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第1話 帰国()する助っ人

『地縛霊のたま男さんが成仏しそうですのでゲームを中断します』


 そのアナウンスを受けて守備側のチームはレフトを守っていた地縛霊の元へと集まる。

 その様子をぼんやりと眺めていると、


「こりゃ不戦勝だな」


 横で監督の化け猫がボヤく。


「あの、不戦勝とは」


「アイツらのベンチを見ろ」


「はあ」


 言われた通りにベンチを見るとそこには誰もいない。

 監督もだ。


「あそこは常に人手不足で“代打、俺”どころか“スタメン、オレ”だ。つまり成仏したら人数不足でおしまいって訳」


「……ありなんですか、それ」


「野球のルール故に致し方なし」


 人外野球の筈なのに本来の野球のルールをしっかり守るのか。

 イメージ的にはド○ベースみたいなとんでもパワー野球を想像していたのだが。

 先日他のチームの試合を観戦していた時も思ったのだが、案外真っ当に野球をしている。


 正直今のような成仏で試合停止が唯一の人外化野球要素だ。


「みんな能力使ったら“メデューサ”とか連れてきたところが不戦勝で優勝だよ?」


 視線を上げるとブルペンにいたはずの同居人がベンチに入ってくる。


「勝手にひとの心を読むな」


「ごめーん」


 悪びれもせずに同居人のヴァンパイアはグローブを起き、わたしのとなりに座る。


「カントクー、ブルペンから見た感じ無事に成仏しそうでしたよー」


「分かった。おい、全員ある程度荷物はまとめとけ。今日は不戦勝だ」


 その声にベンチ中から“うぃーす”と気だるげな声が上がり、次々と立ち上がって片付けを始める。


 ……まだグラウンドを見るに成仏はし終わっていないように見えるのだが。

 一応尋ねてみる。


「監督、まだ気が早いんじゃ」


「なに、あの手が成仏の兆候を見せれば1発だ。ま、その内分かるようになる」


 と、振り振り尻尾を振って答える。

 まあ、皆気にせず片付けている事だし私が気にしても仕方のないことだろう。

 そう思い私も自分の荷物をまとめ始める。


 それにしても試合中に成仏とは。

 確かに中断前の最後のプレーは単なるレフトフライをその地縛霊が捕球しただけだったと思うのだが。


 なんて考えていると、とつぜん後ろからフワッと抱きつかれる。


「それはね、あの地縛霊さんはレフトフライが取れなくて地縛霊になったからだよ」


「だから人の心を勝手に読むな」


「ごめーん」


 全く、この同居人はすぐに人の心を読む。

 幾ら会話がスムーズにいくと言っても、読まれているのが分かると何処かむず痒いものを感じる。

 生前には気づかなかったのだが。


 まあ、それは置いといて。


「知ってるのか?」


「うん。野球好き……、と言うより高校野球好きなら有名な人だったから」


「へえ……。何があったの?」


 レフトフライが取れて成仏できる高校野球の有名人。

 悲劇の役満だ。

 ぶっちゃけ聞かなくても中身は概ね想像がつくのだが。


「たぶん想像してる通りだと思うけど、あの地縛霊は20年くらい前の甲子園の決勝で最後に打ち上がったレフトへのフライを後逸した人なの。それで逆転サヨナラ負けしちゃったの」


 おお、生前の私が産まれる前のできごとだがそれは知っている。

 よく夏の甲子園特番の悲劇集で流れていたのを見た記憶がある。


「それが原因で地縛霊に?」


「そうだね。高校卒業後は野球は辞めちゃったみたいだけど、ずっと心の中には残ってたみたいだよ。あっ、因みに死因は癌だって」


「直接の死因は関係なくても地縛霊になれるのか」


「うん。無くなる直前の強い思いが地縛霊になるのには大事な要素だからね」


 確かに、もし自分が同じ立場になったとしたらトラウマとしてずっと何処かに引きずってしまうだろう。

 とても納得のいくロジックだ。


 ただ、1つ気になることが。

 それならば何故、なんでもないレフトフライをとって彼は成仏しようとしているのだろうか。

 まだ試合は4回の表だ。

 シチュエーション的にも成仏するには何かと足りていないような……。


「実はあの人高校時代はずっと控えでライト守ってたの。で、決勝の途中のトラブルがあって急遽レフトで出たんだって」


 また心を勝手に……。

 もう指摘するのもめんどくさいしこのまま続けるか。


「何処かの記事で“監督にレフトで行けるか聞かれていけると言ってしまったせいで負けた”って答えていたのがあったから、多分レフトが守れなかったこと事態がトラウマだったんじゃないかな」


「……レフトとライトってそんなに違うものなのか?」


「人にもよるけど、基本的はずっと同じポジションで練習するからそれが他の人からすれば単なる左右の違いであっても対応が難しいんじゃない?」


 それは盲点だった。


「つまりあれか、あの人はちゃんとレフトとして守れたから成仏しようとしてるのか」


「うん。補足だけどじつは昨日ほんらいレフト守ってた人が成仏したから今日は急遽レフトに着いたみたいだね」


「向こうからしたらとんだ災難だな」


 連日レフトが成仏。

 オマケに人数が足りないという惨事。


 地縛霊に焦点を当てれば要約あの時出来なかった事を出来ての満足の欠末であるが、その他メンバーからすれば試合中に勝手に満足して消えられるとかいうなんとも言えない展開だ。


「……なんで幽霊にも野球させるんだ?」


 ふと思う試合中における成仏へのリスク。

 未経験でも数合わせなら妖怪やら使った方がよっぽど安全では。


「人数が足りないからだよ」


 なんとも切実な回答。


「ま、1部を除いたら基本的には助っ人外国人みたいな感覚だよ」


「本人すら予期せぬタイミングで帰国する可能性がある助っ人なんて使ってられるか?」


「いなくなったらまた探せばいいんだよ」


「それは助っ人じゃなくて使い捨てだろ」


「ものは言いようだね」


 まあ、こんな生者が疲れる世の中じゃ、中身問わず幽霊は幾らでも湧いてくるのか。

 生きてても社会で使い捨てられ、死んでも野球で使い捨てられる。

 悲しいかな使い捨っ人幽霊。


「あ、でもほら、あの人みたいな感じなのはかなり助っ人感あるよ」


 そう言って彼女の指さす方を見れば、


「おっ、よく見れば本日は男カ。その顔じゃ女子にも見えるナ」


「どうも最近は“ショタ”の我が流行りようじゃのう」


「ノブさんは最近は女性になることが多かったからこれはレアっすね」


 髑髏で乾杯しそうな幽霊が。


「ね?」


「まだ成仏してなかったのか」


 こちらの助っ人は日本一になるまで帰国しそうにない。






本日の試合結果

ネコマターズ 0-0 ツバキーズ (ツバキーズの人数不足による放棄試合でネコマターズの勝ち)



第1話 帰国する助っ人 ゲームセット


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