52話 霊魂
「……これは……」
クランベールに案内されたその先にあった光景にコロネは目を細めた。
そこにあるのは魔法陣に乗って横たわっている少女。
その横には何人かエルフの騎士達が控えている。
祭りの喧騒から逃れ、住宅の立ち並ぶ路地裏のような場所で、その少女は横たわっていた。
私が鑑定してみれば、少女はもう死んでいる。
「クランベール。これは一体?」
「はい。我らが巡回していた所、見つけたわけでありまして。
まだ見つけたばかりで、死体を検視できる魔導士連中を呼びに行くところでした」
と、クランベールが答える。
コロネは一度少女を魔方陣から離れた場所に死体をおき、体を調べ
「着衣の乱れはありませんね。
顎間接の硬直はありますが四股にはまだ死後硬直が見られないところをみると……死後1時間〜5時間といった所でしょうか。
死後12時間までなら残るはずの魔力痕も見かけられませんから魔法で殺されたわけでもなさそうですし……」
言ってコロネは少女の口をあけると、臭いを嗅いだあと、
「よく調べないと断定はできませんが。
臭いもありませんし、舌の色を見ても薬物を飲まされたというわけでもなさそうです。
後頭部に傷がありますが……これは恐らく死後ついた傷でしょう傷口が……」
と、生活反応がなんちゃらごちゃごちゃ説明しだす。
……うん、やべぇメガネのちびっこ探偵かお前は。
おじいちゃんに名探偵とかいて、じっちゃんの名にかけてとか言い出してもも驚かないぞ。マジで。
「となると、やはりこの魔法陣のせいですか」
と、クランベールがまじまじと魔方陣を見つめ
「ええ、その魔法陣の上に無闇に乗らないでください。
しかし、見たことのない魔方陣ですね。
神々に関する魔方陣の文様なら全て頭に叩き込んでいますので……おそらく、魔族に関する魔方陣なのでしょう。
魂に関する文様もありますから……もしかしたら魂関係かと思われます。
一応専門家に検死してもらってから蘇生しましょう」
言ってコロネが魔方陣をじっくりと見始める。
私もまじまじと魔方陣を観察してみるが……全然わからない。
私も神々関係の魔法陣は熟知しているほうなんだけどなぁ。
「それにしても、貴方のような身分の高い騎士がこのような路地裏まで巡回していたとなると、それなりに何か前兆でもあったのですか?」
と、鋭い視線でコロネが尋ねる。
普段はこんな路地裏までは調べないのだろうか?
確かに事件発生から死体発見までがはやい気がしなくもない。
「おお!流石大賢者様!
よくわかりましたな。こういった謎の不審死は実は今日で13件目でして。
一昨日から、幼い少年・少女ばかりが、同じような魔方陣の上で死んでいる事件が多発しているのです」
と、ため息まじりにクランベールが言えば
「たった二日で13件ですか?」
コロネが眉を潜め
「ええそうなのですよ!ですから自分が街を見回っていたわけでありまして!」
とクランベールがいい、クランベールの隣にいた兵士が何やら地図のようなものを私とコロネの前に差し出す。
「これがその事件発生の位置です」
と、渡された地図をみて……私とコロネの顔が青ざめた。
そう、この点で記された場所を結べば、魔方陣が出来上がることが見て取れたからだ。
普通の人には点、点にしか見えないが、魔法陣はかきあげるときに、起点となるべき場所から描く必要がある。
まず起点を描いてからそこを線と線で結ぶように描かないといけないのだ。
私も土魔法で描く時、まず起点から書き出している。
その魔方陣を描くための起点になんとなく似ていたのだ。
「少しお待ちください」
コロネが慌てて、私に地図を渡すと
『復活の呪文』
と、少女に復活の呪文をかけた――が、少女はウンともスンとも言わない。
ゲームと同じなら生き返るはずなのに。
「復活の呪文で生き返れない所をみると、魂がもうすでにこの場所にはありません……。
この呪文は呪文書の説明には1日以内なら復活できると記載されていました。
まだ数時間しかたっていないのに生き返れないとなると……」
コロネが眉根をよせ
「魂がすでにこの世に存在しないってこと?」
私の問いにコロネは頷いた。
「恐らく、これは魂を何かに捧げる魔方陣です」
コロネが言えば、私は地図を再びガン見し
「魔方陣が取り囲んでいるのはほぼ祭り会場一体じゃないか!?」
「いけませんっ!!皆すぐこちらへ!!そちらの位置は魔法陣の内側に位置します!!」
私とコロネが叫んだその時。
急に魔方陣が輝きだした。
――しまった!?
私と一部の兵士を遮るかのように唐突に光の壁ができあがる。
丁度何人かの兵士は魔法陣の中に入ってしまっていたのだ。
「何事だ!?」
魔方陣外にいたクランベールが叫び
「魔方陣が作動したのでしょう!このままでは!
会場にいる者の魂が!!」
言ってコロネ叫ぶと同時、魔法陣の中に位置してしまった兵士が膝をおり、倒れ込む。
「う……ぐっ……」
まるで何かに押しつぶされているかのように、兵士達の身体が吸い寄せられているのがわかった。
魔法陣の中に入ってしまった兵士達は全員倒れふしている格好だ。
「くっっ!!!!こうなってしまっては魔方陣を破るすべがありませんっ!!
このままでは祭り会場の皆が!!」
「ああっ!!くそっ壊れろ!!」
私が叫び、ドンドン叩くが、レベル900の私の攻撃でもびくともしないのだ。
「う、あ、あああ……」
兵士たちが助けを求めるように手を伸ばすが、その声も光が強くなると同時に遮られてしまう。
「コロネ殿っ!!なんとかなりませぬか!!」
クランベールが叫び、コロネも何とかしようと魔法陣に攻撃をしているがびくともしない。
あああああ。くそう!!
このまま魔方陣がマジ発動すれば、祭り会場にきている者の魂が吸い取られてしまう!!
下手をすればその場にリリ達もいるかもしれないのだ。
なんとかみんなを魔法陣の外にださないと!?
入れないしどうやればいい!?
魔法陣の上空に暗雲が覆い、空気がひんやりとしたものへと変わる。
このままじゃ間に合わない。
思った瞬間。
私はあることを思いつき、ためらうこなく大地に手をつき、会場一体を覆う魔方陣を書き上げた。
そう――そっちが魔方陣で勝負ならこっちも魔方陣で勝負してやる!!
『トラップ発動!!『愚者追放!!』』
魔方陣が魂を吸い取るよりも先に――私のトラップが発動するのだった。










