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85話 自業自得

「さて――残り三人はどうしたものか」


 私はいまだ王城のバルコニーで、おしゃべりに興じてる三人を城の屋根から見下ろしながら、考えた。

 コロネは一応戻ってきたが――あれから口数少なく、あまり話したくなさそうなので話しかけにくいし。

 この三人は消極的に参加は多少していたが積極的にはリンチに参加していなかった。

 最初にちょっと殴るのに参加した程度で拷問が本格的になると逃げるようにいなくなったのだ。



 それに……なんとなくレオンの件で、気が削がれたというか何というか。

 主犯格二人をボコナグリにしたのでどうでもよくなったというか。


「猫様、様子がおかしいようですが……何かありましたか?」


 口数少なくなって帰ってきた私たちを心配したのか、アルファーが私の耳元で囁く。


「うーん。まぁ、いろいろと……アルファーそういえば一つ聞いていいか?」


「はい。私で答えられる事でしたら。何なりと」


「マナフェアス制裁くわえてどんな気持ちだった?」


 私の問いにアルファーは一瞬言葉をつまらせ


「……そうですね。虚しい気持ちもありましたが……気持ちに区切りはついたと思います」


「多少気は晴れたか?」


「はい」


 私の問いにアルファーは力強くうなづく。


「うん。ならよかった」


 言って私はチラリと、別の位置の屋根でリリと腰掛けプレイヤーを監視しているコロネの方に向ける。

 願わくばコロネも多少でも気が晴れてくれてたのなら嬉しいけど。


 まぁ、悩んでもなにか事態が好転するわけでもない。

 やれることをやっちゃいましょうか。


「んじゃ、いっちょ、残りの連中も捕まえてマケドニア帝国を解放しますか!」


 私は威勢よく立ち上がるのだった。



 △▲△▲△▲△▲△▲


「いま、ここに、宣言しましょう――マケドニア帝国は悪しきプレイヤーより解放されました」


 大きなスクリーンに、宮廷魔術師時代のやたら豪華そうな格好をしたコロネの姿が映り――集まった市民や兵士にプレイヤーから解放されたその事実をコロネが告げる。

 一斉に沸き起こる歓声に、国中が包まれた。


 結局あのあと、残りの3人もとっ捕まえた。

 もっと国が混乱するのかと思っていたが、コロネが最初から用意していた、スパイが国の重鎮に何人か紛れ込んで居ため、あっさりと国の内政すら掌握してしまった。


 本当は私にスクリーンで演説してほしいと頼まれたが、私が断固として拒否したため、元宮廷魔術師のコロネが演説することに。

 うん。まじ勘弁してください。

 読書感想文が何故か学校代表に選ばれてしまい、全校生徒に披露することになったとき、ガッチガッチで声が上ずってしまった私が、演説とか無理ゲーです。


 笑顔と歓声のわきあがる国内を見渡しながら――とりあえずよかったなと、私は城壁の上からつぶやくのだった。



 △▲△▲△▲△▲△▲


「いま、私の密偵がテオドールの子孫をこちらに連れてきています。

 彼らに交代できるまでは、しばらく内政は私が行いたいと思います」


 演説が終わり、一息ついた所で、コロネが私に説明した。


「うん。それは問題ないけど……他の国はプレイヤー放置しておいて大丈夫なのか?」


「あと5名のプレイヤーですが、しばらく様子見で構わないかと。

 あまり外の世界に興味がないといいましょうか……自分の国で満足してしまっているタイプなので。

 急に国民に危害を与えるタイプのプレイヤーではありません。

 まぁ、彼らの性癖に付き合わされる事になっている方々には同情しますが……。

 一番領土の広いこの地と旧ヴァナウス王国の地区を安定するほうが後のためになると思います。

 今回はプレイヤーという解りやすい諸悪の根源がいましたが、もし利権をめぐって、この世界の住人同士で王位継承争いなどおきてしまえば、かえって収拾がつかなくなります」


 と、コロネ。

 うん。そうだよね。

 私の世界でも戦争後の後処理がまずくて、結局独裁政治を倒したあとの方が国の治安が悪くなった国とかあるし。

 悪い奴を倒した!やったー!解放!✩平和✩というほど世の中甘くはないのだろう。


「それに、プレイヤーから解放した後の、国を廻すための人材がいないという問題もあります。

 私の手持ちの人材はすでに旧ヴァナウス王国の守護天使二人の手伝いに行かせてしまいましたし、帝国もこれ以上人材を減らすわけにはいきません。


 もし、他国で問題がありそうな場合、密偵から連絡がすぐ来る手はずになっていますので、連絡があり次第すぐに向かいます」


「うん。わかった。そこは任せるよ」


「ありがとうございます。それでは私は仕事がありますので」


 言って真面目な顔をしたまま立ち去ろうとする。

 

「なぁ、コロネ」


「……はい?」


「その、無理はするなよ?」


 私が言えばコロネは目を細めて「はい」と微笑むのだった。


 △▲△▲△▲△▲△▲


「――にしても、これどうしようかなぁ」


 一人腕輪を眺めながら寝っ転がっていると、


「ネコ、それなぁに?」


 と、私の隣でお菓子をもぐもぐ食べながらリリが尋ねた。


 結局あのあと、コロネとは別れ、王宮内の用意されたやたら豪華な部屋でリリと一緒にまったり中なのだが。


「うーーん。コロネのリンチされてた時の記憶と痛みを味わうことになる魔道具の腕輪だったんだけど……。

 あの二人に装備させそびれちゃったっていうか……コロネに本当に使っていいか聞きにくいっていうか」


「だねー。コロネ話すのも嫌そう」


「とりあえず保留にしておこうか」


 言って私は腕輪をアイテムボックスにしまいこむ。


 そう、コロネが言っていたがマナフェアスにせよレオンにせよ彼らの未来は、ろくなものじゃないらしい。

 彼ら自身がいままでやってきた方法で恐らく――守護天使達にそれなりのリンチをされた後、死刑になるだろうと。

 そうでなければ、民衆の怒りが収まらないからだ。

 新しい王を認めさせるために必要な過程らしい。

 わりと、兵士やら国民やらには優しい世界観だが、敗戦国の国王や支配階級は元から容赦なく殺してしまう世界だったとか。

 皮肉なもので、いままでリンチなどの習慣のなかったこの世界の住人に、リンチを教えてしまった彼ら自身が、その惨たらしい方法で殺される事になるのだ。

 自業自得だろう。


 もちろん、それで殺されたプレイヤー連中を生き返らせるつもりなどこれっぽっちもない。

 いままで、死んでも生き返らせてたのは、民衆の前でリンチされるという、大事な仕事があるからにすぎないのだ。



 私だって別に聖人じゃないし。


 むしろ、ざまぁみろとすら思ってしまう。

 流石にリンチ現場を見に行く勇気はないけれど。

 法で裁かれるなら日本でだって同じなはずだ。


 ……うん。本当にその考え方でいいのかと問われれば、正直自信はないのだけれど。





 自分は力に溺れないでやっていけるといいな。




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