74話 プレイヤーsion
「――ふぅ」
石化した二人の守護天使を見つめ、私はため息をついた。
なんとか飛び出してきたプレイヤーに気を取られた男守護天使と女守護天使を軽くいなし、石化させた。
天使の状態以上無効時間も一定時間らしい。
それにしても――最後男守護天使のアルファーが言ったあのセリフ。
―― 我らには選択する権利などない ――
確かに、彼の言うとおりだ。
ゲーム通りならマスターの命令は絶対で……彼らに逆らう権利などないのだろう。
それなのに、諦めろとか言われれば、怒りたくなる気持ちもわかる。
かなり無神経なセリフだった。
それにだ。
ザンダグロムだってそうだ。
彼女がロボット型だったので違和感なくマスター変更してしまったが、彼女にだって意志はあったろう。
ちゃんと本人の了承をえてすべきだった。
何だかんだ言って、知らないうちに傲慢になっていたのかもしれない。あまり他のプレイヤーの事を言えないのかもしれないかも。
などと、私は考えつつ、チラリと後ろに視線を向ける。
先ほどレイスリーネを止めたプレイヤーだ。
私が鑑定してみれば
***
職業:テイマー・錬金術師
種族:エルフ
レベル:200
名前:sion
ギルド:まったりスローライフ
***
と、でる。
彼が3人目のレベル200キャラで間違いないだろう。茶髪のわりと好青年っぽいキャラだ。
それにしてもである。
「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、何故か今だ土下座している。
「えーっと、君、私の事知ってるのか?」
私がsionに尋ねる。
「ひぃっ、よ、呼び捨てにして申し訳ありませんでしたっ!!
かつて猫様が参加したPVPに参加したことがありまして!!
ほ、ほら、猫様があまりにも強すぎて、以後『瞬間移動』と『罠』のスキル使用禁止がPVPで主流になったあのPVPですよ!
その時にPVPに参加してて猫様にぼこ殴りにされた名もなきテイマーです!!」
と、地面に頭が埋まるんじゃないかというほど土下座を深くする。
……うん。
なんとなーくそんな感じがしてたんだけど……。
PVPで瞬間移動と罠が使用禁止になったのってやっぱり私のせいだったのかぁぁぁぁぁ!!
改めていわれるとショックだわ。
や、ほらさ。私が強かったっていうよか罠スキルがえげつなさすぎたっていうか。
土魔法で一瞬で魔方陣をかきあげるとかいう芸当をできる人がその時は私しかいなかったせいで、皆初見だったため、誰も対策をしていなかった。
結果無双し放題だったのだ。
まぁ、ネトゲ時代のPVPはある程度練習して強くなってから参加するもの!
という思い込みから、全てのジョブの技・魔法・スキルを把握し、クールタイム時間と長所・短所をすべて頭に叩き込み、同盟ギルドの暁の騎士団のみんなと練習しまくって参加したってのも大きい。
後になって知ったのだが、私達と仲良くしているギルド『暁の騎士団』の皆もわりとガチ廃人認定されていてPVPに参加すると無双していたらしいのだが……。
これはリリとコロネには内緒にしておこう。
ばれたらまた何を言われるかわかったもんじゃない。
どうあがいても廃人認定はもう免れようもないけどね!
まぁ、それはともかく。問題は彼だ。
彼の所属ギルドは『まったりスローライフ』先ほどの守護天使達の所属ギルドは『✝暗黒の翼✝』と、所属ギルドが違う。
そして、守護天使達はレベルが204なのに、sionのレベルは200だ。
つまるところ、sionはこの守護天使達のマスターではない。
アルファーやレイスリーネに指示をだしたのは別人ということになる。
……なのに何故一緒にいるんだろう?
私が改めて彼をみやれば、なぜかsionはガクブルと震え出すのだった。
うん。何故だし。失礼な。
△▲△
〜sion視点〜
なんでこんな事になったんだろう?
sionはガクブル震えながら、土下座していた。
目の前には、プレイヤー間で黒い悪魔の異名で呼ばれた猫まっしぐらの姿がある。
元々アテナサーバー出身で、レイド戦も廃人ギルドと名高い暁の騎士団の6人と行動している事が多いらしく、あまり表舞台にでてくることがない。
その為運営が開催したガイアサーバとアテナサーバー合同で戦えるPVP戦で鬼無双したことから、アテナサーバーの「黒い悪魔」呼ばわりされていたのだ。
もちろんPVP戦で物凄い人数をKILLしたため、ヤッカミもあってか、掲示板では物凄く叩かれた。
半分以上は殺された腹いせに書いた中傷なので信じる事はできないが、全て嘘ではないはずだ。
性格がよくないとの書き込みも見たことがある。
もし掲示板の通りなら、この男、物凄く沸点が低くて性格が悪いはずだ。
自分は本当に運がない。
そもそもゲームの世界に来てしまった事すら信じられないのに、ゲームの世界に間違って召喚された途端、掲示板で痛い奴と噂されていたマナフェアスに捕まりこき使われ。
テイムボックスにモンスターを入れて、守護天使達と砦を落としてこいと放りだされたら、今度は猫まっしぐらとの遭遇である。
なぜ自分はこうも運がないのだろう。
今度こそ殺されてしまうかもしれない。
sionが勝手に死ぬ覚悟を決めたとき
「あー、とにかくさ。土下座とかしなくても大丈夫だから、話を聞かせてくれないか?」
と、猫まっしぐらがぽりぽりと頬をかきながら手を差し出すのだった。










