143話 素直に喜べない
うううう……あああああ、どうしよう!!!
真っ白な空間で私は盛大に頭を抱えた。
たぶんゼビウスの憎悪とやらは追い払った。
追い払ったが……正直そんなことはどうでもいい!
ゼビウス追い払ったよ!ヤッタネ✩
などと素直に喜べる状態じゃない。
やばい。超やばい。
どさくさでコロネに好きだと言ってしまった。
ほら、こういうのって心の準備とかあるじゃん。
冗談の言える今までの関係だって崩したくなかったし。
学生時代から男女の交際?なにそれ美味しいの?とゲームや漫画に明け暮れていた私に女子スキルがあるわけもなく。
交際を申し込んだらどう付き合っていいのかわからない。
何より猫様は最強厨すぎるからちょっと……と言われる可能性が高い。
もし奇跡的にOKをもらったとしても、実はシステムが言わせてましたー✩とかなる可能性だってある。
これはもうあれだ。全力で誤魔化すしかない!
「なしっ!!!コロネ今のなし!!
ほら、ゼビウスが言わせただけだから!!!!
今のは聞かなかった事にっ!!」
私がぶんぶん手を振りながらいえば
コロネは一瞬キョトントしたあと
「あ、はい」
言ってニッコリ微笑む。
おおおおお、ありがたい助かった!!
これで無理ですごめんなさいとか言われたら私立ち直れない。
え、いや待て。
でももう気持ちを知られてるんだからあんま意味ないのかこれ!?
私があわあわしていると
「……ですから猫様」
言ってコロネにひょいと抱きしめられる。
…っ!?何だこの状況!?
「私が言うことも忘れていただけますか」
言って耳もとで愛してますと囁かれる。
ちょ。なんだこれ。私に死ねと言っているのだろうか。
やばい。嬉しいやら恥ずかしいやらで悶え死ぬ。
「いや、コロネあのそのっ!!!」
私があわあわ言えば、コロネはニッコリ微笑んで
コロネが何か腕輪のようなものを私に渡す。
「え、あれ、これは」
「指定した時間の記憶を忘れる腕輪です。
猫様が、今までの関係を望みというならば、これをつけて先程の事を忘れます。
これは猫様がつけてください。そうすれば外せるのは猫様だけですから」
「え、でもそれじゃあ……」
私が上目遣いでコロネを見れば
「構いませんよ。
猫様に覚悟ができたその時に外していただければ。
例えその間に心代わりしたとしても受け止めます。
待ちますから。いつまでも」
言ってコロネは微笑む。
耳まで真っ赤になるのが自分でもわかる。
やばい。どうしよう。
「なんだかこの方法はものすごくコロネに甘えてるような気もするけれど……」
「300年待ちましたから。今から10年、20年増えたところでかわりありません。
……それに、まだ外には魔王がいます。
はやく戻らなければなりません。
猫様が戦いに集中できないのでは困るでしょう?」
と、真面目な顔でコロネ。
ああ、そうだ。
リリ達が待っている。魔王をなんとかしなきゃ。
あわあわしている場合じゃない。
「あー、うん。わかった。ごめん。
ちょっといきなりすぎて混乱してる。
覚悟をきめる時間が欲しい」
甘えすぎてるのはわかってる。
いつだってこういう事から恥ずかしい恥ずかしいと逃げ回る私をよく知ってるからこそ提案してくれてるのだろう。
なんだか敵前逃亡してるようで物凄く申し訳ないのだけれど……。
いや、やっぱり、いきなりすぎてちょっと待って欲しい。
「うん!じゃあごめんつけるから!」
言えばコロネは目だけで微笑む。
ああ、畜生やっぱりこいつイケメンだ。
なぜかちょっとふてくされつつ私はコロネに魔道具の腕輪をはめるのだった。
▲△▲
「ああ……戻ったか」
私を見るなり、魔王は口から血を流しながらそう言った。
もうその体に力はなく、かろうじて生きているといった状態だ。
リリちゃんたちと戦える状況ではなかったらしい。
私はあのあと、コロネと一緒に精神世界から戻り、現実世界に戻ってみれば瀕死の魔王とその横で構えるリリとsionのポーションで回復したアルファーとレイスリーネのザンダグロムの姿があった。
いつの間にかsionも硬質化を解いている。
私は瀕死の魔王の所に行き
「ここまでお前の計算通りだったわけか?」
私が問えば、魔王は力なく笑い
「……まさか。大神の力に異界の神が自分の憎悪を混ぜておくなど予想外だった。
もしかしたら、お前が貪欲に力を取り込んだのは、あの憎悪のせいだったのかもしれぬな」
言って満足気に目を細める。
……うん。
なぜだか知らないが、私の中で大神の力が一度目覚めたせいか……。
もしくは魔王が自分が死んだ後のために私に記憶をすり込んだかだかしらないが私はこの世界の生い立ちを知っているようだ。
なぜかすらすらと頭の中にはいってきた。
もともと、この世界は、審判の御子に滅ぼされそうになった世界を、寸前でコロネが審判の御子と魔王を飲み込んで再構築した世界だ。
その時、知の神レジーナの助言で時代を巻き戻しゲーム化した。
私たちと一緒にいるコロネも決してレプリカなんかじゃない。
テオドールと同じで、魂が二分した状態なのだ。
審判の御子と魔王に意識を乗っ取られないように、保険として魂を別々にし、深層部分においてはまだ魂は結びついている。
つまり、性格は全然違うが根底は一緒なわけで。
「アルファー、魔王の回復を頼む」
「なっ!?」
アルファーと魔王の声が同時にはもった。
「な、何を考えているのです!?
相手は魔王ですよ!?」
と、アルファー。
「私が死ねば、神々が蘇るのだぞ!?」
血を吐きながら魔王が立ち上がろうとする。
「あーーもう!!
お前も結局は根底はコロネなんだよ!
なんでそうやってすぐ自己犠牲に走るかな!?
こっちのコロネも魔王コロネも!!
このマゾ!!変態!!
このW自己犠牲厨が!!」
私が怒鳴れば
「なんだか巻き添えでコロネ怒られてる」
と、後ろでは小声でリリがコロネにつぶやいている。
コロネは所在無さげに視線をさまよわせただけだった。
「神の力なら、もうコロネの背中の紋章に私の分はもっていかれたからな?
あとはクリファか魔獣あたりの神の力を注ぎ込めば、コロネの紋章も光るはず。
神の力を誰ももってない状態は世界的にはやばいんだろ?
だから、もし神々が復活できなかったための保険にお前は私の神の力を解放して、私を神化しようとした。
違うか?」
私の問いに魔王は口ごもる。
つまるところ、図星だったのだろう。
魔王が死んで、神々に神力を与えたあと、もし、神々が復活できなかった場合。
この世界を維持する神が居なくなってしまう。
だから保険として私を神様にしようとしたのだ。
ああ、まったく、コロネの分身らしい考えである。
魔王は大きくため息をつき
「……まさか、神の力だけ抜き出すなどという事が可能なのか?」
後半部分にはまったくふれず前半部分にだけ問う。私はコクりと頷いて
「精神世界に来たコロネが直接もっていった」
私の言葉に魔王はああ、という表情をして、
「なるほど。その手があったか……」
そう呟くと、魔王はそのまま意識を失うのだった。










