86話 内政問題
それから一週間くらい。コロネに部屋からは出ないでくれといわれ、私とリリは部屋の中でまったりしていた。
というのも、まだ城内にもレオン達に尻尾を振っていた貴族や騎士が多数いるらしく、城内も混乱しているので、私たちに何かあったら困るとの事らしい。
レオン達が無差別に殺してしまっていたので人手不足は深刻で、そういった騎士や貴族も簡単に牢に入れる事ができないのが現状なのだとか。
一応コロネが結界を貼ってくれた離宮のような場所で、休んでいるので変な人たちが来ることもないが……
なんつーか暇だ。
コロネは夜中に少しだけこちらに顔を出して、私たちに一日の報告をすると、すぐに仕事があるからと自分の部屋に篭ってしまう。
あまりにも暇だったので、城内にテントを張って、私のテントの中でリリと一緒にゲームで遊んでいるほどである。
「今日は夜になってもコロネ戻ってこないねー
大丈夫かな?」
リリがパタパタと足をばたつかせて、漫画を読みながら私に言う。
「ああ、そうだな。アルファーがいるから大丈夫だとは思うけど」
ピコピコとゲームをやりながら私。
明日辺りコロネが来たら、ちょっと城下町を探索に行ってもいいか聞きたかったのだけれど。
コロネが来ないのでおかげで買っただけで積んでいたゲームが一つクリアできそうな勢いである。
△▲△
「ただいま戻りました」
言ってコロネがアルファーを連れて戻ってきたのは、すでに深夜と言っても差し支えない時刻だった。
リリはもうスヤスヤとベットで寝てしまっている。
「随分遅かったじゃないか?大丈夫なのか?」
ゲームをするのを止め、コロネに言えば
「はい。申し訳ありません。こちらに戻ろうとしたときに少しゴタゴタがありまして」
と、コロネ。
その顔は酷く疲れきっているようにも見えた。
「ゴタゴタ?」
「ええ、くだらぬ人間貴族の政権争いとでもいいましょうか。
私にどちらの派閥につくのかと迫られまして。
少し対応に手間取っておりました」
「うわー、なんだか面倒事になってきたな」
私がうんざりした顔で言えば
「猫様とリリ様には手出しできないように手配しますので、安心してください」
と微笑まれる。
……うん。まぁ、コロネが一人で人間領を何とかすると言ったのもたぶんこういう、平定したあとの事を考えてだったんだろうな、と今でならわかる。
結局自分よりレベルの低いプレイヤー連中を倒すのは簡単だが、その後処理が物凄く面倒なのだ。
それこそ陰謀だの王宮のドロドロした関係とか。
正直自分でもそっち方面ではまったく役にたつ自信はない。
コロネが一人で行くと言った気持ちもいまならよくわかる。
……にしてもだ。
「それはまぁ、ありがたいんだけど。
コロネは大丈夫なのか?顔色が悪いぞ?」
自分が言えば、横に控えていたアルファーが力強く頷いて
「コロネ様、流石にあれは無理をしすぎかと……いくら【並行思念】のスキルが使えるからといって、
同時に4人から話を聞いて、全てに適切な処置を返答していれば精神の消耗が激しいのは仕方ないかと」
と、呆れたように言う。
「ちょ、そんな事してたのか!?」
「はい。熊のぬいぐるみを4体置いて、それに報告をさせ、自分はまた別の人物に指示を出すという事をしていました」
と、アルファー。
「なんつーか、なかなかシュールな図だなそれ」
「……そうでもしないと間に合わないといいますか。
あまり時間をかけてしまうと、手遅れになってしまう恐れがありますので」
「そんなに酷いのか?」
「魔素溜になってしまった地域が多すぎて……街道のコースから、魔素溜の村に囲まれてしまって孤立してしまった街やらを至急対策を講じないといけません。
ああ、それに農作物も酷い有様になっております。
無理やり魔力で土地を肥えさせ農作物を育てたせいで、農地が魔素溜になりかけているのです」
「無理矢理って?」
「ダンジョン産の魔石をくだいた物を農地に肥料として撒いていたのです。
確かに、一見農作物がよく育つので賢いやり方に見えますが、ダンジョン産の魔力は異質といいましょうか。
何年もその土地に魔石を使っていると、そこに魔素がたまり、魔素溜になってしまうのです。
またダンジョンの魔力を、体内に摂取しすぎると、体調不良が起きることは300年前に、私と友がした実験で証明されています。
ですので、テオドールの時代に禁止したはずだったのですが、それを無視してしまっていたようで……」
「無視って、誰も止めなかったのか?」
「プレイヤー達にやめるよう進言した者もいたのですが……
最初にその方法を試そうと提案したのがプレイヤーだったことと推進派の貴族達の意見を鵜呑みにしたプレイヤーに殺されてしまったそうです。
どうにも、魔石をやめるよう法律を作ったのが、自然崇拝のエルフである私だったために、嘘を記述したのではないかと邪推されたようで……」
言ってコロネはため息をはく。
「即効性がなかったため、誰にも検証されずに作物が良く育つとそのまま、ダンジョン産の作物を使い続けた結果。
帝国には謎の病気として、手足が動かなくなる病気が蔓延してしまっています。
この12年で蓄積された分が今になって症状として現れてしまっているようです」
「ええええ!?それマジでやばいやつじゃん!?」
「はい。取り急ぎ、対策を講じないといけません。
まずは魔石の使用をやめさせ、魔石で育った作物を摂取するのを停止しないといけないのですが……。
全ての地域で魔石を使っていたため、食べるのをやめろといっても代わりの作物がない状態でして。
今現在作物に魔石を使っていない地域はエルフ領だけのようです」
「うわー。人類勝手に滅ぶ寸前じゃないか!?
状態異常回復のポーションで治せないのか?」
「はい。プレイヤーが持っていたポーションでも無理だったと聞いております。
まだ症状が出ているのが、年寄りのみですが、あと何年かすれば、若者にも症状が現れるでしょう。
もしかしたら若い世代では、免疫が作られるかもしれませんが……運頼みでいくわけにもいきません」
「ってことは、今私たちが食べてる食事もヤバイってことか?」
コロネに聞けば、
「初日は申し訳ありませんが、そうなります。
今現在猫様達に出している食事はエルフ領から取り寄せたものです。安心してください」
「あー、うん。にしても思ってた以上にやばい状態だなこれは」
最初に魔石を入れる事を提案したプレイヤーは「知識チートで俺sugeeeee」くらいの気持ちだったのだろうが……。
毒があるかどうかなんて何年後にならないとわからない場合もあるわけで。
結局は現地の人に迷惑をかけている事になっている。
「そうですね。今現在、魔石に汚染されていない農地にできそうな土地を手配する準備と……」
言いながらコロネがうつらうつらとしだす。
どうやら三日も徹夜だったためかなり疲労が蓄積されているらしい。
「ああ、ごめん。そろそろ寝るなら寝たほうがいいぞ」
私が言えば、コロネは無理矢理微笑んで
「……ああ、申し訳ありません。
では、お言葉に甘えて……」
と、何故かテーブルにつっぷしてそのままそこで寝てしまうのだった。
うん。眠かったのに引き止めてしまってとても申し訳ない。










