57話 ハッタリ
「師匠にリリ様!!」
リュートが叫ぶ。無理もない。二人ともかなりボロボロなのだ。
そりゃそうだ。国王陛下達を守りつつ、自分よりレベル100overの魔族を相手にしろとか無理ゲーすぎる。
むしろ今まで生きていただけでも凄い事だろう。
くそっ!!なんとか二人の元に戻らないと!!
慌ててコロネ達との念話を試みるも、どういうわけか通じない。
その間にも戦闘は続き、リリもコロネもレベル差があるにも関わらず、善戦しているように見えるが、如何せん、レベル差でダメージを与えることができない。
避けるだけで手一杯なのだ。
「がはっ!???」
コロネが魔族の魔法攻撃をくらい盛大に吹っ飛んだ。
防御系の魔法を使っていたらしく致命傷はまぬがれたが、それでも結構なダメージらしく、コロネの口から血が溢れ出す。
完全防御の魔法もクールタイムがあるため、そう連発できないのだ。
「コロネッ!!」
リリが叫び、コロネの前に守るように立つが、それでも戦局が不利なのには間違いない。
魔族と戦った時にコロネが負った傷のせいだろうか。
ところどころに大量の血のあとが散らばっており、妙に痛々しい。
「さあ、いい加減諦めたらどうだ。
ここまで戦ったのは褒めてやろう。
だがお前たちの攻撃が私に効かない以上、お前たちに勝ち目はない」
魔族がニヤリとコロネに対して悪質な笑を浮かべるが
「……諦める?
貴方は何を勘違いしているんですか。
追い込まれたのは私達ではありません、貴方ですよ?」
自らの傷を魔法で回復しつつ、コロネが笑う。
コロネが覚えている魔法は本当に初期の回復魔法のはず。
あの大怪我では慰め程度にしかならないだろう。
「何を戯言を。
いい加減うっとおしい」
魔族が手に光をともしたその瞬間。
「クランベール今ですっ!!!!」
一緒に来て国王陛下の一団を守るように立つクランベールにコロネが大声で叫んだ。
「なっ!??」
「へっ!???」
と、魔族が驚きクランベールの方へと視線を向ければ……当のクランベールも何事か!?という顔をしている。
「たばかったなっ!?」
魔族もコロネの意図を悟って慌てて視線を戻せば
「ええ、おかげで完成しました。
貴方達がやった方法と同じですよ!」
言ってコロネの土魔法が、血を起点に魔方陣を描きはじめる。
「まさか!?ワザとダメージをくらって血で起点を描いていたというのか!?」
魔族ジルが驚きの声をあげ――
コロネが張った巨大な魔方陣が光り輝きはじめる。
「さぁ!!リリ様!!
これでレベル補正は無効になりました!!
魔族にダメージが通るはずです!!」
と、大声で叫ぶコロネ。
「まさか!???そんな魔方陣が存在するなどと聞いたことがない!!
私を騙そうなどとそんなことが!!」
魔族は叫びつつ、リリの鍵爪の攻撃を避け――
ザシュ!!
避けた先で、コロネの魔法が頬をかすめ、つぅーっとジルの頬から黒い血が流れ落ちる。
「ま……さか本当にそんな魔方陣が!?」
と、驚きの声をあげた。
そう――魔族はここで信じてしまった。
コロネの魔法が魔族にダメージをはじめて与えたことで。
レベル補正が無効になる魔方陣があるなどという嘘を。
ぶっちゃけ、ネタを知っている私だから気づいたのだが……。
コロネは戦闘中、レベル補正が無視できる魔法が、私があげた呪文書の中にあったにも関わらず一度も使っていなかった。
おかしいなと思いながら見ていたが、どうやらそれは作戦だったらしい。
魔族にレベル補正が効かなくなる魔方陣があると信じ込ませるための。
あの王宮の中が精神世界化しているというのをコロネは逆手にとったのだ。
魔族がレベル補正が無効化していると信じ込めば、本当にダメージが通るようになる。
だから魔族にレベル補正が無効化していると信じ込ませるために、わざとこのタイミングまでダメージの通る魔法を使わなかった。
コロネの話ではレベル補正が無視できる魔法はこちらの世界には存在しないらしいのだ。
そして命からがら苦戦を演じたのも、コロネたちには攻撃手段がないと思い込ませるため。
命が危険な状態でも攻撃してこなかったのだから、攻撃が効く魔法などないと思い込んでしまったのだ。
これが、苦戦せず、最初からあの演技をしていたら、魔族も信じなかったかもしれない。
レベル補正の効かない魔法は高火力の魔法はないため、その魔法では魔族を倒せないと踏んで一かバチかの掛けにでたのだろう。
そして、コロネはそのカケに勝ったのだ。
リリの鍵爪がそのまま魔族を襲い、確実にダメージを与えていく。
予想外の事に動揺しまくっている魔族はリリの攻撃をかわすことで手一杯。
そして長い詠唱を終え――コロネの魔法は完成した。
『聖光神降臨!!』
コロネの対魔族魔法が、魔族ジルをその場から消滅させるのだった。
▲△▲
「……嘘よ……そんなレベル補正を無効化する魔方陣なんて聞いたことが……」
マーニャが滅びたジルの姿に呆然とした声をあげ
「まさか知らなかった?
上位のプレイヤーなら知ってて当然の知識なんだけど?」
と、私がハッタリをかます。
「なっ!?」
マーニャの声に焦りの色がうまれた。
「ついでに、私もいま完成したから。
貴方が姿を表す魔方陣。
あんたが外の様子に夢中になってる間にね!」
「嘘よ!?そんな魔方陣があるわけ!?」
「あるかないか!!試してみればわかるはず!!」
言って、思いっきり勝ち誇った顔をしてみせる。
ハッタリだけなら私だって得意技だ!たぶん!
「いでよっ!!暗闇より暗きものに慈愛なる光をっ!!
そしてその姿を我の前に浮かび上がらせろっ!!!」
言って、私が微笑み、光の魔法で魔方陣を描き発動させたその瞬間。
ぱぁぁぁぁぁあ!!とマーニャの姿が魔法陣の中に浮かび上がる。
おっしゃぁぁぁぁ!!ハッタリにひっかっかったぁぁぁぁぁ!!
アホな子で助かったぁぁぁぁ!!
精神世界では信じてしまえば嘘でも誠になってしまう。
魔族が利用しまくっていたその特性を今度はこっちが利用させてもらったのだ。
マーニャがハッタリを信じてくれたおかげでこっちも姿を表してくれたらしい。
普通に考えれば、そんな魔方陣があるならとっとと使っていたと考えるはずだが、ジルがやられたことで、動揺してたのだろう。
マーニャはあっさりひっかっかった。
「嘘よ……そんな……」
怯えた表情でこちらを見る魔族に私はにぃっと微笑む。
ああ、こいつだけは絶対、絶対許さない。
人の古傷をえぐりやがって。
ついでにリュートの分もくらってもらおう!!
「滅槍冥王派!!」
私の最大火力の技が容赦なく魔族女を滅するのだった。










