84話 正義の味方
私とコロネが瞬間移動を駆使して、リリと合流したのはリリがレオンの首を刎ねているその瞬間だった。
リリがレオンの首を刎ね、その様子を村人の女性が無言で見つめてるというわけのわからない状態の所に、私とコロネは降り立った。
村人の女性は目の前で首を刎ねられる所を目撃したせいだろうか――その場で卒倒し、コロネに支えられる。
結局あのあと、私たちは二手に別れ、一番人を殺しそうな危険のあるレオンとマリアベルにターゲットを絞って行動したのだ。
コロネを執拗に拷問していたのも主にこの二人だったし。
私とコロネはマリアベルを。リリはレオンを追った。
アルファーには未だ王城で何やら会議を続行している他三人を見張らせている。
私とコロネがマリアベルを捕まえて、リリを追ってみればこういった光景だったわけで。
「あ、ネコ、コロネ!
悪い奴倒した!」
と、ニッコニコ顔でリリが私に寄ってくる。
「いや、倒したはいいけど殺したらダメだろ。人間に裁かせるって約束だったじゃないか
コロネが到着しなかったらそのまま死んでたろう?」
と、私が眉根を寄せると、リリはくいっとプレイヤーの方に振り返り
「大丈夫。あのプレイヤー、リリが前もらった100%生き返る指輪してる。
一回くらい殺しても バチあたらない」
リリのセリフで、注意をレオンの方に向けてみれば、確かに飛んだはずの首が、ずりずりと移動し再び死体にくっつこうとしている。
うわー、どこかのホラー映画よりグロテスクなんっすけど。
にしても、やっぱりリリちゃん人殺しに躊躇ないよね。
まぁ、元々、種族的には竜族だし、私が魔物を殺すのと同じ感覚なのだろう。
私も容赦なくドラゴン種を殺しているので、責めるのは何か違う気がするからあえて何も言わないけれど。
「何と申し上げていいのか……、ネコ様もリリ様も、私のために怒ってくださるのは嬉しいのですが……。
何もここまでしていただかなくても」
コロネが私とリリを見比べてやれやれといった感じでため息をつく。
どうやら、マリアベルのとき、私が執事のふりをして殴られた事をいまだに気にしているらしい。
レベル差ありすぎて、全然痛くなかったんだけどね。演技で痛いふりしたけど。
にしても……。何故か拷問された本人が一番冷静っておかしくない?
「コロネはもうちょっと怒っていいと思うんだけどな。
なんだか聖人君子すぎるっていうか。
復讐をノッリノリでしてたこちらとしては立場がないんだが」
と、私はちょっと不貞腐れた。
なんだか本人が望んでない復讐しちゃったのかなと、後悔する。
「怒っていないわけではないのですが……。
そうですね。気分が晴れなかったといえば嘘になります。
けれどお二人にそこまでさせてしまうのも、年長者としてどうかと思うわけでして」
困ったよな表情でコロネが説明し……
そこで、レオンが復活した。リリがそれを確認し、再び爪を構えると、レオンはひぃっと悲鳴をあげ――
「た、助けてくれっ!!あんた正義の味方なんだろ!!」
と、何故かコロネに助けを求め始めた。
うん。なんでよりによって拷問したコロネに助けを求めるかな。
人質のために命を投げ出したから正義の味方とでも勘違いされたのだろうか。
私の怒りゲージがマッハでマックスになる音がするが、レオンはそんな事関係なしにコロネにすがりつこうとする。
「コロネ。どいて。
まだそいつ指輪残ってる。
リリもう一回殺しておく」
リリが言い、コロネにすがりつこうとする、レオンに手をだそうとして……
ザシュ。
コロネの放った魔法がレオンの右腕をえぐりとった。
「……え?……」
一瞬何がおきたのか分からずに、場が固まった。
「……意味が分かりませんね。
あのような事をした相手に何故助けを求めるのでしょうか?」
言って、コロネが再び右手に魔力をため、レオンを睨む。
コロネが今まで見せた事のない、怒りの表情に、私もリリも手出しできずにただ固まった。
しかし空気などまったく読めないレオンが必死に叫ぶ。
「だ、だって人を殺すのはよくないことだろ!?
あんたもそういうタイプの人間じゃないのっ!?」
その言葉と同時に、今度は右足がえぐり取られた。
レオンの右腕と右足は、血が出ることもなく、綺麗にもぎ取られたのだ。
そういう類の魔法なのか、腕や足がとられてもレオンが痛みを訴えないところを見ると痛みは感じない呪文らしい。
「……一体何を勘違いしているんですか貴方は。
私は別に正義の味方でも、人を殺すのを躊躇するほどの聖人でもありません」
苛立ちを隠せないといった感じで軽く舌打ちをしたあと、何の迷いもなく呪文で左手をえぐりとった。
「ちょっ!!や、やめてくれっ!!」
叫ぶレオン。
コロネは手と足を失って倒れる事しかできないレオンの顔をそのまま踏み潰すと
「やめてくれ?よくその口でその言葉が吐けますね?
ああ、五月蝿い口は喉を焼き潰せばいいのでしたね?
確か貴方が私にしてくれたことでした。
喉を体中から焼かれるというのはなかなかどうして。
想像を絶する痛みでした。あなたも一度味わってみてはいかがでしょうか?」
言って、残忍な笑を浮かべ、コロネは指輪を向け――紡がれた魔法と共にレオンの右目が焼かれる。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
物凄い絶叫をあげながら、金髪ショタのレオンはのたうちまわった。
「ああ……すみません。手元が狂いました。
次も手元が狂うかもしれませんね?
次はどこでしょう?左目ですか?右耳ですか?それとも左耳でしょうか?」
のたうち廻るレオンをぐりぐりと踏みつけながらコロネが魔力をこめ、問う。
私はこのやり取りを知っていた。言い回しは違うがコロネがレオンに言われたセリフそのままなのだ。
「や、やめてくれっ!!」
レオンの言葉にコロネが苛立ちながら舌打ちをし、今度は左目を魔法で燃やす。
「黙りなさいっ!!
貴方がやったことに比べればこの程度些細なものでしょうっ!?
ああ、それとも足りませんか?
そうですね死んでしまわないように一度回復させてあげるべきでしょうか?
それとも一度殺してから復活させてあげるべきでしょうか?」
コロネの言葉にレオンが物凄く怯えた表情になる。
その顔を見たコロネが更に表情を強ばらせた。
片手で頭をかきむしり、まるで自分を落ち着かせようとするかのように大きく息を吐く。
が、やはり怒りを抑えられないようで、レオンを睨みつけた。
「ああ、意味が分かりません……!!
何なんですか、これはっ……!!
貴方は一体どれだけ人を馬鹿にすれば気がすむのですかっっ!!」
言ってコロネはどうしようもない怒りを、ぶつけるかのように大地に蹴りをいれ、そのままレオンを石化させるのだった。
△▲△▲△▲△▲△▲
ガシッガシッ!!
既に石化してしまったレオンをひたすら蹴り続ける音が辺に響く。
私とリリは無言で石化レオンに蹴りをいれるコロネになんと声をかけていいか分からず、その様子を視ている他なかった。
無言で蹴り続けるコロネのブーツからはうっすらと血が滲み出す。
「……コロネ。もうやめておけ。足から血が」
私が肩に手を置き止めに入ると、コロネははっとした表情になり
「すみません、お見苦しい所をお見せしてしまいました」
言って無理やりいつもの笑顔をつくってみせようとする。
が、今にも泣きそうな顔までは隠せていなかった。
あの、コロネがである。
その姿が妙に痛いたしくて、ついコロネを抱きしめる。
一瞬身体がぴくりとするが、特に抵抗することなく、コロネはそのまま私の胸に顔をうずめた。
おそらく顔を上げることはできなかったのだろう。
「……猫様……リリ様……。
すみません。少しだけ……一人にしてもらえないでしょうか」
顔を上げずにコロネが言う。その声も身体も少し震えている。
「……えっと」
リリが何と答えていいのか分からず、私の方に助けを求めるかのように視線を向けた。
「……分かった。でもレオンの石像は貰っていくから」
「はい……すみません」
言ってコロネは瞬間移動で、どこかへ消えた。
一応魔力探知でコロネがそう遠くへは行ってない事を確認し、私はレオンをアイテムボックスに回収する。
「コロネ、大丈夫かな?」
リリがコロネが飛んでいった方を心配そうに目で追っていた。
「うん。大丈夫だよきっと」
言ってリリの頭を撫でてやる。
正直、かえってコロネにとっては酷な事をしてしまったのではないかとさえ思う。
復讐して本当に気が晴れるものなのか……正直分からない。
気にしてない素振りを見せていたコロネがあれだけ感情露になるほど、憎悪の気持ちは根深かったわけで……。
その気持ちをコロネに改めて呼び起こさせてしまっただけなのではないかと、正直後悔した。
もし、あそこでレオンが助けを求めたのが、私だったら、コロネもあれほど激昂することはなかったのかもしれない。
結局、レオンは正義の味方は嫌いなどと言っておきながら、漫画やアニメの正義の味方像に夢見ていたのだろう。
どんな悪いことをしても……結局はその優しさで許してしまう、そんないい人キャラを。
それをコロネに求めてしまった。
そしてアニメや漫画の正義の味方キャラなど知らないコロネにとっては、レオンの行動は意味不明でしかなかっただろう。
あの場にコロネしかいないのなら、コロネも、それほど驚かなかっただろう。
しかし、あの場には私もいたにも関わらず、助けを求めたのが拷問したはずのコロネだったのだ。
結果、コロネの怒りに火をつけてしまった。最悪の形で。
「コロネなら大丈夫だから……」
リリに言う、その言葉は本当は自分に言い聞かせるための言葉だったのかもしれない。










