閑話1:VRMMO時代 カンナちゃんとの出会い編 5
『土霊振壁!!』
カンナちゃんが私と迫り来る牛さんの間に土の壁を展開する。
んもぉぉぉぉ!!
私を追いかけていた牛さんたちはものの見事にカンナちゃんが作った土壁に体当たりして宝箱へと変貌していった。
「凄いですねー本当に牛さんいっぱい倒せちゃいます」
私と交互に釣りと魔法係りを交代しながら倒すカンナちゃんが目を輝かせて言う。
ちなみにカンナちゃんもlevelはいま同じ7だ。
狩りをしていないのに何故?と思われるかもしれないが、街中にもアイテムをNPCに届けるだけで経験値がもらえるがクエストがあるのでカンナちゃんは地道にそのクエストをこなしていたらしい。
話によればカンナちゃんがゲームを始めたのは2ヶ月前なので、そう考えるとlevelのあがりはものすごく悪い。
本当に裁縫ばかりやっていたのだろう。
そして私とカンナちゃんはいまパーティーを組んで狩りをしている。
パーティーを組んでいれば経験値が経験値獲得範囲にいれば、パーティーメンバー全員に等分できるからだ。
「さて、そろそろ座って休憩しましょうか。二人ともMP0になちゃいましたし」
このゲーム、MPを回復するのは座っているか、MP回復アイテムを使うかなのだが、初心者ペーペーの私たちがもちろんMP回復薬なんて高価なものをもってるわけがない。
MPは座って時間経過で回復させるしかないだろう。
「あ、MPならさっきウサギさんを見にいったとき、ナパムの葉っぱがいっぱい生えてましたよ!
使いますか?」
と、カンナちゃんがナパムの葉をとりだした。
あーナパムの葉か。
攻略サイトで見た見た。
確かマジックポイント回復してくれるんだよねー。便利だよねー。
って!?ちょっと待って!?
ナパムの葉!?
「ええええ!?マジっすか!?い、いや使うなんてもったいない!!」
「な、なにかまずかったでしょうか?」
「いや、違います!ナパムの葉っぱっていま、対人勢が錬金術のスキル上げてるから大人気なんですよ。
中級MP回復ポーション作るのに必要な素材ですし!
丁度戦闘スキル上げきって暇になった廃人連中がいま生産スキル上げに着手してる時期です!
いま商店に売りに出せば大儲けできるはず!!」
私が興奮気味に言うと、カンナちゃんは小首をかしげて
「昔街中で生えてるの見かけて道具屋さんに試しに売ってみましたけど、5個で1Gにしかなりませんでしたよ?」
と、すっとぼけた事を言う。
……そうでした。この子MMOゲームやったことないんだったぁぁぁぁ!!
「えーっと、基本そういうものはNPCの商店じゃなくて、プレイヤーに売った方が儲かるんです」
「そうなんですか?でもどうやってプレイヤーの方に売るんでしょうか?
モルテルンの街には私と猫さんくらいしかいませんし」
ああ……カンナちゃん、プレイヤー間で商品を取引できる、機能があるのを知らないのか。
なるほどまずそこから説明しないと駄目なのね。
「モルテルンの街の入口の方に、いかにもロリっ子って感じの制服着たNPCいたでしょう?
話しかけた事ありますか?」
「あ、はい。なんとか商店へようこそ。
レベル7になったら来てくださいって言われました。
……あ、私レベル7になったからもう使えるんですね!」
と、ニコニコ顔で言う。
「それがプレイヤー間で取引できる『マルティナ商店』です。
商品を出品して、他のプレイヤーが買ってくれると売れたとき手数料として売上の5%とられますけど、お金が手に入ります」
「おおー。凄いですね」
「その商店で、ナパムの葉を売ればきっと儲かりますよ。
カンナさん、そのナパムの葉が生えてる所に連れてってもらっていいですか?」
「はい!わかりました!」
こうして私はカンナちゃんにナパムの葉の生息地に連れていってもらうのだった。
▲△▲△▲△
「ここです!」
言ってカンナちゃんが案内してくれたのは街からそう離れていない、ウサギの生息地だった。
岩山に囲まれたその場所は、ちょっとした広場のようになっていて一面にナパムの葉が植わっている。
私も昨日ここを通ったはずだがその時には確か生えてなかったはず。
「おおおおー。すごい。
全部とれば400個くらいいけそうですね」
私が目をキラキラさせながら言うと
「とりあえず採取してみますか?」
と、カンナちゃんが微笑む。
「そうですね。とりあえず採りましょう」
こうして私とカンナちゃんはいそいそとナパムの葉を採取し始めた。
うん、他のプレイヤーが誰もいないせいで採り放題だ。
もしこれが人の多いガイアサーバーでの話なら、こぞってプレイヤー同士でナパムの葉取り合い合戦がはじまっていただろう。
こういう時って過疎サーバーってなにげに有利だよね。
「そういえば、カンナさんはいま錬金術のスキル熟練度いくつなんですか?」
そう、ナパムの葉は錬金術師のスキルを上げるときに使うアイテムの一つだ。
もしカンナちゃんも適正熟練度なら熟練度上げのためにとっておくべきだろう。
「私はまだ熟練度10です。ごめんなさい。
ポーション用の瓶とかが意外と高くて……もうちょっとお金を貯めてから熟練度をあげようと思ってます」
申し訳なさそうに言うカンナちゃん。
「いえいえ。気にしないでください」
そう、そもそもMMO初心者がいきなり金策もできないのに生産スキルに手を出すのが正直間違ってると思う。
元々このゲーム、ベースが私の知るネトゲのMMOにそっくりなのだ。
そのゲーム基準でいけば生産スキルは大体儲けるよりも、スキル熟練度を上げるのに金がかかる。
いわば、金持ちの道楽的な要素のほうが高いのだ。
儲けられたとしてもNPC相手に細々と儲けられる程度で、狩りをやっていたほうが儲けは大きい。
ただし、スキル熟練度が100付近になると、NPCではなくプレイヤーにも商品が売れるので、急に儲かることになるのだが。
それまでの道のりが果てしなく遠い。
「じゃあ、とりあえず今はお金貯めを優先しましょう。
このナパムの葉っぱ全部売りますね」
「はい!お願いします!」
こうして、私達は街に戻り採取できたナパムの葉400個を『マルティナ商店』売りに出すことにしたのだった。










