56話 自分の中の限界
ちょっ!?やばっ!!
つい、幻がコロネだったため無意識に安心してしまい、反応が遅れたが、私はコロネの幻を切り刻み、落ちかけたリュート王子の手をとった
「リュート!!大丈夫!?」
私が問えば、子リュートは目にいっぱいの涙をためて
「なんで……なんで皆、僕を責めるの?
悪いことをしたのは母様だよ?……僕何もしてないのに……」
先ほどまで少年だったリュートがさらに幼くなっている。
「何で僕何もしてないのに怒られるの?ねぇ、何で?
もうやだよ…僕もうヤダっ!!」
ボロボロ泣く幼い王子。
「もういい!!僕ここから落ちてもいい!!」
バタバタと足を振って私を振りほどこうとするリュート。
ああ!?子供かっ!!って子供でしたそうでした。
「じゃあ、何でさっきコロネの手を取ろうとしたの?」
私が聞けば、リュートは押し黙る。
「死にたくないと思ったからじゃないの?まだ生きたいと願ったからだよね?
貴方はコロネに引き取られ、大きくなって、クランベールとかにも好かれて!
今立派にやっていけている!
これは幻、貴方を精神世界に閉じ込めるための!!」
私が言った途端――再び景色が変わり、今度はゾンビのように血を流した人がリュートに向かって押し寄せてくる。
その中には先ほど、リュートの陰口を叩いていたエルフや、セズベルク、そして見知らぬ偉そうな衣装をきたエルフ達。
ついでになぜかコロネやクランベール達の姿まである。
それらがリュートに襲いかかってきたのだ。
「ほらやっぱり!!僕はみんなに嫌われてるんだっ!!放っておいて!!」
ああ、もうっ!!面倒だなっ!!
しゃがみこんでしまう子リュートを私はそのまま抱き上げて、走り出す。
「リュート!?いい加減目を覚まさなきゃ!!
これはあなたが勝手に生み出した幻影!!
てかなんで、命懸けで守ったコロネや忠誠度マックスのクランベールまであの中に含めるかな!!
貴方は立派な大人になってコロネを師匠って呼んでるんだからっ!!
貴方は一体何に怯えてるしっ!!」
私が言えば、幼いリュートがびくっとなる。
……うん。子供を虐めているようで心が痛むが、もうリュートは大人なのだ。
そうだよ。大人だよ。幼児虐待じゃないはずだ。
こいつらを倒すのは簡単だ。
でも倒しただけじゃダメなのだ。
リュートがこの世界が幻だと認識してくれないといつまでたっても出られない。
私はコロネの精神防御の魔道具があったおかげで、意識を保っていられたが、精神防御の魔道具のないリュートはそのまま魂まで幼くなっている。
カンでしかないが、おそらく、リュートが自分が幻を見ていると認識しなければ延々とこのこういった幻を見せられるのだろう。
「じゃぁ、何で皆僕の事責めるの!?
母様がしたことで何で僕が虐められるの!??」
私に担がれたまま、リュートが悲鳴に近い声で叫ぶ。
「だからなんで責めてくる連中ばっか見てるわけ!?
クランベールも馬鹿みたいに貴方を慕ってるし、コロネだって貴方の事を大事にしてるのは見てわかる!!
貴方が見なきゃいけない相手は違うでしょ!?
虐めてくる連中なんか放っておけばいい!!
慕ってくれて大事にしてくれる方を見なきゃ意味ないじゃない!!
人間……じゃなくてエルフ全部に好かれるとか絶対無理なんだから!」
いつまでも母親の呪縛から逃れられないのはあなた自身!!
貴方が思うほど、貴方を大事に思ってくれる人は気にしてないからっ!!」
私が言えば子リュートが泣きそうになる。
うああああ。子供虐めてるみたいで心が超痛むのですけれど!?
「あーーー!!
わかった!!こうしよう!!
リュートを虐める連中は私が全員責任もってぶっ飛ばす!!!
それなら虐めてくる人はいない!これで全部解決!!万事オッケーー!!
これでもう文句ないはずだよねっ!?」
言って、私は逃げていた足を止め立ち止まる。
「え……?」
追いかけてくるコロネ達が迫る中
「無理だよ!お姉さん、女の人だから出来る訳がっ!!」
「だーーかーーら!!
勝手に自分の中で限界を決めるなし!!」
言って、そのまま、鎌を取り出すと左肩にリュートを担いだまま、私は鎌を構えた。
「見てなさいっ!リュート!!
あんたを虐めてくる連中は、私が責任もってぶっ飛ばしてあげるからっ!!」
叫びながら、私は死神のスキルで、リュートに迫ってくる幻の一団を全員薙ぎ払うのだった。
▲△▲
「あーあ。また幻術敗れちゃった」
幻術もろとも鎌で切り裂き、リュートとともに再び白い空間に戻れば、再びマーニャの声が聞こえてくる。
どうやら、リュートは幻に打ち勝ったらしい。
マーニャは相変わらず声だけで姿は見えない。
こいつはやっぱり姿を表す気はないらしい。
というか、きっと幻術が破られるようが、破られまいがどうでもいいのだろう。
どうせ私たちは外にでられないのだから。
ああ、ムカツク。
リュートが見せられた幻術の内容からして一度絶望から救っておいて、また絶望に突き落とすという類の幻だったのだろう。
私もきっとあのまま夢の中にいれば、絶望的な状況に追い込まれたはずだ。
だからこそ、この女絶対許せない。人の心を弄びやがって。
しかもよりによって、私の両親と兄の姿を使った事が何よりも許せない。
「う……くっ……ここは」
リュートが頭を抱えながら、目を覚ます。
「大丈夫?リュート王子」
私が聞けば、リュート王子は一瞬キョトントし
「……はい、猫様……ですよね?助けてくださりありがとうございました。
それにしてもここは……?」
何がおこったのかすらわからない様子のリュートが頭を抑えながらキョロキョロと辺を見回していた。
「魔族に精神世界に二人で引き込まれた。
今も敵中のど真ん中にいるから油断しないで。リュート立てそう?」
私が言えば、リュートが頷きそのまま立ち上がる。
「はぁい。私の精神世界へようこそ王子様。
もう幻術見せる力もないから、二人にはこっちの景色でもみててもらおうかしら?
お仲間が無残に殺されるショーよ。なかなか楽しめると思うわよ?」
軽い口調でマーニャが言い、今度は外の様子がスクリーンのように大きく映し出された。
そこではボロボロとなったリリとコロネが魔族と戦っている様子が映しだされているのだった。










