第2話 審判の目の付け所
「ボール」
おかしい。
何故さっきはストライク判定だった位置にボールが来ていたのにボール判定。
マウンドを見るとピッチャーの“くねくね”も同じように首?を傾げている。
あれか、意図せずさっきはフレーミングが成功していた感じか。
取り敢えず今度はインローに先程よりもボール半個分中よりに投げて貰って様子を見るか。
彼はコントロールPだし、ある程度はその枠で決めてくれるだろう。
フォーシームを要求しミットを打者寄りに構える。
くねくねも首を横に振らず、こちらの意図を感じ取ってくれたようだ。
バシンッ、
「ボール」
おいまたか。
これでストライクとって貰えないなら厳しすぎるだろ。
ええい、こうなりゃ仕方ない。
これで球数が増やされたらたまったものじゃない。
アウトロー気味のボールで打ち取る事に切り替えミットを構える
が、
「あっ」
カキーン
甘く入ったボールはライトスタンドへと消えていった。
***
ペシペシと私の頭を監督が尻尾で叩く。
「派手に燃えたな」
「すいません、私の配球ミスです」
あの後、完全に崩れてしまったくねくねを立て直させることが出来ず、結果あの回は4点も取られてしまった。
流石に3回とはいえ止まりそうもなかったので、1番に打順が戻ったところで速球派のリリーフエースのミイラ男に投げて貰い後続を打ち取ってもらった。
「それにしても2回までは好調だったのにな。何かあったのか?」
「その、急にストライクゾーンが狭くなって投げるものが無くなりました」
そう、くねくねはそのコントロールの良さを活かして勝負するピッチャーなのだが、如何せん球速がなければ決め球となりそうな変化球もないのだ。
それ故にコースに投げれなければ見事なバッピと化す。
「可変か。機械じゃないとはいえ露骨にされると困るな」
監督がボヤく。
ちなみに可変とは野球で試合中にストライクゾーンが変わる事を指す言葉だ。
この可変な要因は主に球審の気まぐれだが。
……私は誰に説明をしているのだろうか。
「まじ球審焼き討ちにしてやるっ」
声がする方を見るとPゴロを打ったノブナガがベンチに帰ってきていた。
「今日の主審はクソじゃ!」
そしてかなり怒った様子でベンチに座る。
ノブナガは基本的にコースすらも絞って狙い玉を打つのでモロに影響を受けているようだ。
「あの、やっぱり今日の球審は可変ありますよね?」
「ああ。しかも我が露骨にアピールしたら更に広げてきおったわ」
どうやらチーム関係なしに可変をしているようだ。
補足だがこのノブナガという者のアピールは基本的には女体状態の時のバストでのエロアピールの事である。
やはりうつけ者だ。
「しかしこればかりは今中に何とかしなければならんぞ」
「ですね」
エロアピールは如何なものかと思うが、確かに可変は攻守において対処が出来なければ致命的だ。
いや、もう4点取られた時点で致命傷ではあるが。
「イヤー、今日はキツいっスね。最後なんてボールだったのがストライク判定だったんスよ」
見逃しの三振で天狗がベンチに戻ってくる。
「全くどこに目を付けてジャッジしてるんスかね」
「酷いようなら抗議するしかあるまい。場合によっては力じゃ」
「それノブさんが暴れたいだけっスよね」
「バレたか」
そう言えば審判は一体誰がしてるのだろうか。
まだ数試合しか参加していないが、いつも審判は両チームが守備位置についてゲームが始められる状態になったらいつの間にやら湧いている。
そう言えば全員無駄に深く帽子被ってて顔全体が漫画みたいに影になっていた気がする。
「監督、審判って誰がやってるんですか?」
「暇なヒトたち」
「あの、そうじゃなくて……」
「おい、ミイラがくたばった。守備につけ」
どうやら3人でこの回の攻撃は終了らしい。
私はマスクを被り自分の守備位置へ着く。
……そう言えば球審なら顔が見えるんじゃ。
なんて思いボールを貰う際に球審を見るが
「なにか?」
「……いえ」
サングラスを掛けていて中が見えない。
どころか普通の白いマスクも付けているせいで顔全体が見えない。
ツッコミどころしかないし、いや寧ろこんなのだから適当なストライクゾーンだということに納得もしかねない有様だ。
「……私の顔気になります?」
「へ?」
何かを察したのか球審がマスクを脱ぎ、サングラスを外す。
「贔屓目はなしです」
「目の付け所がないですよ」
非の打ち所しかないこの球審のっぺらぼうは“目が無い”ようだ。
本日の試合結果
ネコマターズ 1-7 東区フブキーズ
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