162話 再会
「白銀騎士の死といい、一体なにがあった」
次の日、テオドールがこっそりとコロネに話しかけてきた。
あれから、猫が見るからに元気がなくなってしまい、常に怖い顔で周囲を警戒するようになったのだ。
「――ええ、実は……」
「……エルギフォスか」
猫がつい漏らした言葉。それはテオドールもコロネも知っていた。
大昔神々に封じられた魔族の王。魔王の名前だ。
神話ではいまは魂ごと天界に封印されているという事になっている。
魔王が封印されてしまったため、魔族も現世に出現できなくなったはずだが……。
魔族がコロネを狙った所をみると、エルギフォスが絡んでいるのは間違いないのだろう。
コロネに記憶にまったくないのだが、コロネを殺そうとしたグレイを止めようとしたシルビアは死に、グレイも猫の手によって殺された。
死体からわかったのだがグレイは男装した女性だったらしい。
他にも訓練していたものがいたため、目撃者も多数いた、そのためそれが公式発表となっている。
自分を慕ってくれていた二人の死に猫も堪えたらしく、見るからに余裕がなくなっていた。
それでも、コロネは何と言えば慰められるのかまったくわからず、顔色を伺って猫の後をついていくしかできなかったのだ。
「テオドール何とかなりませんか?慰めの言葉がわかりません」
コロネが小声でいえば
「なるわけないだろう。まったくわからん」
と、テオドールも小声で答える。
明らかに周囲に魔力を放ちまくっている猫に視線を向ければ、窓の外を険しい顔でみていた。
「――何か来る」
猫が呟いたその瞬間。
「皇帝陛下!!大変です!!上空に白銀の狼と白い翼をもった天使が現れたとの報告が!!」
兵士の報告に猫がすぐさまコロネを抱きかかえ、飛び出した。
「ね、猫っ!?」
「敵襲かもしれない見てこよう!」
言って窓から飛び出せば――空に居たのは白銀の狼と白い翼をもった金髪の騎士。
天使と狼がこちらと目があい――
「ミカエル!?アルファー!?」
「猫様!?」「マスター!?」
一匹と二人は揃ってお互いの名を呼び合うのだった。
△▲△
「ミカエル!!アルファー久しぶり!!何でこっちに!?
私だけのはずだったんじゃ!?」
皇帝の謁見室で猫が嬉しそうにミカエルのモフモフに飛び込んだ。
今は人払いをしているため、テオドール、コロネ、猫、ミカエル、アルファーの5人しかいない。
「主よ、久しぶりと感動しているところ悪いのだが、我らは主と別れてから5分とたっていない」
白銀の大きな鎧を着込んだ狼、ミカエルがすまなそうに応える。
「え!?マジで!?」
「はい。猫様が消えてから、次はお前たちだと、そのまま自分たちもワープさせられました。
詳細もよくわかりません」
「じゃあ、何か、私は脳内に記憶をもらったけど、二人には何も説明してないのか?」
猫の問いにコクりとアルファーとミカエルが頷いた。
「うおーあの腹黒3号め!!なんでいつも説明省くかなマジで!!」
「ここはどこなのでしょうか……それに……」
と、アルファーとミカエルの視線がコロネに注がれた。
まったく話の見えないコロネが二人の視線にたじろげば
「本当に過去なんですね。
若いです」
「うむ。若いしヒョロイな」
と、アルファーとミカエルになぜかツンツンと突っつかれる。
「あ、あのっ……」
コロネがどうしていいかわからず猫に救いを求めれば
「ああ、すみません。つい」と、アルファー。
「気は神とエルフが混じっているし……まお……」何か言いかけるミカエル。
「わーーわーー」
ミカエルが言いかけた何かを猫が口をふさいで止め
「コロネ、テオドール!ちょっと話のつじつまを合わせるから!そこに居てくれ!
アルファーとミカエルは、話したらいけないことを説明するから!
そこに正座!パーティー組むぞ!パーティ!!」
と、猫とミカエルとアルファーの三人が正座(?)をして三人で無言で見つめ合う。
「何なんだこの光景は……」
テオドールが無言で座り込んで難しい顔で見つめ合う三人を遠くから見つめ、コロネで小声で問えば
「私に聞かれてもわかりません」
と、コロネも肩をすくめた。
結局、三人の無言の座談会は三時間近く続くのだった。
△▲△
「でも来てくれてよかったよ。
ちょっと一人で護衛するのに自信がなくなってた所だったから」
ミカエルにモフモフしながら嬉しそうに猫がいえば
「最強厨の猫様が弱音とは珍しいですね」
と、アルファーが答え。
「君は最近言うことが腹黒3号に似てきたんじゃないか」
とむにーっとほっぺを猫に引っ張られる。
「しゅしゅ、しゅびません」
「あー、コロネ。テオドール紹介が遅くなって悪かった。
二人とも自分の知り合いの天界の天使だ。
アルファーとミカエル。よろしくな」
と、アルファーとミカエルがおじぎをすれば
「天使が知り合いとは、事も無げにいうが、本来恐ろしい事なのだがな。
テオドール・エント・アケドラルだ宜しく頼む」
と、テオドールが呆れた顔で言い
「コロネ・ファンバードです。宜しくお願いします」
と、コロネが頭を下げれば
「やはり若いな」「ええ、若いですね」
と、ミカエルとアルファーにツンツンと突っつかれるのだった。
 










