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158話 神力

 さて、どうしたものかー。


 猫はコロネの手をとり考え込んだ。

 そもそも魔王は、何度も念を押すように「言ってはいけないこと」を繰り返し言った。

 それなのに何故かいつエルギフォスの襲撃があって、どうやって撃退したかも言わなければ、未来の自分が何をしていったかも教えてくれなかった。


 つまりは、魔王の記憶の中の猫もエルギフォスがいつ来るのか知らなかったのだろう。


 そして、行動に何も制限していかなかったという事は――。


 魔王の記憶の中の猫もわりと自由にやりたい事をやっていたということになる。

 自由にやらせたほうが記憶通りになると判断したから、何も言っていかなかったのだろう。

 たぶん。


 と、いうわけで、この若コロネを鍛えても問題ないわけだ!と勝手に猫は結論づけた。


 魔王が自分にやったように神力を開いてやれば猫と同じように神力を利用してスキルもどきが使えるようになるはずだ。


 魔王にはコロネに神である母親は誰か教えるなとは言われた。


 だが、神の血をひく事を教えるなとは言われていない。

 つまりは――神の血をひくことは教えていいんだろう。うん。たぶん。

 それになぜか神力の引き出し方を知っているということは、魔王が直接頭に入れてきたのだろう。

 つまりはやっていいという事だ!


 と、猫はわりと自分の都合のいいように解釈する。

 

「……猫?」


 手を取り固まってしまった猫にコロネが不思議そうに声をかけた。


「ああ、悪い。それじゃあ、ちょっと神力を引き出すのに、入口を開こう」


「……は?神力ですか?自分は大神の力は反応しませんでしたが」


 そう、コロネも女神より賜った、大神の力を測る水晶で計測は試してみたが、水晶は光らなかった。

 つまりは力は所持していないということになる。


「あー、うん。コロネが持っている神の力は別の神の力だから。

 ちなみに誰かは言えない」


「は、はぁ」


「少し違和感を感じるかもしれないけど、自分に身を任せてくれ」


 言って、猫の手が光り、コロネの身体が宙を舞う。


「うっ……くっ……」


 全身をなにか蛇のようなものがはい回るような感覚にコロネは眉根を寄せた。

 わさわさと全身を蛇が這い回り何かを探しているような感覚。


 不愉快な感覚にコロネは息をとめ耐えていると、蛇の動きが、ピタリと止まる。


「ああ。見つけた。やっぱり完璧に閉じてるな」


「閉じている……?」


「いきなり全部開くと、身体が持たないから、少しだけ道を開く。

 それでも結構きついけど……大丈夫か?」


「……それで強くなれるのですよね?」


「ああ、瞬間移動とか初歩的なスキルもどきはできるようになる」


「ならお願いします」


 力強くコロネが頷いた次の瞬間。まるで魂が無理矢理体から離されてしまうような激しい違和感にコロネはそのまま意識を失った。



 △▲△



「大丈夫か?」


 猫に問われて目を醒せば。いつの間にかコロネは自宅のベットで寝かされており、窓から見える外の景色はうっすらと暗くなっていた。

 コロネは大分長い時間気を失ってしまっていたらしい。

 

「はい、大丈夫です。不甲斐なくてすみません」


「いや、自分も気を失ったし。そんなもんだろ。

 よく頑張ったな」


 言って、そのまま猫に頭を撫でられる。

 猫はすぐ、コロネを子供扱いする。それがくすぐったくてコロネは好きだった。

 実際精神年齢が20代後半くらいの猫にとってはまだ精神年齢は人間の10代後半のコロネなど子供なのだろう。


「いま、コロネの好きなスープ持ってくるから待ってろ!

 とびっきり美味しく作ったから!」


 言ってバタバタと立ち去っていく猫の背を見てコロネはため息をついた。

 猫は本当によくわからない。

 普段は男らしいのに時々、女性的で妙に気がきく部分がある。


 かつてテオドールに、お前(猫)はコロネの母親かと、突っ込まれた事があったが、確かにそうかもしれない。


 彼はいつでも自分の保護者なのだ。


 ……未来の自分は、彼の隣に立てるくらい対等な立場にあるのだろうか?


 そんな疑問が頭をよぎり、コロネは苦笑する。

 立っていられるかではなく、いまから追い越すくらいの気持ちでやらないと。

 猫とまた再会する時、その日のために。


 △▲△


「随分と、いい顔つきになってきたじゃないか。

 何かあったのか?」


 猫と修行をはじめてそれなりの日数がたった頃、唐突にテオドールに聞かれる。


「……はい?」


「いや、随分顔つきが昔の頃に戻ったと思ってな。

 エルフの国にいたときの自信のあった頃のお前を見ているようだ」


 テオドールに言われコロネため息をつき


「はい。そうですね。

 しかしどうせ褒めたあとエルフの国にいた時は生意気だったと言うつもりでしょう?」


「なんだ。よく、わかってるじゃないか」


「ええ、あの頃は自分はなんでも出来ると思い込んでいましたから」


「気落ちすることもあるまい。

 実際お前は誰よりも魔力が高く、猫がいなければ最強の魔術師だったろう?

 猫が規格外なだけだ」


「ですが、魔力が高かったところで、政治においては何のたしにもなりません。

 それこそ猫のように一人で国一つ滅ぼせるレベルの力がなければ、力がないも同じです」


 多少戦局に有利になる程度の魔法が使えた所で、いま平和なこの世界において政治の世界では何の役にもたたない。

 自分が身に付けなければいけないことはもっと他にもいろいろある。


 言って、コロネは拳を握る。

 まだまだ覚えなければいけないことも、強くならねばいけない事も沢山あるのだ。

 いつまでもウジウジなどしていられない。


 そんなコロネの様子を見て、テオドールは微笑んだ。


 自分が帝国に連れてきてしまったせいで、すっかり怯えた子犬のようになってしまった友が自信を取り戻した事に安堵する。


 それも皆、未来からきたという猫のおかげなのだが。

 テオドールは、大神の力を持つ騎士達の稽古をつけている猫に視線を移した。

 そろそろ魔獣に備えないと!と意味不明なことを言い張り切りだし、稽古をつけるといいはじめたのだ。

 自分の事は多くは語らないが……カマをかけるとそれなりに引っかかるので、テオドールもそれなりに事情を知っている。

 まぁ、猫の場合、ワザとカマにかけられる振りをしている時もあるので、その真偽は定かではないが。

 間抜けに見えて、聡い部分もあるから、彼は侮れない。

 

 願わくば――少しでも長い間彼が自分たちといられるように。

 と、テオドールは心の中でつぶやくのだった。

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