「それにしても酷いよね!わーちゃんに突っ込んでくるなんて」
「後ろから不意打ちで来るよりはマシだ」
「もうそれはごめんって!」
だがやはり考えものではある。
大事な場面でのクロスプレイで必ず負けているようでは、確実に私のせいで勝敗が傾くことが増える。
玄関開けっ放しの家は流石にゴメンだ。
早急に何らかの対応策は考えねばならない。
「色仕掛け!ホームベースで誘惑!」
「プロテクター付けてるのにどうしろと。それにそれで喜ぶのヴァー子だけだ」
別の意味で身体が危ない。
もう少しまともな意見がほしいのだが。
「真面目にかんがえてるんだけどなー。あっ、じゃあ受け身の練習をするとかはどうかな」
「受け身?」
「そう!ぶつかっても転がってボールを零さないようにする受け身!」
なるほど、確かにかの有名な“ジョージ・マッケンジー”のように自分よりも体格の大きいモノから突き飛ばされても、最終的には持っていたらいいのだ。
アレを真似して受けるというの妙案だ。
何度家が吹き飛ばされようとも根元が残ればセーフだ。
おお、これは割とありな気が──、
しない。
「なんで!?」
「私あの狼男に今日どこまで飛ばされたと思う?」
「えーっと……。ベンチまで」
「あれよりも大きいヤツなんてザラだし無理だ。死ぬ」
幾ら上手い受け身を身につけたところで、この体では耐えられる気がしない。
まともに受けたら一発で負傷退場だ。
「よく考えたら私が打たれなきゃ問題ないよね?」
「リリーフだから1回か頑張って2回までじゃん」
基本デーゲームが多いシーズンの関係上、ヴァンパイアはリリーフがせいぜいだ。
確かに実力は知ってるから出来るなら先発フルイニしてくれると有難いけど。
ゴンゴン
「入ってもいいか?」
更衣室の外から監督の声が聞こえる。
「どうぞ」
監督は器用に尻尾を使いドアを開け更衣室へと入ってくる。
「よお、怪我は大丈夫か」
「はい。戻れます」
「そうかそうか、なら戻ってくれ。」
「はい」
「お前も肩を作りに戻れ」
「はーい」
私たちは監督の背を追って更衣室を出る。
先頭をいく監督は相変わらずブツブツと何かをボヤいている。
「あっ」
「どしたの?」
「思いついた。家の守り方」
『プレイ』
バッターはナイスバディな赤鬼か。
早速使ってみよう。
「……尻破けてる」
「!?」
『ストライク』
「鼻毛でてる」
「なっ」
「ストライクツー」
「ごめんウソ」
「……っ!」
ボコンッ
ボテボテのゴロはショートが捌いてアウト。
うん、やっぱり“家鳴り”は気になるよね。
本日の試合結果
ネコマターズ 2-3x ウイーンドーズ(最終回怒った赤鬼の逆転ツーランでサヨナラ負け)
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