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146話 カンナとミカエル

 話は少しだけ遡る。





「どうやら我々はこの世界に召喚されてしまったようだな」


 ギルド「空と海」の狼型の守護天使ミカエルが、そう呟いた。

 その横には栗毛の可愛い少女――カンナが呆然と周りの景色をみている。

 二人は何故か鬱蒼としげる森の中にいたのだ。


「え、えーっと。ミカエル……です……よね?」


 いままで、「ハイ。マスター」くらいしか言わなかったNPCが突如喋り出したことにカンナはおずおずと尋ねた。

 

 事の起こりは数分前に遡る。

 カンナは、ギルドハウスでいつものように猫がログインするのを、護衛NPCのミカエルと一緒に待っていた。

 ちなみにミカエルは猫の守護天使で猫の命令で常にカンナの護衛についている。

 ゲームのアテナサーバーにおいては人間型NPCは行動がワンパターンですぐ敵に突っ込み死ぬためあまり役に立たない。

 動物型NPCは乗れたりするので意外にアテナサーバーでも人気で、カンナが敵の攻撃に巻き込まれないようにと、ミカエルはカンナ専属守護天使となっていた。

 ミカエルに寄りかかりながら、裁縫をしていたのだが、急に景色が明るくなり――なぜか森の中にいたのである。


「そうだ。我はこの世界に召喚された。

 よって喋れるようになったらしい」


 ミカエルの説明にカンナはぽんっ手を叩き


「わりました!そういうイベントですね!!

 イベントでもミカエルが喋るのは嬉しいです!」


 と、嬉しそうにナデナデしてくる。


 守護天使ミカエルは覚悟した。

 この天然マスターに、異世界に召喚されたことを説明するのに、軽く一日はかかるだろうと。



 

 ▲△▲△▲△



「えーーっと。じゃあ本当にゲームの世界に入ちゃったってこと…ですか?」


 ミカエルの質問にカンナが信じられないといった表情で聞き返す。

 無理もない。

 ゲームの世界に召喚されただの、普通はそう簡単に信じられる話ではないのだ。

 なまじゲームの世界がリアルすぎたせいで、いまだゲームの延長線にいるのではないかと感じてしまう。


「そうだ。我が喋れるのがその証拠だ」


 と、ミカエル。カンナは頭を抱えて


「ううう、どうしましょう!?

 私今日猫さんとサンドラ平原に狩り行く約束してたのに!約束破っちゃうことになります!」


 力説する。


「……いや、他にもっといろいろ心配することはあると思うのだが……」


「はっ!?そうでした!

 ガーディニングで育てていたプリウスの葉やタンティーノの花とかも、私がいないと枯れちゃいます!?」


 ミカエルからすれば物凄くどうでもいいことを本気で心配しだすマスターに眩暈を覚えるが……NPC時代から知っている。

 彼女がこういう性格だということは。

 そこをイチイチ突っ込んでいたら日が暮れてしまうのも十分理解していた。


「……うぬ。もういい。

 とりあえず、だ。とりあえず人の住む地域を見つけておいたほうが……」


 ミカエルが言いかけたその時。


 ズドドドドドド


 まだ遠くではあるが物凄い爆音をあげて、何かがこちらに近づいてくる気配を感じる。


「カンナ。我の背に乗れ、何か異質なものが近づいてきている」


「異質……ですか?」


「そうだ。人間の魂が無理やりくっつけられたそんな感じのモンスターだ」


 言ってカンナがその背に乗れば、ミカエルは、カンナをのせたまま、大地を蹴り、空中へと飛んだ。

 上空から見やれば、人の乗った二頭の馬が人の顔がたくさん付いたモンスターに追われている。


「呪いで人々を無理やり合成した生物に、何やら追われているものがいるようだが……」


 ミカエルは目を細めた。

 敵自体は鑑定すればレベル100なのでレベル200のミカエルの敵ではない。

 やっかい事は避けるべきか、ここで追われている者達を助けて恩を売った状態でこの世界の事について聞くべきか――

 ミカエルが迷ったその瞬間。


「ミカエル!!助けに行きましょう!!」


 カンナの言葉に、ミカエルは今後の方針を決定するのだった。


 ▲△▲△▲△



「セバス!!お前だけでも逃げろ!!ここは俺が!!」


 馬に乗った黒髪の整った顔立ちの男が、もう一人の銀髪のまるで執事を思わせる年寄りの男に叫ぶ


「何をおっしゃりますか!あなた様を置いて逃げるなど、私ができるとでも!?」


 セバスは黒髪の男と馬を併走させ、走りつつ、その手にナイフを構えた。

 その背後には複数の顔をつけ、助けてと段末魔をあげながら四足歩行で追いかけてくる魔物がすぐそこまで迫っている。


「いくらお前でも無理だ!!レベル補正で攻撃など効かない!!」


「ですがっ!!進路をそらすことくらいはできましょう!!」


 言って、銀髪のタキシードの男が馬から飛び出し宙を舞った。


 すぐさまナイフをモンスターの一番大きな顔の目にナイフを投げる――が、そのナイフは刺さることなく弾き飛ばされた。

 だが、注意をひくには十分だったらしく、モンスターは立ち止まり執事の男に視線を向けた。


「さぁ、こちらですよ!付いてきなさいっ!!」


 言ってセバスはその身体に風の魔法をまとわせその力をかりて走り出す。

 

『せぇぇばぁぁぁすぅぅぅぅ!!』


 魔物に張り付いた複数の顔がセバスの名前を呼びながら、魔物はセバスを追いかけた。


「くそっ!!お前だけ死なせるかよ!!」


 黒髪の男――レクターは毒づいて、魔物とセバスを追おうとしたその瞬間。


「あれはなんだ」


 急に背後に現れた狼に、ひょいっと口で持ち上げられてしまう。


「――は!?」

 

 レクターが振り向いたその先には、銀色に光り輝き鎧をまとった大きな狼とその背に乗る少女の姿があった。


「なっ!?あんたたちは!?」


「話はあとです!ミカエル、あの魔物に近づいてもらえますか!?」


「まさか、あの魔物をなんとかするとか言い出すつもりではあるまいな!?」


 レクターを銜えながら器用にミカエルが言葉を発する。


「人間を合成したみたいですから、素材解体のスキルでなんとかできるかもしれません!

 合成ですから!」


「……ちょっとその理屈は無理やりすぎないか?」


 ミカエルが冷や汗をかきながら、突っ込むが


「やれるだけやってみましょう!」


 と、カンナ。

 ミカエルはやれやれとため息をつくと、一度立ち止まり、レクターを背にのせ一気に大地を蹴り宙を舞う。


「振り落とされるなよ!!」


 ミカエルが吠えると同時。魔物に向かってカンナのスキルが発動するのだった。

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