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167話 別れの時期

「コロネ、久しぶりに買出しにいかないか?

 コロネの好きなスープ作ってやるよ」


 言って、猫が手を差し出したのは次の日の事だった。

 今日は非番でいいと、テオドールに言われ、コロネの自宅で三人でのんびりとしていたのである。 


「うぬ。行ってくるがいい。しばらくは魔族の襲撃はない。お主ら二人でも大丈夫だろう」


 言って、ミカエルはそのままここを動かぬぞ、と言わんばかりにコロネのベットの隣に敷かれた自分の毛布にくるまった。


「はい。ではお願いします」


 言って、コロネはその手をとった。

 恐らく、猫が未来に帰る日はもうすぐなのだろう。

 魔族を倒してから猫が時折見せるようになった寂しげな笑みで察しはついた。


 最初猫に会った時は――街に行き交う人々も全てが敵に見えた。

 誰もがエルフである自分を恨んでいるのではないかというわけのわからない錯覚をしてしまっていたのだ。

 今になって考えれば、そのように思い込んでしまうよう、ゼンベルに誘導されていたのだが、当時の自分は気付かなかった。

 最初の頃優しげに近づいてきた者もすべてゼンベルの手下で、わざと信用しきったところで手のひらをかえしコロネを集団で責め立て。

 コロネが何か言うだけでその場の者が全否定してくるように仕向けていた。

 そういったことを繰り返されているうちに、自分でも気づかないうちに恐ろしく自己評価が低くなっていたのだ。

 そして少し信用させては裏切るを繰り返され、命も狙われているうちに、いつの間にかすっかりゼンベルの都合のいいように飼い慣らされていたのである。

 逃げだす事もなく、かといって抵抗もせず、気がむいたときに痛めつけられるだけの存在が、かつての自分だった。


 いま、このように街をエルフであることを隠すことなく普通に歩けるようになったのは全て猫のおかげなのだ。

 

 街中を自分の手を握り歩く、猫の背を見つめ、この背中をもう見ることができなくなるのだと思うと胸が締め付けられる。


「よう、あんちゃん達相変わらず仲がいいな。

 今日もまけとくからバンブー焼き買っていかないか?安くしとくぞ!」


 親しげに肉屋の店員に話しかけられる。

 猫が人懐っこいせいか、いつの間にか近くの店の店主とも顔なじみになっていた。



「あー、美味しそうだな!じゃあ15個くらい買っていこうかな。ミカエルが喜びそうだ」

 

 言って、ニコニコと猫が買い、串刺しになった肉の一つをコロネに差し出す。


「コロネも食べとけよ、うまいぞこれ」


「……そうですね。いただきます」


 言って、コロネはそのまま受け取り肉を一口食べる。

 露天で売っている肉だけあって、その肉質は固く、とても美味いとは言い難いが、それでも庶民の間では美味しい部類なのだろう。

 二年前は猫が作ってくれたお粥でさえ、胃の中に入れると吐いていたのだから、このように普通に肉を食べれるようになったのは大きな進歩といえる。

 誰もいない橋の上に差し掛かったところで、つい、感傷的になり涙がこみ上げてしまい、コロネは慌てて涙をこらえた。


「若いときのコロネは案外涙脆かったんだな」


 と、猫にぽんぽん頭を叩かれる。


「す、すみません」


「あー、うん。こっちこそ、隠しきれなくてごめんな」


 どうやら猫も、コロネが自分が帰る事に気づいていたことを察していたらしい。

 申し訳なさそうにコロネに謝った。


「何時ごろ帰る事になるのでしょうか?」


「明日、セファロウスが復活すると神託があるはずだ。

 セファロウスの復活が一ヶ月後。その時エルギフォスも一緒に復活する」


「……では、神話級の相手を一度に二匹相手をしなければいけないということですか?」


「ああ、エルギフォスは自分が殺る。コロネはセファロウスの方を頼む。

 アルファーとミカエルに手伝ってもらってくれ」


「……はい。気を引き締めないといけませんね」


「ああ、そうだな」

 

 感傷的になってる場合ではないことをコロネは自覚する。

 エルギフォスとセファロウスの二匹同時と相手となれば、猫とて楽勝というわけにはいかないだろう。

 聖杯を使う自分の役割が大きくなるのだ。

 泣いている暇はない。


 ――そう、せめて。最後くらい。

 立派に彼の役にたってみせよう。笑って別れが告げれるように。



 そして次の日。魔王の言うとおり、神託がくだされる。


 魔獣セファロウスが一ヶ月後。復活すると。

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