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141話 神の憎悪


 痛い。ただひたすら痛い。


 ああ、この痛みは――覚えがあった。

 両親と兄が死んだときの痛みに似ている。


 心が闇にドロドロと溶けていく感じ。

 もやもやしてムカムカして。

 どうしようもない怒りに心が囚われて。


 それでも何もできなくて。


 現実は何一つかわらなくて。


 それでも死は認められなくて。


 苦しくておかしくなりそうで――もうこのまま死んでしまったほうが楽なんじゃないかなと思えたりして。


 あの時の痛みを、思い出す。

 

 ああ、魂が何かに呑み込まれていく感じ。


 これが神の力というやつなのだろうか。

 私はこのまま呑み込まれてしまうのだろうか。


 ――でもダメだ。

 もしこのまま呑み込まれたら。

 魔王と対峙しているリリやコロネ達が危ない。


 勝たなくちゃ。なんとしても勝たなくちゃ。

 私はもう二度と、大事な者を失いたくない。


 あの時は何もできなかった。

 

 ただ呆然と沈んでいく車をみているしかできなかった自分。


 力が欲しい。

 全てを救える力が。


 どんなに祈っても父と母や兄を助けてくれなかった神様なんてあてにならない。

 私が力をもたないといけないんだ。 



 今は何かができる力が私にはある。

 いまも、この力にさえ打ち勝てれば、みんなを救える。


 力があるのだ。私には力が。


 そう、全てを破壊できるその力が!!!





 私は、そこで意識を覚醒する。


「ね……こ…さま?」

「ネコ……?」


 私が目を醒せば、すでに魔王と戦闘を開始していたのだろう、傷ついたコロネやリリ。

 すでに血だらけになって倒れてるアルファーにレイスリーネとザンダグロムの姿があった。


 ああ、うちの子達に手をだすとはいい度胸だ魔王。

 コロネと同じ顔というだけで手加減してもらえると思わないでほしい。


 私が魔王の方に視線を向ければ、宙にプカプカ浮いた状態の魔王は歓喜に満ちた表情でこちらを視ている。


「力を解放させたか」


 男が言う。知らんがな。


 私は一瞬で男の背後にまわるとそのまま光の鎌で男に切りかかる――が、躱される。

 男は瞬間移動でも覚えているのだろう。何故か軽々と私の攻撃を躱したのだ。


 ああ、忌々しい。

 視線を凝らして男を見やれば、男にはもう原初の巨人の力はそれほど残っていない。

 恐らく世界を作るとき、そしてマゼウスを倒すとき力をほぼ使い果たしたのだろう。


 神の力の残りカスの分際で。私に逆らうとはいい度胸だ。


 私は鎌をさらに巨大なモノへと変化させる。

 全てを混沌と滅亡へと導く、破壊の鎌へ。


「……大神の他に異界の神ゼビウスの力がわずかに感じられる。

 まさか魂の中に憎悪を埋め込んでおいたということか。

 どうやらお前は力に呑み込まれたようだな」


 黒い鎧をきた男は私を睨みつけながら、そう言った。

 力に呑み込まれた?何のコトだ?

 私は私だ。


「ネコ!!どうしたの!おかしい!!」


 銀髪の少女が私に向かって叫ぶ。


 猫?


 にゃーって鳴く猫だろうか?


 この女の子は何を言っているのだろう。

 言っている意味がわからない。


「猫様!!しっかりしてください!!貴方はそんな力に溺れるような弱い人ではないはずですっ!!」


 茶髪のエルフが私に叫ぶ。


 何を言ってるんだこいつ。

 てかこいつ黒い鎧のやつと顔が一緒だし。

 双子か何かなのだろうか。


 ああ、面倒だ。全て破壊してしまえばいい。


 神になど祈った所で何もしてくれない。

 信じられるのは自分の力だけなのだ。


 自分が望むまま、全てを破壊しまくればいい。

 

 私の家族を奪った悲しみしかない世界など滅びてしまえばいいのだ。


「竜人、我が半身よ、一時休戦だ。

 あれを止めねば……世界は滅びる!!

 よもや、こんなところにトラップを残しておいたとは、ゼビウスめ!!」


 黒い鎧の男が叫び、私に切りかかってくる。が、遅い。

 私は軽くその剣を手で受け止めると、そのまま剣ごと男を薙ぎ払った。

 そのあとに少女が鍵爪のようなもので殴りかかってくるが、それも指先ひとつで振り払う。

 少女と黒い鎧の男はそのまま飛ばされ、壁にぶつかり崩れ落ちた。

 だが、黒い鎧の男は諦めず、いくつもの黒い円錐を私に向けてぶつけてくる。


 ああ、うざい。 


 私は神力でその円錐の流れをかえると、逆に黒い奴にぶつけてやる。


「――ぐはっ!!」

 苦悶の声をあげて倒れ込む男。

 ああ、弱い。よくこれで私に挑んできたものだ。


 思った瞬間。地にひれ伏していたはずの天使がどうやって回復したのかはしらないが、私に向けて殺気を放ってくる。


 ああ?私に勝てると思っているのだろうか?あの雑魚の黒い奴にやられていた分際で。

 忌々しい。存在自体消滅させてくれよう。跡形もなく。


 私がそう思って鎌を振り上げたその瞬間。


 私と天使の間に茶髪のエルフが割り込んだ。


「いい加減目を覚ましてください猫様っ!!!!」


 何を言ってるんだろう。このエルフは。

 猫なんてどこにも寝ていないじゃないか。


「無駄です!!コロネ様っ!!!逃げてくださいっ!

 あれは猫様じゃない!!ゼビウスの憎悪の念です!!」


 天使がエルフを守ろうとしてこちらに駆け寄ってくるが――


 間に合うとでも思っているのだろうか。


 まずはこのエルフから。

 魂すらも消滅させるこの鎌で滅してみせよう。

 

 思った瞬間。身体が止まる。

 違う、私がしたいのはこんな事じゃなかったはずだ。


 刹那。


 ぬくもりを感じて私は目を見開いた。

 いつの間にかエルフに抱きつかれていたのだ。


「……なっ!?」


「いい加減っ!!猫様の身体を返しなさい!!!」


 エルフが言うと同時、思考に何かが直接入り込んでくるのだった。


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