プロローグ
「あれ、死んでなかったの?」
「公園で寝ていただけです」
「うわっ、そりゃしまった。もう戻せないから代わりに転生させて上げよう」
「なぜそうなる」
「あっ手が滑った」
「へ?」
これが私の生前最後の会話だった。
***
白球が迫り来るバットを避ける様に曲がり、ミットへと鈍い音を響かせながら収まる。
『ストライク!バッターアウト、チェンジ』
目の前で大小様々な影がグラウンドの仲を動く。
ベンチから駆け出すモノは皆、手に野球部用のグローブをはめそれぞれの持ち場へと着く。
当然の話だが、この眼前で繰り広げられている光景は野球だ。
さて、私は今近所の球場で同居人に連れられ野球を観戦している。
とは言っても別にプロの試合でも甲子園の予選でもない、ましてや社会人や独立でもない。
言ってみれば草野球の延長線のようなものだ。
しかし、それも正しいとは言えない。
なにせこれは、
「ねぇ、なんで妖怪が野球やってんのさ」
「妖怪だけじゃないけどね」
マウンドのピッチャーはどう見ても傘のお化けで、キャッチャーは蛾の化け物。
内野も角が生えてたり腕が数本多かったり、外野にはデカい蜘蛛やら下半身が馬の奴もいる。
もちろん打席のバッターに至っては腕が羽なので足でバットを持っている。
指図め摩訶不思議野球大会と言ったところか。
「なぜ野球をしてるんだ」
「勝った地区がその年の総括権を得るためだよ」
「それなら尚のことなんで野球をするんだ……」
「なんでだろうね」
そう言って私を膝の上に乗せている同居人が頭を撫でる。
因みにこれは私にとって他人事ではない。
なぜなら、
「明後日はわたしたちの試合だからね。ちゃんと相手チームの確認をしないとね、わーちゃん♪」
そう、私わーちゃんこと座敷わらしの私は明後日にはあのグラウンドで野球をするのだ。
まだ座敷わらしに転生してから3日と経ってないのに野球をする事になるなんて、まるで想像も出来ない展開ではあるが。
これはカミサマの手違いで座敷わらしに転生させられた私がすこし変わったヒト達と野球をする物語である。
たぶん。