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グローイングアドベンチャー  作者: へたまろ
序章:補助魔導士
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第1話:補助魔導士

「ふむ、お前の職業適性は……」


 そこまで言ったところで、年若い神父の男性の言葉が詰まる。

 男性の手には、少年の職業の適性が描かれた紙が。

 犯罪を犯していない、全ての14歳の人族が神より与えられる神託。

 適正職業享受の儀。

 

 多くの子供達が歓喜し、絶望する瞬間でもある。

 幼い頃より剣の道を志した者が、魔法の才があったり。

 戦闘職なら何でもいいと思っていたのに、商人の適正だったり。

 はたは危険なことはしたくない子に、剣士の道を示されることもある

 職業によって、生涯年収が決まるといってもいいこの世界で……

 踊り子や、掃除夫など稼ぎが見込めない職業の適正を得る事もある。


 どういった基準で選ばれるのか、それは定かではない。

 一説には大神の加護で武芸や魔法職、商売系や芸術関連の系統に分かれ、その後に中級神や下級神の守護によって職業が決まるという説。

 もしくは先祖から受け継ぐという説。

 これは親や祖父母どころか、ずらっと連なる系譜の祖からの適性職業の中で選ばれるのではないかと言われている説。

 極端なところでいえば、教会による陰謀説まで囁かれたこともある。

 しかしそれらの説は、ユニークと呼ばれる1代限りの職業の存在によって、断定されることはなかった。

 今も多くの学者の適性を持つ者たちが研究を行っているが、明らかにはなっていない。


 ただし教会で神父の適性を持つもののみが、それを紙に転写できることから神の関与だけはほぼ確定している。

 そして、神とて職業適性によって不幸になるだけだなんて、そこまで残酷なことはしない。

 先にあげた掃除夫などであれば、他にも剣士に僅かの適性を示したりすることもある。

 兼業ならなんとか人並か頑張ればそれ以上の収入も。

 もしくはその薄い才能に全てを賭けて逆転を狙うものもいた。

 適性があれば、努力次第である程度の成長は見込める。

 努力しない天才よりも、努力した凡夫が勝ることだってある。

 まあ、天才が努力したら、どうなるのかという身も蓋も無い話もあるのだが。

 最近では兼業というよりも2つの職業を複合職として昇華させる人も現れ、一財産築いたものまでいる。


 そんな世界にある教会の中で、ワクワクと自分の職業を言い渡されるのを待っている14歳の少年。

 まだあどけなさが残る、純朴そうな顔をしている。

 隠すつもりもない期待を顔で表しながら待っている少年を前に、なかなか言い出さない神父。

 その困惑した表情と、言い淀んでいる様に少年の中に期待よりも不安が勝って来る。


 まれにユニークと呼ばれる、特殊なジョブの適性が湧く子もいる。

 聖騎士の上位互換の神聖騎士であったり。

 大魔導士の上位互換の魔王であったりがそれである。

 一つの世界に、同時に二つと存在しない職業。

 前任者が亡くなるまで、その適性が他の者に現れることはない。

 そういった職業にはエンヴィやグラトニーなどといった、何が出来るか名前から想像すらできず未だに全容が明らかになっていない職業もある。

 ユニークとはいえ、中にはどうしようもないクズと呼ばれるジョブもあるわけで。

 先ほど述べた何が出来るのかが、明確にされていないジョブがそれにあたる。

 プレゼンターや、ミンストレルといった一見なにを司るか分からないジョブだ。

 前者に関してはこの世界で有名な扇動者……革命者と呼ばれるものにプレゼンターが居たことで人々に言葉を伝えることに巧みな者として、途中から王族や教会に引き上げられるようになって立場を上げていったジョブもある。

 そしてジョブは、そのジョブに適した行動をとったり、魔物と呼ばれる魔力を身に宿した動物を倒すとレベルが上がり、スキルや魔法を覚えたり、職業に適した能力値が増したりする。

 生涯王族に仕えたプレゼンターの中には、短い言葉で王族を陰で操ったものまで現れたという伝記もある。

 


「あー、ユクト……君のジョブ適性なのだが。まず、一つしかない」

「は……はい」


 真剣な眼差しでもって、前置きにしてはどうなのだろうという言葉。

 それでも僅かな希望をもって、これから続く言葉を聞き逃さないように太腿(ふともも)の辺りで握った拳に力が籠る。


「××魔導士だ」

「え?」


 それでも聞き逃してしまったのは、神父の活舌が突如悪くなったせいだろう。

 魔導士と付く職業は、往々にして大きなはずれはない。

 ないはずなのだが、その言葉を口にした神父の表情が硬い。


 そして、剣を握る事を生業としたいと思っていたユクトにとって、これはすでに嬉しくない職業であることが確定した。

 魔導士に武術を期待してはいけない。

 そんなのは、この世界の常識だ。

 それでも、魔法の世界でなら食べていけることは……


 神父の表情を見る限り、難しいのだろうか?

 はっきりと、言ってくれよ。

 そんな思いを抱きながら、ユクトと呼ばれた少年は顔をあげて神父の目をジッと見つめる。


「君の職業は補助魔導士だ!」

「ほじょ魔導士?」


 聞きなれた魔導士という言葉に、聞きなれた補助という言葉。

 だが、この言葉の組み合わせは初めて聞いた。


「それは、どういった……「分からぬ」」


 どんな職業なのか、尋ねようとしたユクトの言葉を遮って、神父が首を横に振る。


「ユニークだろう……ユニークだろうが、未発見のものだと思われる」

「そ……そんな」


 それから神父があれこれと慰めるような言葉を掛けていたが、ユクトの耳はその半分も拾うことが出来なかった。


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