53話 二体の魔族
ぼとっぼとっぼとっ
私のトラップで、魔法陣の外に放りだされた人達が、地面に次々と倒れ込んだ。
そう、私が発動させたトラップは私よりレベルの低い者はその魔方陣の中に入れないトラップである。
つまり、この会場に居た人たちはみな、私よりレベルが低かったため、強制的にトラップ外に追い出されたのだ。
魂を吸い取る魔方陣から強制撤去していただいた形になる。
まぁ、本来なら強制的に『敵』を追い出すために使うトラップなので、ちょっと乱暴に追い出される形で、地面に落ちるとき擦り傷くらいは負うかもしれないがそれくらいは勘弁してほしい。
魂が吸い取られるよりはかなりマシだと思うし。
兵士達も私たちの前に落ちてきたのでその場でコロネやクランベールたちが落ちてきた兵士を受け止める。
気は失っているが、鑑定すれば、気絶となっているだけなのでたぶん大丈夫だろう。
「い、一体何が……」
目を白黒させてるクランベールに
「トラップで、全員外に追い出した。本来敵を追い出すトラップだから、追い出した後の扱いが雑だけど」
私が言えば、クランベールが私をまじまじと見つめ
「ひょ、ひょっとして猫まっしぐら殿ですか!?」
と、驚かれる。
そういえば名乗ってなかったっけか。
「相変わらず猫様は……発想が斬新とでも申しましょうか。
こちらが思いつかない方法でなんなく、問題を解決してしまうというか……」
コロネも呆れたような顔で私を見つめ、なぜか大きなため息をつくのだった。
▲△▲
「話が違うぞっ!!」
王宮の中庭でセズベルクは魔族ジルに叫んだ。
すでにセズベルクの部下は殺されてしまったらしく、彼の部下専属の鎧を着た死体がそこらじゅうに散乱している。
そりゃもうグロテスクに。
「殺すのはリュートだけだったはずだっ!?」
白いタキシードをきたイケメン――セズベルクが魔族に詰め寄るが
「話が違う?それはこちらのセリフだ。
魂を捧げ、我らの王を完璧に解放すると誓ったのは貴様だ。
その約束を破ったのは貴様ではないか」
魔族の言葉にセズベルクが眉根をよせ
「リュート一人の魂で足りるという話だったからだろうっ!!」
と、叫んだ。
「セズベルク!これはどういうことですか!?
貴方は魔族と通じていたのですか!?」
王女様だろうか?セズベルクよりやや後方にいる煌びやかな衣装に身を包んだ王冠をかぶった女性が叫ぶ。
その周りには騎士達が、王女様を守るかのように、構えている。
「そうよ♪国王陛下
この可愛いセズベルクちゃんが私たちを封じの神殿から解放してくれたの」
と、もう一人の女型黒髪で妖艶な衣装をきた魔族マーニャがケラケラ笑いながら言う。
てか、あの女性エルフが国王陛下らしい。こちらの世界では女王も国王陛下呼びなのかもしれない。
「何の話だ!?」
と、セズベルクが魔族に叫ぶ。
「決まってるでしょう?
貴方が罪もない少年少女の魂を注いでくれたおかげで、『封じの神殿』からこうして出れたんだから感謝してるわ」
「あれはリュートを殺すためだったはずだ!?」
「あー、いい加減現実を直視しなきゃだめ。
騙されたのよあなた。
私、馬鹿な男って大嫌いなのよね」
と、マーニャが頭をかきながら言えば。
「おしゃべりが過ぎるぞマーニャ」
とジルが窘める。
「あー、ハイハイ。
さっさとこいつらの魂貰って魔王様復活させちゃいましょうか
特に国王陛下の魂は美味しそう♪」
魔族が言った瞬間、国王陛下達の足元に魔方陣が浮かび上がる。
「これは!?魂霊の魔方陣!?」
国王陛下の側にいた偉そうな神官服の男が驚きの声をあげたその時。
「はぁぁぁぁぁぁい!!STOP!!!」
「なっ!?」
リリの背から瞬間移動で飛んだ私の鎌が、そのままマーニャの首を掻っ切るのだった。
▲△▲
「――なっ!???」
私の突然の登場に驚きの声がハモった。
そう、あのあと。
コロネが見かけた怪しい人影がセズベルクの部下だったのを思い出し、何か関係してんじゃね?と、セズベルクを追ったのだ。
リュートに王宮にいると聞いて、リリと合流し、すぐさまリュートに転移の魔方陣でサウスヘルブの都市まで飛んでもらい、龍化したリリに乗ってここまで来たわけである。
因みにリュートもクランベールも一緒に来てもらっている。
先程までのやり取りはリリの視力と聴力を念話でかりて、盗み見していたのだ。
やっと、自分の視力で目視でき「瞬間移動」が可能な距離まで近づけたので飛んできたわけである。
私はマーニャの体もそのまま振り向きざまに一刀両断すると、今度は魔族のジルに飛びかかる。
――が。
ジルは素早くそれを避け、
「無駄だこのせ……」
魔族が私に何か言いかけるがそれよりはやく
「お気を付けください!この中庭は精神世界化しております!
聞いたものを信じればそのようになってしまいます!!!」
と、国王の隣にいた神官服姿のメガネをかけたおじいちゃんが叫ぶ。
魔族ジルが、チッと舌打ちしたので、神官の言うことは本当なのだろう。
恐らく先ほどこちらになにか暗示をかけようとしたのだ。
「五月蝿い邪魔だ!」
魔族が、国王の一団に何か技を放つ――が。
『聖降臨神盾』
後から駆けつけたコロネの詠唱とともに、パーティー効果で完全防御する魔法を纏った龍型のリリが国王達と魔族の間に入り込み、魔族の技を弾き飛ばした。
おおう!コロネもリリちゃんもナイス!!
魔族ジルのレベルは920
油断さえしなければ十分殺せるレベルだ。
一気にかたを付ける!!
私がジルに駆けようとしたその時。
「リュートっ!!!!」
コロネの叫び声でふと気づく。
首を切り落として身体をまっぷたつにしたはずの女魔族のその顔だけがリュートに襲いかかっていたのだ。
くそ!殺気を感じなかったせいで油断した!
コロネも魔法の詠唱に入ったが間に合わないだろう。
首を切り落として身体まで分断したのに生きてるとかゴキブリか!!
私が瞬間移動でマーニャとリュートの間に入り、そのままマーニャをもう一度切り刻もうとしたそのタイミングで、マーニャの身体が発光した。
「なっ!??」
驚く私とリュートを――光が呑み込むのだった。










