51話 子供扱い
「あー、いい買い物をしたー♪」
結局、店員さんの薦めるままに、中二病心をときめかせるブラッドの剣を買いだめして、ホクホク顔で歩いていれば
「そのような実用性のない武器を買い上げるとは……」
コロネが呆れたような顔で言う。
私とコロネは、一通り武器・防具の並ぶ露天を見たあと、食べ物の売っているエリアへと移動した。
久しぶりに祭りの食べ物も食べてみたいし。
先程の武器・防具のエリアと比べると、人通りもかなり多い。
やはり食べ物が売ってるエリアが一番人気なのだろう。
「わかってないなぁ、コロネは。実用性と観賞用は別物なんだから!」
「そういうものでしょうか?」
「そういうもの。あ、見てコロネ!あっちにたこ焼き屋あるんだけど!?」
ゲームの時も祭りのイベントでたこ焼き屋がでていただけあって、こちらの世界もそのまま日本の屋台が適用されている。
300年たっても祭りの形式はあまりかわっていないらしい。
久しぶりのたこ焼きについ、テンションがあがって私が走り出そうとすれば
どんっ
どんっ!
と、道行く人にあたってしまう。
「す、すみませんっ!!」
ぶつかった人に私がペコペコ謝れば、コロネが私の手を取り
「猫様、あまり一人で先行しないでください。はぐれますよ?」
と、注意されてしまう。
「あ、うん。ごめん」
コロネの隣で歩いていたときは気にしていなかったが、地味に人に当たらないようにコロネがさりげなく誘導していてくれた事に気づく。
くそう。お前は乙女ゲーのイケメンキャラか何かか。
「たこ焼きは私が買ってきますから、猫様はこちらのベンチに座っていてください。
いいですか、絶対そこから動かないでくださいね?」
と、何故かベンチに座らされ、コロネに念を押されるのだった。
……どうやらコロネの中で私は子供扱いらしい。
▲△▲
うん。なんだかこの図はおかしい。
ちょこんとベンチに座り焼きイカをぱくつきつつ、チラリとコロネの方をみれば、ぴったりと横に座っている。
ちょっと近い。というかかなり近い。
さっき、ベンチに二人でコロネと座った時、見かけたもろこし焼き屋にコロネにここで待っててと残して一人でいこうとして、人の波にのまれてコロネとはぐれかけてからは、ずっとこの感じである。
また、私が勝手に動かないか警戒しているのだろう。
「リリ様を心配する前にご自分がはぐれないように気を付けてください」
と、呆れられてしまったのだ。
にしてもあれだ。なんだかこの図、デートみたいに見えなくもないことにふと気づく。
気になってコロネの方をチラリと見やれば、祭りの街行く人たちを眺めていた。
横顔は普通にカッコイイ。
悔しいけどコロネって顔だけは好みなんだよね。顔だけは。
紳士風叔父様キャラがアニメとかで好きだから。
まぁ、芸能人とか見る感覚と同じで観賞用の好みであって付き合いたいかと問われれば、また別の話ではあるんだけど。
ほら、イケメンすぎると、自分とは無縁の人に思えて対象外になるっていうかなんというか。
それでもこうー女の格好でデートみたいな形になるのは照れる。
男の時は気にならないのに、女になると途端に異性として意識してしまうのは不思議な感じなのだが……。
私がソワソワしていると、コロネが
「どうかなさいましたか?」
と、不思議そうに聞いてきた。
「あ、いや、なんでもないっ!!」
「……大丈夫ですか?顔が赤いようですが」
コロネが心配そうに私の額に手をあてて、私の顔をのぞき込んだ。
ちょ!?待ってほしい!!
そういうのはめちゃくちゃ照れるからやめてほしいんだけど!?
「……熱はないご様子ですが……体温も極端に低くなっているわけではありませんし」
とコロネが考え込む。
「あー、ちょっと人混みの中に長くいすぎて疲れただけ!
ほら、私、基本引きこもりニートだったわけだし!!人混みは苦手というかなんというか!!」
私が言えば、コロネはふむと頷いて。
「そうですね。少し長居をしてしまいました。
リリ様達も戻ってくるかもしれませんから、戻りましょうか」
言って、視線を再び広場に向け、そこで何故か目を細めた。
「……コロネ?」
「猫様、あそこで足早に走るマント姿の男を鑑定していただいても宜しいでしょうか?」
言って、コロネの言った人物を私は鑑定すれば
***
職業:聖騎士
種族:エルフ
名前:クロウ・ドルランフォス
レベル:80
***
と、でる。
うん。レベルと聖騎士という職業を考えるとなかなか身分の高そうな人ではあるが、格好は物凄くみすぼらしい。
ボロボロのローブに安っぽい大剣を装備しているのだ。
「あの人がどうかしたの?」
「セズベルクに仕える騎士の一人です。
何故、貴族である彼がこのような場所で顔を魔道具で変えてまでここにいるのか気になりまして」
「へー、顔まで変えてるんだ」
「はい。しかも放つ魔力の質まで、魔道具で変える念のいれようです。
かなり後ろめたい事をしているのかもしれません」
「うん?それなのにコロネはよく気づいたね?」
「いえ、流石に誰かまではわかりませんでした。
ですが一見わかりませんがあのマントは日除け用ではなく、水滴などが滴る洞窟で作業する用の水はけのよいワンバーンの素材です。
水滴をはじくのには最適なのですが日の光を浴びると日光の光を集めてしまう材質です。
あまり外を出歩くのに使うのは考えられません。
あのように全身に纏えば蒸れてしまいますから。
ブーツや大剣もちぐはぐといいますか。
背負う大剣は安いものなのに背負う革紐は高級な革だったりと、不自然です。」
と、コロネが既に居なくなった騎士の方角を見たまま言う。
く。浮気を見抜く主婦か何かか君は。
よく人のことを見ていらしゃる。
などと、私たちがやりとりをしていれば
「これはコロネ殿ではありませんか!こんなところで一体なにを!?」
唐突に声をかけられ、そちらを見やれば毎度おなじみクランベールが立っていた。
コロネは髪の色は変えているが、それ以外は変えていなかったので観る者が見ればすぐわかるのだろう。
「ええ、連れと、祭りに」
と、コロネがチラリと私を見やる。
一応女の姿なので、名は伏せておいてくれたのだろう。
クランベールが私をみるなりほほぅという顔をして
「コロネ殿が女性連れとは珍しいですな!!これはリュート王子が喜びますぞ!」
と、なぜかニマニマした。
「クランベール、余計な詮索はやめてください。
それより、あなたこそ何故こんなところに?
今日はコロシアムでリュートの護衛ではなかったのですか?」
と、コロネが真顔で言えば
「ああ、そうだったのですが。
丁度よかった、コロネ殿ちょっとお付き合いいただいてもよろしいでしょうか?」
と、クランベールがいつになく真面目な口調になるのだった。










