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54話 家族


 気が付けば――白い空間に浮いていた。


 隣には気を失った状態のリュート王子がぷかぷかと浮いている。


 ああ――前にコロネときたことがある。精神世界だ。

 コロネが念のためと精神世界の防御用の腕輪を作ってくれていたので、意識を乗っ取られることはないはずだけど――。


『ネコ!?大丈夫!?』


『猫様っ!!』


 リリとコロネの声が念話で聞こえてくる。

 どうやら念話はそのまま通じてくれるらしい。


『なんとか、大丈夫。それよりもリリ、自分をここからだせそう?』


 精神世界なので女の姿に戻ってしまった私が問うた瞬間。

 リリとコロネの思考だろうか。外の様子がダイレクトに脳の中に入ってくる。


 魔族ジルがリリとコロネの前に立ちふさがっているのだ。

 ああ!?ヤバイ!?

 あの二人はレベル800だ。

 ジルにダメージを与えられない!!早く精神世界からでなきゃ!!


『リリっ!!はやく私達を外に!!』


『ダメっ!!誰かが邪魔してて、ネコひっぱれない!!』


 リリが悲鳴に近い声をあげ――


「無理だ。もうあのプレイヤーはこちらの世界には戻れない」


 外の世界で魔族ジルが、リリとコロネに無情な事実を告げる。

 ってか、いやいやいや。信じちゃだめだ。

 ここは精神世界。信じたら本当になちゃうし。


「まさかそんな戯言を信じるとでも?」


 コロネが問えば、魔族ジルがニヤリと笑って


「ではなぜ、そのホワイトドラゴンは、さっさとあのプレイヤーを連れ戻さない。

 戻せなかったのではないか?」


 魔族の言葉にリリがぴくりとなる。


「リリ様。魔族の言うことを信じてはいけません。ここも精神世界化しかけています、信じればそのようになってしまいます」


 コロネが言うが


「でもっ!!魔族が言う前に、リリ、ネコ引っ張れなかった!!」


「当たり前だ。マーニャが生きている限りあそこからはでられない。

 外から連れ戻す事は不可能だ。

 あのプレイヤーは永遠に精神世界で苦しむ事になる。

 見たくもない過去を永遠と繰り返されるのだ」


 ジルが言ったその瞬間。

 ふと、私は気配を感じ振り返る。


 そこには――水ぶくれで変わり果てた姿の、両親と兄が、立っているのだった。



▲△▲



 ああ――よくあるやつだ。

 漫画とかアニメで。

 幸せだった頃に戻れて、でもそれは全部幻で。

 最終的には一番見たくなかった、両親の死と兄の死を見せつけられる。


 アニメや漫画でありきたりなそのシーン。


 私は今、その中にいた。


 見渡せば、そこは昔私が暮らしていた家で。

 気が付けば、私は高校生だったときに戻り、両親と兄と、幸せに暮らしていた時に戻っている。


「楓、何やってるの?朝ごはん食べなきゃ遅れるわよ?」


 母がにこやかに微笑みながら、温かいわかめスープを差し出した。

 食卓の上には、私が大好きだった母のスクランブルエッグや母特製のドレッシングのサラダ。

 焼きたてのパンが置いてある。

 母の死後、一生懸命味を再現しようとしても食べられなかった母特製のドレッシング。

 一生懸命マネしようとしても作れなかった母のパン。

 それが今目の前にあった。


「母さん、俺のネクタイ知らない?」


 と、兄がスーツ姿でうろうろと私の後ろを通り。

 父はのんびりとコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。


 大好きだった家族。もう会えることのない人たち。

 そう、私の両親と兄は死んだのだ。

 私のせいで。


 家族で旅行するはずの日。私は物凄い嫌な予感がしていた。

 それでも、どうせ何かの気のせいだろうと思った。

 だって、漫画やアニメじゃあるまいし、予知能力とか、そんなものが自分にあるとは思えなかったから。

 結局、嫌なモヤモヤを抱えたまま私は家族に何も言わずに一緒に旅行に出かけ――

 旅先で、ハンドル操作を誤った父のせいで車が海に落ち、そのまま三人とも帰らぬ人となってしまった。


 私だけは、地元の人に道を聞いていたので助かったのだ。


 もし、あの時、嫌な予感がするから辞めようと、勇気をだして言えていれば、家族は死ななくてすんだのに。

 あの時の私は自分のカンを信じてやることができなかった。



「もう、拓也、ネクタイならそこにかけてあるでしょ?

 楓もはやくご飯たべて、学校遅れるから」


 と、私の葛藤など知らない母が何時もの口調で言い


「あー、なら今日は俺が車で送ってってやろうか?

 今日は会社に寄らず直接営業先に行く予定だから、お前の学校近いし」


 と、兄。


「それはいい。そうしてもらえ楓」


 と、にっこり微笑む父。


 ああ――。

 もし、私に漫画やアニメなどの知識がなければ、純粋にこの幸せな世界に浸れたのだろうか。

 父も母も兄もいる、高校生の自分に戻れたのだろうか。

 よく考えれば、ゲームの世界に引きこもるようになってしまったのも、現実逃避だった気がする。

 ネトゲをやっているときだけは、リアルの嫌な事を忘れられた。

 ゲームキャラになりきって、現実逃避できたのだ。


 このままこの世界に逃げ込めばまた私は幸せになれるのだろうか?

 何も嫌なことを考えずにすむのだろうか。


 ――でも、それじゃあダメだ。

 外ではリリとコロネが戦っている。

 リュートだってどうなってるかわからない。

 私がすぐにでも戻らないと――現実から逃げてなんていられない。


 逃げたら、また大切なものを失ってしまうから。


「楓?」「どうしたんだ楓具合でもわるいのか?」「………」


 大好きだった人たちの視線が私に集まる。

 ――でも、ここにいるのは違う。

 私の好きだった人たちじゃない。

 幻だ。

 一緒にいればいるほど、虚しくなるだけなのだ。


「ごめんね、皆」


 私はアイテムボックスから鎌を取り出し――そのまま全てを切り刻むのだった。

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