47話 残酷な世界
「コロネ!リリお菓子つくったよ!!」
死んだ目のまま器用に左手だけで服をいそいそと着込むコロネに、リリがお菓子を差し出した。
「……リリ様が?それは凄いですね」
「うんうん!ネコに教わったの! 塩サブレ?っていうの!
黒胡椒とか お野菜とか入ってる!」
「それは美味しそうですね。今ここでいただいても?」
「うんうん! 食べて! グラッドも食べる!」
そのままお菓子を差し出すリリ。
この空気のなかお菓子を差し出せるリリちゃんがメンバーの中で一番神経図太いと思う。
というか、子供だから空気が読めないと考えるべきなのか。
「お?俺も食べていいのか?」
「うんうん!どうぞ!」
言ってリリはお菓子を差し出して微笑むのだった。
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「これは……甘さより辛さのほうが強いですが美味しいですね」
コロネがリリの作ったお菓子を食べながらしみじみ見つめながら言う。
「そうだな。これなら甘いものが嫌いなお前でもいけるんじゃないか?」
コロネのセリフにグラッドがちゃちゃをいれる。
また余計な事を と、言わんばかりにコロネが睨むがグラッドは鼻歌でごまかした。
どうやら本当に甘いものが苦手だったらしい。
「にしても、お嬢ちゃんすごいな。こんな美味しい菓子を作れるなら店開けるぞ店
なんなら俺がいい場所紹介するぞ?」
「貴方は子供に何を言っているのですか」
コロネが呆れたようにグラッドを睨みつけるが
「リリ、平和になったらお菓子屋やるの!
でも、お店は ネコ 作ってくれる約束!」
と、えへへーと笑顔で夢を語る。
「それは楽しみですね」
とコロネがリリの頭を撫でた。
しかしグラッドは微妙な表情で
「平和ねぇ……そういえば兄ちゃん、本当にあの人間の領土で好き勝手やってるプレイヤー共をなんとかしてくれるのかい?」
私の方に視線を向けた。
「ええ、そのつもりですけど」
「それは助かるな。でも、何でそんなことしてくれるんだ?
あんたに得なんてなにもないだろ?」
「え?ありますよ?
平和な状態にしておけば、もし私だけ元の世界に帰る事になってもリリとコロネを安心して置いていけますし。
もし帰れなかったら、やっぱり平和状態の方がいいですし」
「そんなもんか?
兄ちゃんは他の連中みたいに自分が王になってやるとかいう気はないわけか?」
グラッドの質問に私は眉根を寄せた。
なんだか物凄く疑われてるような気もするが、まぁ他のプレイヤーの所業を見れば仕方ないのだろう。
それにしてもである。
「嫌ですよ。面倒くさい。
偉くなったら責任が増えるだけじゃないですか。
この世界の常識やら理やら知らない自分が国を収めたってうまくいくわけがない」
と、真顔で答えた。
そう――コロネと話していてわかったが、この世界は大分考え方が違う。
普通に個人個人接してる分にはあまり違いは感じないが、この世界の人間は、基本的に純朴というか何というか……
私のファンタジーの世界は残酷で殺伐しているものという考えは間違っていた。
考え方だけでいえば、下手をすると、私たちの世界の方がよほど残酷だ。
聞いた話では野盗すら、ちゃんと最低限のルールを守り(?)殺しやレイプなどの非人道な事はしなかったらしい。
まぁ、金品奪ってる時点でルール守ってるかどうかは疑問だが。
よく、ファンタジーの世界では宗教は駄目的な扱いが多いが、この世界は宗教を悪用するような人間がそもそもいない。
皆純粋に同じ神達を祭り、宗教の定義をきちんと守っている。
グラッドは私の言葉にはぁーーとため息をつくと
「他のプレイヤー連中もあんたみたいなタイプだったらよかったのにな。
人間の領土はいま酷いありさまだぜ。
大きな都市から離れて点在してた村はほとんど魔素溜になっちまったし、人間連中も考え方が随分殺伐としちまってな……。
殺しや女・子供を奴隷にするとか平気でするようになっちまった。
光神セシウス様もきっといまの状況をお嘆きになっているだろうぜ」
「それは……なんというか、申しわけありません」
いたたまれなくなって私は謝った。
「兄ちゃんのせいじゃないだろ?
俺だって同じ世界に住んでるってだけで他の連中がしたことの責任を押し付けられたら嫌だしな。
そんな理不尽な話はねーよ」
言ってグラッドは私の前に立つと、頭を下げた。
「え、えっと?」
「異世界人のあんたに、こんな責任を押し付けて、この世界のオレらが何もしないのは間違っているのはわかってる。
でも、あんたしか頼るしか俺たちには手段がない。
あの馬鹿なプレイヤー連中を倒してくれ。このとおりだ。頼む!」
言って土下座された。
うおおおお!?何だこの展開!?
「い、いやいやいや。頭下げないでくださいよ。
もちろん何とかしますから。
っていうか、個人的私怨もあるし!」
そうだよ。うちのコロネにあんな酷いことした連中を野放しにしておくなんて私的に絶対ありえない。
殺す以外の復讐方法はちゃんと考えている。
っていうか、ある意味死んだほうが幸せかもしれない復讐方法だが。
その復讐方法のためにコロネにある物を頼んだのだが、コロネは微妙な顔をして
「猫様の世界の人間の発想は……残酷というか……
私にした拷問方法も、こちらの世界ではありえませんでしがたが……
お優しいはずの猫様ですらそういった発想がでるのですから、よほど殺伐とした世界なのですね」
と、呆れられてしまった。
うん。なんかごめんよ。
「……その事なのですが、猫様」
グラッドと私の会話にコロネが割って入る。
「うん?」
「人間の領土のプレイヤーの事は私に一任していただけませんでしょうか?」
至極真面目に、コロネが提案してきた。
「一任って、コロネ一人に押し付けるって事か?」
コロネの言葉に私は思わず聞き返した。うん。その発想はなかったわ。
「押し付けるというと語弊があるのですが……。
猫様やリリ様に比べればレベルは低いかもしれませんが、私もレベル803です。
プレイヤーに負ける事はまずないでしょう。
今までは魔物相手でしたから、猫様もリリ様も躊躇なく殺す事もできたでしょうが、次から相手をするのは人間です。
魔物のように殺して終わりというわけにはいきません」
コロネの言いたいことはなんとなくわかる。
私とリリにドロドロしたものを見せたくないのだろう。
でもやっぱり……
「コロネ一人 却下」
私が言うより先にリリが口を挟んだ。おぅリリちゃん?
視線がリリに集まり――
「コロネ 一人にしたら 絶対 ぜったい 誘拐される。
人質にとられる!
コロネは 一人駄目!!」
と、物凄く真面目な表情でリリが言い切った。
「え、いや、あの……。
私ももうレベル800ありますから、以前のような遅れをとることは……」
私からではなくリリに反対されるのは予想外だったのだろう。
思わぬ所からの反撃にコロネがしどろもどろになるが
「コロネ 理論も理屈もレベルも関係ない!
絶対誘拐されて人質にされるから一人駄目!!」
きっぱりと言い切った。
「うん。リリの言うとおりだな。
コロネの場合、目を離すとすぐ魔王とかに誘拐されそう」
私もジト目でコロネを見つめる。
私の言葉にグラッドさんもコロネを見つめ
「お前、この二人に恐ろしく信用ないんだな」
と、突っ込まれる。
「え、いや……その……理屈も関係ないと言われてしまうと……」
何か反論しようかと口をぱくぱくさせてみるが……
「コロネ プレイヤーにだって二回捕まってる! 魔族にだって誘拐された!
次も絶対誘拐される!」
という、リリのトドメの一言に
「さ、三人で行きましょう!!!!」
と、あっさり降伏した。
「プレイヤーに二回捕まってる?」
リリの言葉に私が疑問符を浮かべた。
一回は確か、あの鬼畜連中だとしてもう一回は?
リリが私の言葉にはっと口を抑え申し訳なさそうにコロネの方を見た。
コロネは左手で頭を抱えて、ため息をついている。
「えっと……コロネ…ごめん」
申し訳なさそうに謝るリリ。
うん、どうやらリリは口を滑らせたらしい。
「さて、その話、詳しく教えてもらおうかなー?」
私の言葉にコロネはさーっと顔を青くして頬をひきつらせるのだった。
■あらすじ■
グラッドさんに宜しくお願いしますと頼まれる→コロネは一人だと誘拐されるとリリが口を滑らせる
■変更点■
特にありません










